世の中で活躍している科学者は、いかにして科学の魅力を見つけたのか、どうして科学者になろうと思ったのか、どうやって困難を乗り越えてきたのか?
科学者たちの「芽生え」の瞬間を、まんがで見てみよう!
まんが/まきのこうじ 構成・文/石田童子
「嫌いなことはやらないほうがいい」
細野秀雄さんが語る、なりたい仕事に就くための、子どもたちへのメッセージ
――子どもの頃から科学が好きだったのですか?
理科の中で生物には全く興味がなく、化学の実験が好きでした。社会も好きでしたが、地理は苦手で歴史が好きでした。同じ科目の中でも好きなものと嫌いなものがはっきりしている子どもでした。研究者になりたいと目指していたわけではないけれど、好きなもの、面白いことを続けていったらいつの間にか研究者になってしまっていました。とてもラッキーでしたね。
――好きなことを続けるのが好きな仕事に就くこつでしょうか。
私はどちらかというと人生は「消去法」を勧めます。嫌いなことはとことんやらない。子どもの頃も、若手研究者の時も、嫌なことは徹底的に避けてきた。それが良かったのだと思います。好きなことや興味があることはたくさんあるので、選ぶのが大変でしょう。ところが嫌いなものは瞬間的に分かる。選ばなくても分かるものだから、「嫌い」を避けるほうが簡単なんですよ。そうして、嫌いじゃないものの中からタイミングが合ったものを選んでいけば、比較的好きな道に進むことができるのではないでしょうか。
――物質科学の分野で様々な大発見をしましたが、ご自身ではどの発見がいちばん印象的ですか?
私の中では、電気を通すセメント「C12A7」が一番の大発見です。電気が流れる「ガラスの半導体」は「IGZO」に発展し、有機ELテレビや液晶ディスプレイなどで産業界に大きな貢献をしました。「鉄系超伝導」は、停滞していた超伝導界に大きな影響を与えたと、世界中の研究者から賛辞をいただきました。でもこれら二つは、あと10年、20年後にはほかの誰かが発見できたかもしれません。しかし「C12A7」は私でなければ発見できなかったでしょう。私は有機物理化学、無機物理化学、セラミックス、ガラス…様々な研究を経て、今は酸化物の研究をやっています。そうした今までの研究が結びついて「C12A7」につながったと自負しています。これを発見した時は体が震えました。あのような経験は、研究人生の中でもなかなかありませんよ。
――物質科学を研究する醍醐味とは?
自分たちの考えたものが、世の中でどんどん進化して使われていくようになるところです。また、その過程を見られるのが一番面白いところですね。世の中の困っている問題を解決するために使ってもらえるのは非常に喜ばしいことです。ただそれは、最初から「役に立つものを発見しよう」としていたのでは見つからないものです。世の中に残る研究というのは、必ず「神の采配」ともいうべき偶然があると思います。私がこの研究に入ったのは、学生時代の尊敬する方たちの助言や、他人が選ばなかった道の選択、ふとした実験からの導きなど、様々な偶然があったからです。自分のやるべきことを真摯に、真剣にやっていけば、壁を乗り越えるためのヒントに導かれるものなのではないでしょうか。
細野 秀雄 さん
1953年生まれ。埼玉県出身。東京工業大学フロンティア材料研究所教授、同元素戦略研究センター長。「ありふれた材料」からの数多くの新発見により世界中から注目を集める。日本国際賞、恩賜賞・日本学士院賞、紫綬褒章などを受けている。