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カガクのめばえ 第2回 寺川 寿子 さん

2018.10.17

世の中で活躍している科学者は、いかにして科学の魅力を見つけたのか、どうして科学者になろうと思ったのか、どうやって困難を乗り越えてきたのか?
科学者たちの「芽生え」の瞬間を、まんがで見てみよう!

まんが/まきのこうじ


数学の世界から地震研究の道へ
地震の仕組みの解明に挑む寺川寿子さんが語る 研究の意義と子どもたちへのメッセージ

――猿橋賞の受賞理由となった、「地震活動を支配する地殻応力と間隙流体圧に関する研究」とはどのような研究ですか。

地震は、プレート運動によって地下に蓄えられた力を、断層が動くことによって一気に減少させる物理現象です。地震は、断層に働く力が長い時間をかけて大きくなり、限界(断層の強度)に達した時に起こります。また、地下の断層のすき間にある水の圧力を「間隙流体圧」といいますが、この力が高まると断層の強度が下がり、断層に働く力がそれほど大きくない状態でも地震が発生することもありそうだと理論的に考えられていました。

このように、地震発生のメカニズムを理解するには、地下の力の状態(地殻応力)や断層の強度を知ることが重要ですが、実際に測ることが難しいため、さまざまな試みがなされているところです。

私の研究では、地震の観測データを分析して、地下に働く力の状態や、地震が発生した時にどれだけの間隙流体圧が働いていたかを推定する方法を開発しました。これらの方法で実際に発生した地震を解析し、日本列島の地下に働く力の状態や、水の働きにより断層の強度が下がった時に多くの地震が発生しているという証拠などを示すことができました。

――それは地震の予知などに役立つものですか。

いえ、すぐに結びつくものではありません。そもそも地震のメカニズムは複雑で、まだ解明されていないことがたくさんあります。私の研究は、地下の力の状態を知る手がかりの一つです。

ただ、すぐには地震の予知につながらなくとも、その研究を発展させる過程で、一歩一歩地震の発生メカニズムを理解することは重要だと思います。

――子どもの頃から地震に興味があったのですか。

地震の勉強は、社会人になってはじめました。子どもの頃は数学が好きで、習った数式を使いこなして答えにたどりつく過程を考えるのが楽しかったです。

地震の研究も、これまでの研究法や考え方を総動員して、複雑な現象の奥にある謎を解き明かしていきます。そう考えると似ているかもしれませんね。

――学校で理科を学ぶ子どもたちに、伝えたいことはありますか。

大切にしてもらいたいことが二つあります。一つは「不思議」と感じる心。そしてもう一つは「学校の勉強」です。

何かを見て「不思議」と感じるのは、それまで自分の世界の中になかった新しいものと出会ったということです。そこで「なぜ不思議と感じるのだろう」と立ち止まって考えられれば、さらに自分の世界を広げるチャンスとなります。

そして学校の勉強は、今は何に役に立つかわからないかもしれませんが、横につながって役に立つ時がきます。数学や理科の世界で研究してきた私ですが、小学校の頃に作文が得意だったことは、今、自分の考えを論理的に説明して議論を深めたり、自分の考えを整理したりする力につながっています。

寺川 寿子 さん

1968年、東京都出身。理学博士。名古屋大学大学院環境学研究科附属地震火山研究センター准教授。2018年、優れた女性科学者に贈られる「猿橋賞」受賞。

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