サイエンスクリップ

途上国の理科・科学、科学技術水準の現状と課題ー 第1回「途上国の理科教育」

2008.07.18

このコーナーでは、途上国の科学技術の水準や、理科教育における現状および今後の課題について、青年海外協力隊に理科教師として参加した4人の体験談も交えながら、6回シリーズでご紹介しています。なお、青年海外協力隊事業は、「開発途上地域の住民を対象として当該開発途上地域の経済および社会の発展または復興に協力することを目的とする国民などの協力活動を促進し、および助長する」ことを目的に、国際協力機構(JICA)によって実施されています。

 一口に途上国の現状といっても、国により、また同じ国の中でも都市部と遠隔地ではまさに雲泥の差がある。この差が大きいがゆえに途上国と称されるのであろう。青年海外協力隊の派遣隊員が活動する任地も多様であり、隊員からの報告資料に目や耳を疑うような現実もある。多くの隊員から送られてくる報告書から途上国の理科教育に関しての一端を紹介してみたいと思う。

ベナン 平成17年度1次隊 飯島智恵 氏 報告書より(ヨシズの壁面で囲まれている教室)
ベナン 平成17年度1次隊 飯島智恵 氏 報告書より(ヨシズの壁面で囲まれている教室)

 外国からの援助が充実している途上国もあるが、理科教育以前の問題を抱えるところも多い。水も電気も無いところでは、理科実験は皆無であるといっても過言ではないであろう。水があるといっても泥水をろ過・煮沸することにより飲料水にしている現状、当然電気も無い。そのようなところでは、理科実験どころではない。教室そのものが十分な設備とは言いがたい。

 教科書についても、様々な実状がある。まず、教科書が子どもたちの手に無いことである。教科書はあるが子どもたちの人数が多すぎて平等にいきわたらないので教師や学校管理者が自分で抱え込んで配布していないこともある。第二に、教科書の内容が多すぎ、加えてレベルは学齢に対してむしろ高いものもある。第三に理科室環境が不十分である。備品・消耗品が整っているといわれるところでも関係機関からの援助備品が梱包(こんぽう)されたままであったり、マニュアルが紛失状態でまったく使用されていないところもある。また薬品庫も壊れ、薬品のラベルも分からなくなっているなど極めて危険状況にある。使用したと思われる理科器具も、そのままの放置状態で理科教育に携わる教師としてのモラルがいかに欠けているかということが推察できる。

セントビンセント 平成17年度1次隊 青山将 氏 報告書より(理科室の比熱測定器具)
セントビンセント 平成17年度1次隊 青山将 氏 報告書より(理科室の比熱測定器具)

 また、言葉の問題もある。英語が公用語とは言うもののその英語が十分に伝わらず、授業が現地語を交えて行わなければ理解されないところもある。そして何よりも共通した課題は、算数・数学の基礎知識が極めて低いということである。多くの途上国では計算機を使わないと計算ができない。子どもたちは筆算・暗算が苦手であり、理科学習に関わる計算ができないのである。貧困の中で計算機を持つ矛盾も感じるが途上国では、前述したような格差が歴然としている。

 途上国からの支援要請内容の多くが、実験を取り入れた授業の展開や同僚教師へのアドバイス、そして何よりも物理の教師が不足している、化学の教師が不足している等々の指導者の不足である。加えて、現地の教師の指導力の差である。指導内容を間違えて教えている。教科書を黒板に丸写ししているだけなどで実験どころではないのである。このような実態を総じて途上国における理科教育の大きな特徴(課題)といわれるゆえんなのかもしれない。

(国際協力機構 青年海外協力隊 協力隊レポートより転載)

ページトップへ