激しい咳(せき)が続く「百日咳」の感染拡大が止まらない。今年の累計患者数は4万人を超えた。また、子どもの両頰などに赤い発疹が出る伝染性紅斑(リンゴ病)の流行も高水準で続いている。
厚生労働省や国立健康危機管理研究機構(JIHS)、感染症の専門家は新型コロナウイルス対策で病原体に触れる機会が減って免疫が弱まっていたことに加え、最近の猛暑による体力・免疫力が低下している可能性もあるとして、これら感染症の今夏の拡大に注意を呼びかけている。その新型コロナは感染拡大にはなっていないものの、やや増加傾向でこちらも注意が必要だ。
昨年1年の10倍を超える
JIHSは7月15日、全国の医療機関から6月30日~7月6日の1週間に報告された百日咳の患者数は3578人(速報値)と発表した。都道府県別では、東京都の277人が最も多く、以下は埼玉県(254人)、群馬県(176人)、神奈川県(171人)の順。1週間当たりの患者数は前週より225人増え、現在の集計法になった2018年以降最多の数値を3週連続で更新し、感染拡大に歯止めがかからない状態となっている。
JIHSによると、今年の累計患者数は4万3728人。昨年は1年間で同4054人だった。半年余りでこの数字の10倍を超えた計算だ。昨年までで最多だった19年の1万6845人の約2.5倍になっている。重症化しやすく肺炎や脳症で死亡することもある乳幼児の患者の報告も全国で多く続いているという。
厚生労働省やJIHSによると、百日咳は「百日咳菌」が原因の感染症で感染力が強い。咳やくしゃみによる飛沫(ひまつ)や接触により感染が広がる。7~10日の潜伏期間を経て風邪の症状が現れ、次第に咳が激しくなる。回復まで2~3カ月かかることも多い。子どもの感染が比較的多いが、最近では成人の感染例も増加傾向になる。
年齢が比較的高い子どもの症状は軽い場合が多く、医療機関でも風邪などと判断されやすい。高熱が出ていないため学校や塾などへ行き、感染を広げてしまうケースが多いようだ。

乳児の死亡例が複数、耐性菌出現も
厚労省やJIHSによると、百日咳の全国的な流行で患者の報告数は最近週40人を超え、乳児の死亡報告例も複数あるという。生後6カ月未満は重症化しやすく、せきが目立たない無呼吸発作やけいれん、肺炎や脳症を起こして最悪死亡する。
乳幼児の感染源のほとんどが家庭内で、親など大人が外から家庭に持ち込まないようにする対策が大切だという。また10代以下は保育園・幼稚園や学校などで拡大するケースが多い。このためこうした施設での感染防止対策、具体的には手洗いの徹底とマスクの着用が大切だ。
日本小児科学会は3月29日にいち早く「重症例も報告されている」などと注意を呼びかける文書を公表。「ワクチン未接種、もしくは3回接種が完了していない(生後)6カ月未満で重症化しやすいため、生後2カ月を迎えたら速やかに5種混合ワクチン接種が望まれる」などと指摘した。
同学会はまた、ワクチン接種前の死亡例が確認された、として6月22日に注意喚起の文書を公表した。この中で同学会の予防接種・感染症対策委員会は、主に医療関係者向けに「通常、治療に使われてきたマクロライド系抗菌薬に対する耐性菌の出現が世界中で問題になっている。国内でも耐性菌の頻度が上昇している」として、他の薬剤(ST合剤)との併用投与を検討する必要性を指摘している。

リンゴ病は胎児にも感染
一方、JIHSによると、リンゴ病は全国の定点医療機関から6月30日~7月6日に速報値で5474人の患者が報告された。1機関当たり2.32人で、感染症法に基づく集計が始まった1999年以降最多だった今年6月16~22日の2.53人に次いで多かった。都道府県別では、大阪府の509人が最も多く、以下北海道(398人)、兵庫県(276人)の順だった。
厚労省によると、リンゴ病は「パルボウイルスB19」が原因のウイルス感染症。百日咳同様、飛沫や接触で感染する。約10~20日の潜伏期間の後、微熱などの風邪に似た症状がみられる。そして両頰に蝶の羽のような境界鮮明な赤い発疹(紅斑)が現われる。続いて体や手、足に網状やレース状の発疹が広がる。予防ワクチンはない。
感染患者は5~9歳が最も多く次いで0~4歳が多い。通常1週間程度で回復する場合が多いが、妊婦が初めて感染すると胎児にも感染し、胎児水腫(すいしゅ)などの重篤な状態や流産や死産につながる危険性が指摘されている。厚労省や日本産婦人科学会などは、特に妊娠中の女性らに手洗いやマスク着用などの感染防止対策を呼びかけている。

コロナ感染者数、3週連続して増加
厚労省は7月11日に、全国の定点医療機関から6月30日~7月6日の1週間に報告された新型コロナウイルスの新規感染者数が7615人で、1医療機関当たり1.97人になったと発表した。前週比は1.41倍で、1医療機関当たり1人を超えたのは3週連続となり、増加傾向が続いている。
都道府県別で1機関当たりの感染者数が多かったのは沖縄県の16.36人。次いで山梨県3.26人、千葉県3.11人と続いた。逆に少なかったのは鳥取県(0.55人)、北海道(0.60人)、青森県(0.67人)などで地域差があった。

関連リンク
- JIHS「IDWR速報データ2025年第27週」
- 厚生労働省「伝染性紅斑」
- 厚生労働省「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況」