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地球中心部に大量の水素、かつては海水の50倍の水が存在 東大など示す

2021.05.21

草下健夫 / サイエンスポータル編集部

 人類は古来、自分たちの住む地球について、その時々の知恵と技術を尽くして調べ、理解を深めてきた。例えば直接見られない深い内部の様子は、地震波を活用するなどしてかなり研究が進んできたが、まだまだ謎だらけだ。

 こうした中、地球中心部の「核(コア)」には大量の水素が存在し、また原始の地球には今の海水の50倍もの水があったとみられることが実験で分かった、と東京大学などの研究グループが発表した。小さな天体が次々衝突して大量の水が運ばれてきたが、大半は分解されて水素が核に移動したというのだ。陸と海の割合や海の深さなど、生命を育める現在の地球ができた経緯を理解する上で、重要な成果となった。

大量の水、いったいどこへ

 45億年ほど前の地球には天体衝突で運ばれた水が、現在の海水より、けた違いに多く存在したらしい。その水がどうなったかの解明は、地球の成り立ちを理解するための重要な課題だ。

地球の内部構造(東京大学提供)

 核の主成分は鉄で、固体の「内核」と液体の「外核」に分かれる。外核の密度は鉄より8%小さいため、何らかの軽い元素が大量に含まれているはずだと、70年ほど前から指摘されてきた。

 原始地球はマグマの海「マグマオーシャン」に覆われていた。天体衝突でここに降ってきた鉄は溶け込まず、比重が大きいため核へと沈んでいった。その際、マグマに含まれる軽い元素を化学反応で取り込んだと考えられる。元素は水を構成する水素と酸素のほか、硫黄、ケイ素、炭素が有力視されるが、未解明だった。

 2890キロより深い外核の物質を、直接取り出して調べることはできない。化学反応が起きた深さ1200キロの50万気圧、3500度という高圧高温状態を実験室で再現することも、従来は技術的に難しかった。

高圧高温を実験で再現

 そこで東京大学大学院理学系研究科、東京工業大学地球生命研究所の広瀬敬教授(高圧地球科学)らの研究グループはダイヤモンドとレーザーを使った特別な実験装置で、30~60万気圧、2800~4300度を再現。まずは水素に着目し、化学反応でマグマと鉄のどちらにどれだけ結合するかを調べた。分析には大型放射光施設「SPring-8」(兵庫県佐用町)や、北海道大学の同位体顕微鏡を活用した。

高圧高温状態を発生する装置(左)と内部。2つのダイヤモンドで試料を挟み込み、レーザーを照射する(東京大学提供)

 水素とならずマグマオーシャンに残った水は現在、海水と、核の外側「マントル」の岩石の中にある。これらの合計はマグマオーシャンの時代には約700ppm(1ppmは100万分の1)の濃度の水だったことが分かっていた。今回の実験結果と合わせて計算すると、核には3000~6000ppmの水素が移動したとの結論が得られた。

 こうして、原始地球には海水の30~70倍、おおむね50倍もの水が存在したが、その大半が水素として核に取り込まれたとみられることを突き止めた。これにより現在のようなバランスの海と陸ができ、生命が育まれていることがうかがえる。

「地球は何でできている?」探究続く

シミュレーションで得られた核(コア)の水素量と惑星の質量の関係。おおむね地球の10%を超える天体の核には、地球と同じ量の水素があることが示された(東京大学提供)

 またシミュレーションにより、原始地球の大きさが現在の地球の10%を超えると、核の水素はそれ以上増えないとみられることも分かった。例えば火星など、質量が地球の10%ほどの岩石の星には、核に地球と同程度の水素がありそうだという。火星にもかつては豊かな海があったという話と、つじつまが合う。

 研究グループは東京大学、東京工業大学、北海道大学、高輝度光科学研究センターで構成。成果は英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に11日に掲載された。

 広瀬教授は「核の質量は地球の3分の1もある。その2割を占める軽い元素の正体が分からないのは、地球を作った物質が何なのか不明だという大問題。今回は水素が大量にあることが分かったが、今後は他の元素の量も明らかにし、核の全容を解明したい」と力説する。太陽系外も含めた惑星の形成過程や、地球外生命の存在条件を考える上でも有益な成果だという。

 地球は何でできているのか。この探究は私たちの足元を見つめるだけでなく、宇宙にも視野を広げている。小惑星探査機「はやぶさ」が見せたような感動のドラマはないかもしれないが、次世代に引き継ぐにふさわしい成果が期待される。

北海道大学の同位体顕微鏡(左、東京大学提供)と国際宇宙ステーションから撮影した地球(NASA提供)

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