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映画の感動をすべての人に

2019.01.09

大画面と迫力の音声で感動を得られる映画。その感動を、誰もが同じ環境で味わえる社会へ。スマートフォンアプリ「UDCast」の登場で、映画のユニバーサルデザイン化が進んでいる。(取材協力:Palabra株式会社)

上映機会が限られていたバリアフリー版映画

「UDCast」は、映画のバリアフリー対応のための音声ガイドや字幕ガイドをスマートフォンなどの携帯端末に提供するアプリケーションだ。「視覚や聴覚に障害がある人にも映画を十分に楽しんでいただきたい」と、UDCastを運営するPalabra株式会社の代表を務める山上庄子さんは語る。

Palabraは、聴覚に障害のある人のために映画の「音」が伝えている情報を文字で表現した「字幕ガイド」と、視覚に障害のある人のために映画の「画」が伝えている情報をナレーションで説明した「音声ガイド」を、主に制作している。「映像や音声で得られる情報が限られている人でも内容をスムーズに理解できるよう、映画製作者の意図を汲んだガイド情報の制作を心掛けています。日本では年間約1200本の映画が公開されていますが、2年程前まで、そのうちの8本程度しか音声ガイドは付いていませんでした」(山上さん)。音声ガイドの提供には、専用の機器や操作 するオペレーターが必要なため、上映する映画館が少なく、日時も限られていた。また、 字幕ガイド付き映画は、字幕ガイドを必要とする人に向けて特定の日時・映画館で上映されていた。そのため、バリアフリー版映画を鑑賞するには、上映される限られた機会に合わせて足を運ぶ必要があった。

必要な人に必要な情報を提供できるアプリ

UDCastは、事前に対応する映画のガイドデータをダウンロードしておけば、イヤホンから音声ガイドが聞けたり、メガネ型端末に字幕ガイドが表示されたりする。そのため、どの映画館でも、どの上映回でも、ガイド情報付きで映画を楽しめるのだ。

利用者からは「ふらっと映画館に立ち寄って、気になる映画がいつでも楽しめます」、「これからは友人と一緒に映画館に足を運べるようになるので楽しみです」といった声が寄せられている。


手軽さ・身近さを実現した「音声」の技術

UDCastがガイド情報を再生するときに合図としているのが、映画そのものの「音声」だ。UDCastは、スマートフォンなどの携帯端末のマイクで拾った音声と、あらかじめ映画本編の音声を解析したデータを照合し、いま流れているのはどのシーンかを判断して、対応するガイド情報を再生している。そのため、映画の途中からでもシーンに合ったガイド情報が再生される。事前にダウンロードしたデータを使用するので、上映中に通信する必要がない。また、映画館での上映に限らず、テレビやDVDで観賞するときも同じガイド情報を利用できる。

UDCastとバリアフリー映画の広がり

UDCastのサービスを本格的に開始したのは、2016年の夏。音声ガイド対応から広まり、大手の映画製作・配給会社、関係者によって普及活動が行われてきた。2018年には、UDCastを使って音声ガイド付きで楽しめる映画は年間60本以上となり、字幕ガイドに対応する映画も増えている。

「映画製作に携わる人に共通した思いは、一人でも多くの人に映画を届けたいということ。映画が公開されるときには音声ガイドや字幕ガイドが付くのが当たり前になれば、より多くの人に好きな映画を楽しんでもらえる社会の実現に近づくと思います」(山上さん)

ユニバーサルデザイン化で映画文化を支えたい

音声ガイドや字幕ガイドは視聴覚障害者のためだけのものとはいえない。ガイド情報には、映像や音で表現されている内容や効果など、それぞれのシーンのポイントが盛り込まれているため、その映画を深く理解する手助けとなる。「2回目はガイドを使ってみよう」という楽しみ方もできる。

UDCastでは、ガイド情報以外にも、多言語対応データの提供が可能だ。母国語の音声データを選んで再生するだけで、母国語が異なる人同士でも同じスクリーンを見て楽しむことができる。

「障害の有無や言語に左右されず、誰もが気軽に映画を楽しめる環境を整えることが、映画文化を守り育てることにつながると考えます」(山上さん)

映像や展示などに新しい価値を

また、UDCastで映画の楽しみ方が広がる可能性があると山上さんは語る。「シーンに合わせて監督や出演者の解説なども流すことができます。ファンが喜ぶ内容を提供できれば、映画館に足を運んでもらう機会も増えるのではないでしょうか」

映画以外にも、「沖縄美ら海水族館」では展示映像や案内放送の多言語字幕などを提供している。山上さんは「今後はUDCastに限らず、演劇やショーなどのユニバーサルデザイン化にも取り組んでいきたいです」と、誰もが同じ空間で一体となって文化芸術を楽しめる社会を目指している。

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