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乗りものの歴史

2018.07.31

ライト兄弟のフライヤー号
ライト兄弟のフライヤー号

人の歴史は、移動の歴史と言っても過言ではない。自分の足で移動するほかなかった人はやがて「乗りもの」を手に入れ、どんどん遠くを目指した。陸、海、空、そして宇宙へ。乗りものの歴史を紐解いて、人々の生活や社会がどのように発展してきたのかを振り返ってみよう。

ボーイング707
ボーイング707
ベンツ ヴェロ
ベンツ ヴェロ
古代エジプトの船
古代エジプトの船

動物や自然の力を利用することで「乗りもの」の歴史は始まった

 自動車、電車、船に飛行機。人は多くの乗りものを使って、世界のどこへでも素早く移動することができる。だが、人は最初から「乗りもの」を持ってはいなかった。人の長い歴史の中で、乗りものが誕生するのは、「最近の話」なのだという。

 現在記録が残っている古い乗りものの一つに、紀元前1万年頃の船の原型となるものが知られている。丸太や木の枝を束ねただけの簡素な「いかだ」を作り、水に浮かべて人力で移動して魚を捕っていたという。風の力を使う帆のついた船ができるのは、かなり後の紀元前3000年頃とされる。また、陸上では紀元前5000年頃から荷物を運ぶ方法として、ロバなどの動物が使われるようになっていた。

 紀元前3000年頃になると、人は馬に乗り始める。人力から動物へ。人が歩いて移動する速さをはるかに超える馬に乗ることで、それまでとは比べものにならないほど速く、より遠くへ移動することができるようになった。さらに時代が進むと街道を舗装などで整備して、馬やロバなどが引く車輪付き車などを使うようになる。こうして乗りものを使った移動の歴史は始まった。

 ヌマジ交通ミュージアム(広島県)で鉄道文化を中心に研究をする田辺あらしさんは、乗りものが発展してきた歴史についてこう話す。「古代から現代まで乗りものは大きく進歩しましたが、人が乗りものに求めてきたものはずっと変わりません。『より速く、より遠くへ、よりたくさん運ぶ』。乗りものが進歩することで、それまでに行ったことがないところに行き、見たことがないものを見て、異なる文化に触れられるようになりました。そのようにして乗りものは、人の生活や文化の発展に大きく寄与してきたのです」

自然や動物の力に頼る時代

自然や動物の力に頼る時代
エジプトの船(紀元前2010-1961) エジプト王朝の王の墓から出土された木製の船の模型。
エジプトの船(紀元前2010-1961) エジプト王朝の王の墓から出土された木製の船の模型。
車馬坑(紀元前1350-1046) 貴人の墓に副葬されていた車馬。中国河南省安陽市にある遺跡で発見された。
車馬坑(紀元前1350-1046) 貴人の墓に副葬されていた車馬。中国河南省安陽市にある遺跡で発見された。
アッピア街道(紀元前312-) イタリア・ローマと南イタリアを結ぶ舗装路で、紀元前244年当時の全長は375kmもあったとされる。
アッピア街道(紀元前312-) イタリア・ローマと南イタリアを結ぶ舗装路で、紀元前244年当時の全長は375kmもあったとされる。

蒸気機関の発明からガソリンエンジンへ、乗りものの進化は加速する

 動物や風など自然の力を利用していたそれまでの乗りものを大きく変えたのは、「蒸気機関」の発明だった。ボイラーで発生させた水蒸気を動力源とする蒸気機関車は、登場した1800年代始め頃は速さこそ時速13km 程度と遅かったが、馬車とは比べものにならないほど多くの荷物や旅客を運ぶことができた。蒸気機関は、同じく発展途上にあった土木技術も大きく発達させ、鉄道や道路が拡張されていった。

 動物や風など自然の力を利用していたそれまでの乗りものを大きく変えたのは、「蒸気機関」の発明だった。ボイラーで発生させた水蒸気を動力源とする蒸気機関車は、登場した1800年代始め頃は速さこそ時速13km 程度と遅かったが、馬車とは比べものにならないほど多くの荷物や旅客を運ぶことができた。蒸気機関は、同じく発展途上にあった土木技術も大きく発達させ、鉄道や道路が拡張されていった。

 動物や風など自然の力を利用していたそれまでの乗りものを大きく変えたのは、「蒸気機関」の発明だった。ボイラーで発生させた水蒸気を動力源とする蒸気機関車は、登場した1800年代始め頃は速さこそ時速13km 程度と遅かったが、馬車とは比べものにならないほど多くの荷物や旅客を運ぶことができた。蒸気機関は、同じく発展途上にあった土木技術も大きく発達させ、鉄道や道路が拡張されていった。

 「炭鉱技術として開発された蒸気機関は、強い圧力に耐えられる鉄を作る技術や設計技術の向上により、ボイラーの小型化、パワーアップを実現しました。そうして進化したボイラーを機関車に搭載し、蒸気機関車が誕生したのです。乗りものが発展したおかげで遠くまで資源を大量に運べるようになり、さまざまな材料を使った新しい技術、製品が造られるようになりました。そうした技術がまた次の乗りものに生かされるというように、産業革命以降、科学技術と乗りものは互いに発展し合ってきました」(田辺さん)

 ガソリンエンジンで走る車が誕生したのは1800年代後半だ。駅から駅へ、決められた時間に発車する機関車に乗って移動するのとは異なり、自動車ならば好きな時に好きな場所へ行くことができる。工業技術の発展は“大量生産”を可能にし、人々が自家用車を所有することは夢ではなくなった。

 さらにエンジンの技術が高まり小型軽量化したことで、それまでの人類は想像もしなかったであろう空の旅が現実のものになった。

発明と技術革新の時代

発明と技術革新の時代
日本初の国産蒸気機関車(1893) イギリス人技術者の指導を受けながら造られた860形。
日本初の国産蒸気機関車(1893) イギリス人技術者の指導を受けながら造られた860形。
ベンツ ヴェロ(1894) ドイツ・ベンツ社初の四輪車ヴィクトリアの小型車。(画像提供:トヨタ博物館)
ベンツ ヴェロ(1894) ドイツ・ベンツ社初の四輪車ヴィクトリアの小型車。(画像提供:トヨタ博物館)
ライト兄弟のフライヤー号(1903) アメリカ・ノースカロライナ州で有人動力飛行に成功。初飛行で約37mを飛んだ。
ライト兄弟のフライヤー号(1903) アメリカ・ノースカロライナ州で有人動力飛行に成功。初飛行で約37mを飛んだ。

「より速く、より遠くへ、よりたくさん運ぶ」から、環境や社会にやさしい未来の乗りものへ

20 世紀半ば以降になると、ジェットエンジンを搭載した大型旅客機など、高速で大型の乗り物が次々と開発され、多くの人がより大きな移動をすることが可能になった。そして1960年代には、人は宇宙にも行けるようになった。今では、火星への有人探査計画が進むなど、人の宇宙進出が続いている。

こうして、「乗りもの」は多くの人々が自由に移動できる社会をつくったが、同時に、環境問題やエネルギー問題、安全性の問題など社会課題ももたらした。乗りものは「速く、遠くへ、たくさん運ぶ」だけでは成り立たなくなった。

現在、電気自動車や水素エンジンなど、化石燃料に頼らない乗りものの開発が進んでいる。また、人工知能(AI)や通信技術を活用した自動運転技術が、近年大きな話題となっている。近未来の乗りものはどうなっていくのだろうか。ヌマジ交通ミュージアムの田辺さんは「これまでの歴史を通じて乗りものが多様化したように、人々の生活や望むものも多様化してきました。これからは、もっと一人ひとりの気持ちに寄り添うような乗りものが増えていくのではないでしょうか。そうして社会全体が豊かになっていけばいいなと思っています」と話す。

長い歴史の中で、科学技術とともに発展してきた乗りものは、今もさらに進歩している。この後のページで取り上げる「次世代型路面電車システム(LRT)」や自動運転技術など、今後は身近なところで人々の暮らしを豊かにしたり、バリアフリーを推進する乗りものが増えていくことだろう。未来はどんな乗りものが登場し、それによって人々の生活や社会はどう変わっていくのか。未来を変えようとしている、新しい乗りものを見ていこう。

高速輸送時代 宇宙も移動圏内

ボーイング707(1957-1991) 大型ジェット旅客機の先駆け的存在で、1991年まで1000機以上が生産され、世界各国の航空会社、軍などに採用された。
ボーイング707(1957-1991) 大型ジェット旅客機の先駆け的存在で、1991年まで1000機以上が生産され、世界各国の航空会社、軍などに採用された。
新幹線0系(1964-2008) 当時の国鉄が東海道新幹線のために開発した高速鉄道車両。世界で初めて時速200kmを超える営業運転を実現した。
新幹線0系(1964-2008) 当時の国鉄が東海道新幹線のために開発した高速鉄道車両。世界で初めて時速200kmを超える営業運転を実現した。
スペースシャトル(1981) NASAが打ち上げたスペースシャトル。1981年から2011年の間に135回打ち上げられた。
スペースシャトル(1981) NASAが打ち上げたスペースシャトル。1981年から2011年の間に135回打ち上げられた。
トヨタ プリウス(1997) ガソリンエンジンと電気モーターで走る世界初の量産ハイブリッド乗用車として誕生。(画像提供:トヨタ博物館)
トヨタ プリウス(1997) ガソリンエンジンと電気モーターで走る世界初の量産ハイブリッド乗用車として誕生。(画像提供:トヨタ博物館)

監修

主任学芸員 田辺あらしさん
ヌマジ交通ミュージアム(広島市交通科学館) http://www.vehicle.city.hiroshima.jp/

参考文献

『交通の歴史 目で見る歴史年表』(アンソニー・ウィルソン著/学習研究社)

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