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AIが創作をサポート アートがもっと楽しくなる!

2019.01.09

自ら作品を作るAIの登場は、アートの世界に新しい風を吹き込んだ。さらに、人間の創作活動をサポートするAIがアートと人間の距離を近づけ、人間とAIのコラボレーション作品も生まれている。今、AIとアートの融合は、どのような広がりを見せているのだろうか。

AIがアート作品を創作

ここ数年、AI(Artificial Intelligence : 人工知能)が創作したアート作品の話題を耳にすることが増えている。その代表格ともいえるのが、2016年に発表された「The Next Rembrandt(次のレンブラント)」。アメリカのソフトウェア会社のマイクロソフトや、オランダの大手金融機関のINGグループ、レンブラント博物館、デルフト工科大学などが行った大規模プロジェクトで、AIの機械学習によって、17世紀を代表するバロック絵画の巨匠・レンブラントの"新作"を作り出した。

このプロジェクトでは、AIにレンブラントの全346作品を読み込ませ、タッチや色使い、構図などから「レンブラントらしさ」を学ばせた。そうして数値化したレンブラントの特徴をもとに、AIが新しい絵画を描く作業は、コンピューターを稼働させ続けても500 時間を必要とする高度なものだった。しかも、絵画は3Dプリンターで出力され、レンブラントの油絵のような質感や、絵具の凹凸までもが表現されている。

2018年10月には、AIの描いた絵が伝統あるオークションで数千万円の値段をつけた。この作品はフランスの研究者やアーティストらのグループによるもの。14世紀から20世紀に描かれた1万5000点もの肖像画データを読み込ませたAIが、自ら作り出した。それまでにはない「AIのオリジナル作品」として大きな話題になった。

人間の創造性を拡張

オリジナル作品を創作できるほどの高度なAIが作られる一方で、手軽にアートを楽しめるようサポートしてくれるAIも多数登場している。

例えば、画像データをさまざまなタッチに加工できるスマートフォンアプリを使えば、誰もがデジタルアートを手軽に楽しむことができる。音楽の世界では、専門知識がない人でも簡単に作曲できるアプリがたくさん作られている。AIによって誰もがアートに触れ、創作する喜びを体験できる環境が生まれているのだ。

世の中には「AIに仕事を奪われる」という不安から、AIが創造性を持つことに否定的な人もいる。しかし、AIによる創作ツールを使うことは、むしろ人間の表現の可能性を広げると考えることもできる。

ここで紹介するさまざまなAI技術から、創作する喜びや、アート作品を見たときの高揚感などをイメージしてもらいたい。

AI×絵画

写真を自分好みの絵画に加工 Artomaton(futurala)

加工したい写真と画材を選ぶだけで、自動で手描き絵画のように加工してくれるアプリ。画材は、油絵、スケッチ、色鉛筆、チャコール、マーカーの5種類で、キャンバス素材も数種類から選ぶことができる。線の太さや粗さ、明るさ、コントラストを調整して自分の好きなタッチに仕上げることもできるので、自分で絵を描くときのお手本にも使える。

AI×音楽

AIが自分で作詞した曲で歌手デビュー AI Tommy(J-WAVE)

FMラジオ局J-WAVE(81.3FM)のAIアシスタント「Tommy」は、IBMのAI「Watson」により誕生した。J-WAVEが過去にオンエアした楽曲データベースから瞬時に最適な曲を選択したり、ゲストの性格分析をしたりするなど、番組のアシスタントとして活躍。2018年9月には、世界中の名曲を学習してTommy自らが作詞した曲「INNOVATION WORLD」で、歌手「AI Tommy」としてデビューを果たした。

(画像提供:J-WAVE)
(画像提供:J-WAVE)

AIとアーティストのコラボレーションで作曲 akaihane(東京都市大学/大阪大学)

AIに基づく自動作曲システムとフォークデュオ「ワライナキ」のコラボレーションにより作られた曲で、共同募金運動70周年記念応援ソングとして発表された。「応援」「助け合い」「あたたかい」というイメージのある3曲をワライナキの曲から選曲。その曲を学習させたAIが自動で作ったメロディーをベースに、ワライナキが作詞・作曲して完成した。

ワライナキの白井大輔さん(左)と、AIを開発した東京都市大学の大谷紀子教授(右) (画像提供:東京都市大学)
ワライナキの白井大輔さん(左)と、AIを開発した東京都市大学の大谷紀子教授(右) (画像提供:東京都市大学)

誰でも演奏を楽しめるAIとの「共奏体験」 Duet with YOO(ヤマハ)

プレーヤーの演奏をリアルタイムで解析し、自動演奏ピアノとの「共奏」を実現するパートナーAI「YOO(ユー)」。音楽を楽しむために、人と楽器をつなぐ存在として開発された。ピアノ未経験者が指1本で弾くような演奏でも、その人のテンポや表現に合わせた伴奏をすることができるインスタレーションで、合奏する楽しみを味わえる。

画像提供:ヤマハ
画像提供:ヤマハ
画像提供:ヤマハ
画像提供:ヤマハ

AIでダンサーがピアニストになる 舞・飛天遊(東京藝術大学/ヤマハ)

2017年11月に東京藝術大学COI拠点が主催したコンサート「舞・飛天遊(まい・ひてんゆう)」。世界的ダンサーの森山開次氏が、身体表現でピアノを演奏した。

森山氏の身体に取り付けたセンサーが、ダンスによる動きをリアルタイムで検出。これをヤマハのAI演奏システムが音符に変換し、自動演奏ピアノを演奏する仕組みになっている。このコンサートで森山氏は「ピアニスト」として、ベルリンフィル・シャルーンアンサンブルとともに楽曲「舞・飛天遊」を演奏し、「ダンスとピアノの融合」という新たな表現方法を示した。

画像提供:東京藝術大学(撮影:進藤綾音)
画像提供:東京藝術大学(撮影:進藤綾音)
画像提供:ヤマハ
画像提供:ヤマハ

AI×映像

数学と身体表現を近づけることで生まれるダンス
discrete figures(ライゾマティクスリサーチ/イレブンプレイ/カイル・マクドナルド)

アメリカ、カナダに続いて、2018年8月に日本で公開されたダンスパフォーマンス作品。音楽に合わせて瞬時に作られる即興ダンスをAIに解析させて数値化。インターネット上にある膨大な数の舞台映像や映画のシーンから、そのダンスに似たポーズを持つ映像素材を探し出してプロジェクションマッピングで表示。さらにドローンなどのハードウェアも組み合わせ、今までにないダンス表現を作りだした。

discrete figures (画像提供:ライゾマティクスリサーチ photo by Tomoya Takeshita)
discrete figures (画像提供:ライゾマティクスリサーチ photo by Tomoya Takeshita)

視線の先にさまざまな花が咲き乱れる 視線で花咲くアート展 (NEC)

その瞬間、その空間に、偶然集まった人たちとAIが協調することで、世界でただ一つの作品を作り出す展示。2017年11月に開催された。NECのAI技術「遠隔視線推定技術」で、プロジェクションマッピングのスクリーンを見ている人たちの視線をカメラ画像からリアルタイムで推定。視線の先に花を咲かせる。鑑賞者の人数が増えることで、表現されるアートはより多彩になっていく。

(画像提供:NEC)
(画像提供:NEC)

AI×文学

AIの書いた短編小説が文学賞の一次審査通過 作家ですのよ(公立はこだて未来大学)

「気まぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」は、2013年にスタートしたAIによる短編小説生成プロジェクト。SF作家・星新一のショートショート1000編から、文章構成や発想法を解析し、AIが小説を書いた。AI(ペンネームは"みかん愛")が書いたショート作品「私の仕事は」は、2016年に第3回星新一賞に応募し、一次審査を通過した。

※ショートショート: 短編よりさらに短い超短編小説。

1秒間に40句を作り出して人間と対決したAI俳人 一茶くん(SAPPORO AI LAB)

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