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「“玉手箱”を舞い降ろせた」 はやぶさ2が地球帰還、試料カプセル回収

2020.12.07

草下健夫/サイエンスポータル編集部

 探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」で採取した試料を収めたカプセルを地球上空で分離し、カプセルが6日未明、オーストラリアの砂漠地帯に着地した。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は同日、カプセルの回収に成功したと発表した。実際にカプセルに試料が入っていれば、小惑星の試料回収は2010年の初代「はやぶさ」に続き世界で2度目。地下の物質が含まれていれば初の快挙となる。探査機は正常で、カプセルを分離後に「拡張ミッション」を開始し、次の目的地の小惑星「1998KY26」へと舵(かじ)を切った。

カプセルが大気圏に突入し、落下する際に描いた光跡=6日未明、オーストラリア南部(JAXA提供)
カプセルが大気圏に突入し、落下する際に描いた光跡=6日未明、オーストラリア南部(JAXA提供)

「ただいま! 帰ってきました」

 6日午後、管制室のある相模原市のJAXAで会見した津田雄一プロジェクトマネージャは「ただいま! はやぶさ2は帰ってきました。6年間の宇宙飛行を今終え、私たちは“玉手箱”を舞い降ろすことができました。完全な状態で、惑星間往復飛行の扉を完全にくぐり抜けました。中を開けることがとても楽しみです」と話した。

 探査機の開発や運用を支援したNECの大島武プロジェクトマネージャは「(初代に続き)2回目の地球帰還の成功を、大変うれしく思います。待ってくださっていたサイエンティストの皆さんにバトンをお渡ししたいと思います」とのコメントを出した。

会見ではやぶさ2の帰還を報告する津田雄一プロジェクトマネージャ=6日午後、相模原市
会見ではやぶさ2の帰還を報告する津田雄一プロジェクトマネージャ=6日午後、相模原市

 リュウグウを昨年11月に離れたはやぶさ2は、加速用のイオンエンジン(電気推進エンジン)により順調に航行。10月から12月1日にかけ、姿勢制御用エンジンを使った軌道変更や微調整を4回行って地球に近づいた。5日にカプセルの電源を探査機から内部に切り替えた後、カプセルを分離するため姿勢を変更。地球に約22万キロまで近づいた午後2時30分、オーストラリア南部のウーメラ砂漠に向けカプセルを分離した。

 カプセルは6日午前2時半ごろに高度約120キロで大気圏に突入。高度10キロ前後でカプセルを熱から守るカバーを外し、パラシュートを開傘した。位置を知らせるための発信器を作動しながら降下し、2時54分ごろ予定地域内に着地。カプセルは大気圏突入後、流れ星のように光りながら夜空を移動する様子が地上から確認された。

 地上のアンテナでカプセルの位置を推定し、JAXAの回収チームがヘリコプターで発見。午前7時半過ぎに回収作業を終えた。7日に現地でカプセル内のガスを取り出した後、試料が入ったまま空路で輸送され、8日にも相模原市のJAXAに到着するという。JAXAは、計画時に想定した最低100ミリグラムを大幅に上回る試料を回収できたとみている。

回収されたカプセル=6日午前、オーストラリア南部・ウーメラ砂漠(JAXA提供)
回収されたカプセル=6日午前、オーストラリア南部・ウーメラ砂漠(JAXA提供)

管制室「素晴らしい」と歓声

 一方、探査機はカプセル分離の1時間後から3回、地球の重力圏から離れるための軌道修正を行い、1998KY26への約100億キロの航行を開始した。午前3時15分、計画通りに通信が再開し無事を確認すると、管制室では、ひときわ大きな拍手と「素晴らしい」との歓声が上がった。

 1998KY26は直径約30メートルの球状で、同約900メートルのリュウグウと同様に炭素質の可能性がある。はやぶさ2は別の小惑星への接近を経て、2031年7月に到着する。試料採取や地球への回収はしないものの、観測を行い、着地や「ターゲットマーカー」と呼ばれる目印の地表への投下を行う可能性もある。初代はやぶさにも2つの目の天体に向かう構想があったが、トラブルが相次いだことを受け断念し、大気圏に突入し燃え尽きている。

 はやぶさ2は地球から再び離れながら、地球の撮影にも成功した。

「ただいま、そして、さよなら!」はやぶさ2が撮影した地球=6日午前8時50分(JAXA、東京大など提供)
「ただいま、そして、さよなら!」はやぶさ2が撮影した地球=6日午前8時50分(JAXA、東京大など提供)

「学んだこと、全て注ぎ込んだ」

 はやぶさ2は2014年12月に地球を出発。18年6月から約1年5カ月にわたり、有機物や水を含むタイプの小惑星リュウグウを探査した。2回の着地で、地表と地下の試料を採取できたとみられている。回収した試料を調べることで、太陽系の歴史や地球生命の起源を理解する手がかりが得られると期待されている。航行距離は復路約8億2000万キロ、往復約52億4000万キロに及んだ。

 会見で津田氏は、トラブルを重ねながら帰還した初代に触れ「そこで学んだことを全てはやぶさ2に注ぎ込み、開発や運用に関わってきた」と語った。今回の順調な往復探査は、人類の宇宙探査技術の成長を物語るものとなった。次なる旅で、はやぶさ2の挑戦は続く。

地球に帰還し、カプセルを分離したはやぶさ2の想像図(JAXA提供)
地球に帰還し、カプセルを分離したはやぶさ2の想像図(JAXA提供)

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