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ウズベクで新種恐竜化石を発見、ティラノ“覇権交代劇”解明へ手がかり

2021.09.29

草下健夫 / サイエンスポータル編集部

 古生物界の超人気者といえば、史上最強で最大級の肉食恐竜、ティラノサウルスで決まりだろう。博物館や映画でもお馴染みだ。ただ、彼らの仲間が大型化し地上の覇権を握ったのは、6600万年前に恐竜が絶滅するまで8000万年続いた白亜紀のうち、最後の2000万年ほどという。その前に生態系のトップに立っていた大型肉食恐竜は、ちょっと聞きなれない「カルカロドントサウルス」だった。その交代劇がなぜ、どのように起こったのかは謎に包まれている。

 こうした中、筑波大学、北海道大学などの国際研究グループは中央アジア・ウズベキスタンの後期白亜紀の地層から見つかった化石が、カルカロドントサウルスの仲間の新種であることを突き止めた。同じ時代の地層ではティラノサウルスの小型の仲間も見つかっており、両者の共存について世界で最も新しく、アジア初の証拠となった。交代劇の謎に迫るパズルのピースを得て、研究者たちが沸いている。

ウズベキスタンで見つかったカルカロドントサウルスの仲間の新種(上)と、同じ時代に生きたティラノサウルスの小型の仲間の想像図(ジュリアス・チトニー氏提供)

かつての王者カルカロドントサウルス

 研究グループは、ウズベキスタンの首都、タシケントにある国家地質博物館が所蔵する未解明の化石を詳しく調べた。同国内の後期白亜紀(1億~6600万年前)にあたる9200万~9000万年前の地層から見つかった長さ24センチ、高さ13センチの上顎骨(頬から鼻づらにかけての骨)とみられるものだ。その結果、表面にある特有のこぶ、しわ、陥没、穴といった特徴が、発見済みの他の恐竜にないことから、この化石が新種のものと判明。さらに既知の種との系統関係を分析し、カルカロドントサウルスの仲間であることを突き止めた。

調査した上顎骨の化石と、新種と判断する根拠となった特徴(筑波大学、北海道大学提供)

 カルカロドントサウルスの仲間は最大で全長13メートル。ジュラ紀(2億~1億4500万年前)の末期から後期白亜紀の中頃まで繁栄し、生態系の頂点に君臨した。一方、ティラノサウルスの仲間は中期ジュラ紀に登場し、当初は小型で長い間、大型恐竜に圧倒されていた。しかし、やがてカルカロドントサウルスの仲間が北半球から姿を消すと、代わって大型化し繁栄した。

 研究グループは新種の学名を「ウルグベグサウルス・ウズベキスタネンシス」と命名した。意味は「ウズベキスタンのウルグ・ベグのトカゲ」。ウルグ・ベグは15世紀の数学、天文学者でティムール朝の君主にもなった人物だ。

 発見済みの近縁種を参考にすると、この骨の主は全長7.5~8メートルで、体重は1トン以上あったらしい。グループの筑波大学生命環境系の田中康平助教(古脊椎動物学)は「ウズベキスタンで見つかった最大の肉食恐竜となった」と説明する。

「謎の空白」狭める展開に

 このウルグベグサウルス。新種発見という意義に加え、研究グループはいくつもの意味で重要な価値を持つとみている。一つは、北半球では米欧とアジア大陸東部で確認されていたカルカロドントサウルスの仲間が、当時のアジア大陸西端でも見つかったことだという。

 もう一つは、同じ地層から既にティラノサウルスの仲間も見つかっており、カルカロドントサウルスの仲間と共存していたことが、後期白亜紀では北米以外で初めて分かったこと。このティラノサウルスの仲間は「ティムレンギア」で、全長わずか3~4メートル、体重170キロほど。はるかに上回る体を持つウルグベグサウルスが、生態系の頂点に君臨していたはずだ。北米と同様にウズベキスタンでもティラノサウルスの仲間は小さく、大型のカルカロドントサウルスの仲間がそれを圧倒しつつ共存していた。このことは今後の研究で、覇権交代劇の謎に迫る手がかりとなりそうだ。

 両者が共存したことの、世界で最も新しい記録となった点も極めて重要。北米の共存記録は9600万~9400万年前まで。今回はこれを200万~600万年ほど更新した。ティラノサウルスの仲間が大型化できたのは、大型のウルグベグサウルスが見つかった9200万~9000万年前より後ということになる。

 大型のティラノサウルスの仲間は、北米で8400万年前以降の地層からは発見済みだ。その前の1000万年ほどは、世界のどこにも手がかりのない“謎の空白期間”だった。ウルグベグサウルス発見は、この空白を狭める貴重な成果となった。

 田中助教は「巨大な肉食恐竜同士の競争が白亜紀にあったとみられるが、最大のティラノサウルスが“天下統一”する時期の化石がこれまで乏しく、追い求めてきた。今回のウルグベグサウルスはそこを埋める一つの証拠となった」と説明する。

研究成果のまとめ。ウズベキスタンでカルカロドントサウルスの仲間の新種を発見し、ティラノサウルスの仲間(ティラノサウロイディア類)との覇権交代が起こったはずの“謎の空白期間”を狭めた(筑波大学、北海道大学提供)

 研究グループは筑波大学の田中助教らのほか、北海道大学総合博物館の小林快次教授、カナダ・カルガリー大学、ウズベキスタン・国家地質博物館の研究者で構成。成果は英国王立協会の科学誌「オープンサイエンス」に8日に掲載されている。

交代劇、なぜ起きたのか

 研究グループは肉食恐竜の地位の競争や進化の解明を目指しており、今後もアジアを中心に調査を進めていく。特にウズベキスタンは研究がまだ限定的で、さらに大発見が期待できるという。

 カルカロドントサウルスとティラノサウルスの仲間の覇権交代劇について、田中助教は「今はまず化石を探し、どういう順序で、どんなタイミングで地位の交代が起こったかを調べている段階。今後も化石を調べ、少しずつでも空白期間を埋めていきたい」という。

 その先の課題は、交代劇がなぜ起きたかだ。田中助教は「その段階では、当時の環境や恐竜たちの能力がどうだったかなどについて、踏み込んでいくことになる」と展望する。

 40億年ほど前に誕生した生物の歩みは、覇権交代の連続だ。カルカロドントサウルスが史上最強の動物、ティラノサウルスに王座を譲った事件は、中でも指折りの大イベントだろう。栄枯盛衰の物語の謎解きに注目していきたい。同時に、個人的な話だが、ふと「ヒトの次に覇権を握る生き物は現れるのか。交代劇はどんなもので、どんな生物になるのだろうか」という空想が脳内にもたげてきた。

星印が、ウルグベグサウルスの化石が見つかったウズベキスタンのザラクドゥク(筑波大学、北海道大学提供)

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