サイエンスクリップ

「人類の活動圏広げる」ISS滞在中の若田さん、読者に特別メッセージ

2023.02.16

若田光一 / JAXA宇宙飛行士

 国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在中の宇宙飛行士、若田光一さん(59)が、科学技術振興機構(JST)の科学技術ニュースサイト「サイエンスポータル」読者に特別メッセージを寄せた。8年ぶりに訪れたISSの“進化”の実感や、日本実験棟「きぼう」の重要性の高まりを語り、さまざまな実験を通じた知見の積み重ねが人類に貢献することを、読者に強くアピールした。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が選考中の次世代飛行士にも触れ、月探査での活躍に期待を込めた。全文は次の通り。

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アジアントライゼロGで、フィリピンの若者が提案した「ダンベル型物体の回転運動」の実験をきぼう船内で行う若田さん=日本時間1月17日(JAXA、NASA提供)
アジアントライゼロGで、フィリピンの若者が提案した「ダンベル型物体の回転運動」の実験をきぼう船内で行う若田さん=日本時間1月17日(JAXA、NASA提供)

 「思いやる。チームは強くなる」というテーマを掲げた今回のISS長期滞在では、クルー(宇宙飛行士)や地上の関係者と連携しながらさまざまなミッション(任務)に臨みました。

 ISSは約8年前のフライト時に比べて実験や観測のための装置類が充実しており、技術が向上して利用の拡大が進んでいます。「きぼう」では、青少年向けに簡易宇宙実験を行うアジアントライゼロGや、新興国を含めた人材育成に貢献する超小型衛星放出などを実施しました。これらのミッションを通して、「きぼう」は日本だけでなく海外にとっても不可欠な存在になっていると実感しました。

船外活動を行う若田さん=1月21日(JAXA、NASA提供)
船外活動を行う若田さん=1月21日(JAXA、NASA提供)

 また今回初めて、低重力環境での液体の挙動を調べるLBPGEなど将来の国際宇宙探査に向けた実験も行いましたが、月や火星などの探査に向けて持続的な地球低軌道活動の場を確保することはとても大切です。ISSで獲得した新たな技術や知見が、人類の活動圏を広げることにつながると期待しています。今後さらに民間の方々が宇宙に進出し、地球低軌道や探査における有人宇宙活動がさらに発展することを願っています。

 今年はJAXAの新しい宇宙飛行士の仲間が増えます。ISSの利用成果を最大限に創出し、月探査において日本人宇宙飛行士が活躍できるよう、私もチームの一員としてしっかり任務を進めていきたいと思います。

 読者の皆さんにも今後共、有人宇宙活動をご支援いただければ幸いです。

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人生初の船外活動を終えてISS船内に戻り、ホッとした表情の若田さん=1月21日(JAXA、NASA提供)
人生初の船外活動を終えてISS船内に戻り、ホッとした表情の若田さん=1月21日(JAXA、NASA提供)

 若田さんは1996年を皮切りに、今回を含め5回の飛行経験を持つ。ルーキーにして日本人初の搭乗運用技術者として米スペースシャトルに搭乗し、2014年には日本人初のISS船長を務めるなど、数々の「日本人初」を成し遂げてきた。

 今回は昨年10月から、半年間の予定でISSに滞在中。メッセージで触れた多彩な活動に加え、今年に入り、自身初となる船外活動も実現して注目を集めた。日本時間1月20日夜から21日未明の初回に続き、2月2日夜から3日未明にも実施。いずれも米国人のニコール・マンさん(45)とペアを組んでリーダー役となり、新型太陽電池パネルの取り付け準備作業を行った。2回で計14時間2分に及び、2回目を終えると「作業中にいくつもの課題に直面しましたが、クルーと地上管制チームの皆さんとのチームワークの力で乗り越え無事作業を完了できました。ISSは漆黒の宇宙の中でとても明るく輝いて見えました」とツイッターに投稿している。(サイエンスポータル編集部 草下健夫)

米露の飛行士とISSで活動する若田さん(中央)=昨年11月3日(JAXA、NASA提供)
米露の飛行士とISSで活動する若田さん(中央)=昨年11月3日(JAXA、NASA提供)

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