サイエンスクリップ

途上国の理科・科学、科学技術水準の現状と課題ー 第5回「数学は問題の解き方を、理科は視覚を中心に」

2008.08.15

 このコーナーでは、途上国の科学技術の水準や、理科教育における現状および今後の課題について、青年海外協力隊に理科教師として参加した4人の体験談も交えながら、6回シリーズでご紹介しています。なお、青年海外協力隊事業は、「開発途上地域の住民を対象として当該開発途上地域の経済および社会の発展または復興に協力することを目的とする国民などの協力活動を促進し、および助長する」ことを目的に、国際協力機構(JICA)によって実施されています。

施設不足、教師不足が深刻

十進法を教えるために作った教具
十進法を教えるために作った教具

 私の配属先であるマロサ・セカンダリースクールは、サル山に囲まれた全寮制の政府系カトリック中等学校です。中学校から高校に当たるマラウイの中等教育は4年制で、中等教育機関は7種類あります。ここマロサは、2年生の終わりと4年生の終わりにある国家試験の合格率が全国平均に比べても高く、創立から80年以上続いている名門校です。また、ある程度の実験器具や施設も他の学校に比べて整っています。

 しかし、私が授業を行っているもう一つの学校(Likuwenu Community Day Secondary School)は、教室数も一学年にやっと一つあるだけの学校です。マラウイでは、このような学校のほうが多く存在しており、施設不足、教師不足が深刻な問題です。ただ、どちらの生徒も明るく、理解は遅くともこちらの話を一生懸命聞いてくれるので、やりがいがあります。

アンケート実施の結果……

 現在数学(週21コマ)と理科(3コマ)を受け持っています。昨年はまったく余裕がなくて授業がスムーズに進まないことを生徒のせいにしてよく怒っていました。授業どころではなかった時もありました。

 しかし、3学期の初めに自分の授業についてのアンケートを取り、彼らが何を望んでいるかを知り、それ以後生徒たちともっとコミュニケーションを取るように心がけました。成績自体はそんなに変わりませんでしたが、授業の雰囲気が全然違うものになりました。それから、少しずつスムーズに授業ができるようになり、彼らがつまずくポイントも分かるようになり、生徒の扱いにも慣れてきました。昨年の生徒たちのおかげで、今年は授業を組み立てることだけに集中できるようになりました。

 授業以外にもクラス担任を受け持ち、さらに毎週火曜日の放課後はクラブの時間になっていて、そこでジャパニーズ・クラブを前任者から引き継いで受け持っています。日本語以外に折り紙や日本の歌、遊びも紹介しています。彼らの他文化に対する興味は大きいものの、誤解をしている部分も大きく、それを訂正するのが難しい時もあります。

 授業中にも時々日本文化を紹介します。例えば、理科の授業で「海藻」を説明する時、「日本人は海藻を食べる」と教えました。そして、実際に海苔(のり)の試食をしました。イマイチ受けませんでしたが、食文化の違いが分かり、生徒たちにとっても興味深かったようです。

 放課後は、女子生徒はネットボールを、男子生徒はサッカーをよくしています。週末には近くの学校と試合も行います。しかし、スポーツといえば球技しか思いつかないようなので、今度近くの体育隊員とともに運動会を開き、球技以外のスポーツも紹介する予定です。生徒たちとしゃべることで、国が違っても基本的に考えることや感覚は日本の学生と同じであることが分かり、とても興味深いです。

 学期末試験が終わると、教師たちは点数付けと成績表記入に追われますが、生徒たちはわれ先にと家族の下へ帰っていきます。そんな姿を見ていると少しうらやましく思います。

 任地の活動以外には、他の理数科教師隊員と分科会も開いており、昨年12月には、初めて教育省と隊員の懇親会を持ち、意見交換を行いました。また、今後ワークショップや研究授業も計画されています。さらに個々の活動の発展につながっていくよう、これらの活動も続けていきたいと考えています。

板書を工夫 復習のすすめ

 数学でも理科でも、まず教科書がないので、板書のコピーが彼らの教科書になります。そのため、分かりやすいように予め模造紙などに授業内容を記入したうえで、説明を行う時もあります。また、単元が終わるごとに確認テストを行っています。これは、彼らの理解力をチェックできるだけでなく、自分の教え足りなかった点も分かり、今後の授業計画やテスト前の復習にも役立ちます。

 数学の場合、とにかく練習問題や宿題を多く出し、問題の解き方に慣れるようにしています。そして、その時にできなかった生徒は個人的に教えます。復習を大切にし、新しい単元に入る時には、興味をもたせるように生徒を動かしたり、生活にかかわる話をしたりしながら導入します。

 理科は、生物を中心に教えているので視覚を大切にしています。実物が手に入らない場合には、写真を用いたり、図に描いて、説明していることがイメージしやすいように工夫しています。

 他の教科と連続して授業があり、生徒の集中力が続きにくいので、簡単なゲームをしたり日本の歌を教えて気分転換をしています。これは、かなり評判がいいですよ。

 教師は、「しゃべってなんぼ」の職業です。語学力を磨くにこしたことはありません。授業英語は、基本的にゆっくり大きな声で、簡潔な表現を心がければいいと思います。質問されたことを理解できなかった時には、黒板に書いてもらいました。

 授業が崩壊した時、私は校長や同僚教師に助けてもらいました。教室内で何か問題が起こった時は一人で悩まず、周りの同僚に助けてもらうことも必要だと思います。

 国によると思いますが、全員の生徒が教科書を使用することが困難な場合こそ、生徒中心の、生徒を動かす授業を行えば、理解力アップにつながると思います。日本でもいろいろな本がでていると思いますので、参考にされたらいいかと思います。

(国際協力機構 青年海外協力隊 協力隊レポートより転載)

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