世の中で活躍している科学者は、いかにして科学の魅力を見つけたのか、どうして科学者になろうと思ったのか、どうやって困難を乗り越えてきたのか?
科学者たちの「芽生え」の瞬間を、まんがで見てみよう!
まんが/まきのこうじ 構成・文/さくらい伸
ノーベル生理学・医学賞受賞者の大村智さんが語る いま子どもたちと、理科・科学を教える先生に伝えたいこと
――子どものころ、おばあさまに「いつも人の役に立つことを考えなさい」と言われ、それが人生の指針になったそうですね。
「祖母は折に触れてそう言っていましたし、私の父と母も日ごろから実践していました。私は父母の背中を見て学び、選択が迫られる場面ではいつも、どちらがより人のためになるのかをいつも考えました。北里大学薬学部の教授だったころ、教授を続けるのではなく、縮小する北里研究所を立て直すことを選んだのも、そちらのほうが世の中に対してより貢献ができると考えたからです。結果として研究所での研究がノーベル賞につながるわけですから、当時の選択は間違っていなかったと今でも思っています」
――研究室では、さまざまな専門分野にたずさわる人たちと共同で研究が進められているそうですね。
「数名の研究員からスタートした小さな研究室でしたが、最初に考えたのは『私のコピー(模倣)を作らない』ということでした。多くの研究室では、研究員がトップにいる教授と似たような研究をするようになりますが、むしろ私ができない分野の仕事をする人間を育てようと思いました。それぞれが微生物の専門家や有機合成の専門家などになって、その上で共同研究をすることによって、いい研究ができるのです。『論語』に〈君子は器ならず〉という言葉があります。上に立つ者は、一つのことにかたよることなく幅広く能力を発揮すべき、という意味ですが、上に立つ者は、全体を見て、それぞれのいいところを引き出すことが重要なのです」
――研究以外でも美術作品のコレクターとしても知られ、コレクションを故郷・山梨の韮崎大村美術館で一般公開しています。美術への興味は自身の視野を広げるためですか?
「絵画など美術品を鑑賞するのが好きだからです。研究で行き詰まった時などに、家に帰って好きな絵を眺めていると心が落ち着き、いやされ、そして励まされました」
――子どもたちの理科・科学教育において大切なこととは何だとお考えですか?
「まず大切なのは自然との触れあいです。子どもたちを山や川に連れて行き、『何かおもしろいものを探してごらん』と言うのが理科教育の第一歩。最初から説明して答えを教えるのではなく、不思議なもの、面白いものを自分たちで見つけさせて、必要があればその後で先生が教えればいいのです。先生は、子どもの中の“サイエンスの芽”をつまないようにしなければならない。そのためには小学校に理科専門の先生を置く必要があると私は考えます」
大村 智 さん
1935年、山梨県韮崎市生まれ。薬学博士、理学博士。北里大学特別栄誉教授、文化功労者。2015年、文化勲章受章、ノーベル生理学・医学賞受賞。