レビュー

2021年宇宙の旅≪後編≫ 飛行士、月探査、新型ロケットなど熱い一年に

2021.01.20

草下健夫 / サイエンスポータル編集部

 飛行士の活躍、新型宇宙船などの有人開発、月探査をめぐる動き、新型ロケットなど、前編で紹介した宇宙科学以外にも、2021年は話題にこと欠かない“宇宙イヤー”になりそうだ。この一年(一部は来年度末まで)に計画や見込み、可能性のある主なできごとを、解説を交えてピックアップする。

野口さん船外活動決定、星出さん船長に

ISS船内でNASAの植物栽培実験装置を確認する野口聡一さん=昨年11月28日(JAXA、NASA提供)
ISS船内でNASAの植物栽培実験装置を確認する野口聡一さん=昨年11月28日(JAXA、NASA提供)

 日本人飛行士の活動が楽しみな年になる。野口聡一さん(55)が昨年11月から地球の高度400キロを周回する国際宇宙ステーション(ISS)に、半年の予定で滞在中。今年春ごろに星出彰彦さん(52)も到着し、日本人2人目となるISS船長を務める。2人は同時に滞在する公算が大きく、実現すれば2010年の野口さんと山崎直子さん(50)以来2回目の、複数日本人の同時滞在となる。

 野口さんの飛行は3回目。微小重力を利用し、昨年12月にはヒト由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作った肝臓の基となる組織を、血管を模した構造体と共に立体的に培養させる実験、日本が長年注力するタンパク質結晶生成実験などを実施した。今月20日には、野口さんが2月にも船外活動を行うことが明らかになった。野口さんにとって4回目で、日本人では最多となる。このほか期間中、船内でさまざまな材料の燃え方を調べる実験、超小型衛星の放出などが行われる。

 日本人ISS船長は2014年の若田光一さん(57)以来となる。星出さんは「これまでの船長の良いところをうまく盗みながら、私なりのカラーの船長を務めたい。危険の中でも安全に気遣い、楽しむ心で人間らしく活動したい」と話している。飛行士のみならず、重責を支える地上の管制チームや調整担当者らの連携も重みを増し、日本の有人宇宙活動の技量が問われる挑戦の年となる。

ボーイング、ISSへ再挑戦

ISSに到着するクルードラゴン有人試験機。星出彰彦さんも同じ機体に搭乗する=昨年5月31日(NASA提供)
ISSに到着するクルードラゴン有人試験機。星出彰彦さんも同じ機体に搭乗する=昨年5月31日(NASA提供)

 野口さんは米スペースX社の宇宙船「クルードラゴン」本格運用1号機でISSに到着しており、星出さんも2号機で続く。クルードラゴンは2011年のスペースシャトル廃止以来9年ぶりの米国の有人船。昨年8月に有人試験飛行に成功し、ロシアの有人船への依存に終止符を打っている。なお2号機の機体はクルードラゴン初の再使用で、有人試験飛行と同じものになる。

 米ボーイング社も有人船「スターライナー」を開発中だ。こちらは2019年12月の無人試験飛行でISSへの到達を断念し、完成に時間がかかっている。米航空宇宙局(NASA)は今年3月29日に2回目の無人試験飛行を、6月にも有人試験飛行を行うとしている。

 日米欧露とカナダが参加するISSは、1998年に建設を開始し、2000年には飛行士の長期滞在が始まった。各国が生命科学や物質・材料関連など、多彩な実験を重ねてきた。日本もこれまで7人の飛行士が9回の長期滞在を経験し、また物資補給機「こうのとり」や実験棟「きぼう」の開発、運用を通じ、有人宇宙開発の技能を世界水準に高めている。

 ISSの運用が決まっているのは2024年までであり、今年は延長に向け、参加国の検討や調整が進む。米議会では28~30年まで延長する法案が審議中。日本の延長参加にあたっては、後述する月探査で必要となる技術の実証の場としての役割や、民間企業の参加、国際協力の推進などが検討のポイントになる。ISSの設計上の寿命は30年ごろとされており、地球上空の次世代基地の姿も思い描くべき時期に来ているだろう。

地上の「スター」宇宙でも輝くか

国際宇宙ステーション(ISS)=2018年(NASA、ロスコスモス提供)
国際宇宙ステーション(ISS)=2018年(NASA、ロスコスモス提供)

 米露がISSでの映画撮影を、それぞれ計画していると報じられている。米国は俳優のトム・クルーズさん(58)と監督のダグ・リーマンさん(55)が「宇宙旅行者」としてクルードラゴンで向かうという。ロシアは女優のほか、監督のクリム・シペンコさん(37)が赴くとの情報もある。大物俳優や監督による本格的な映画撮影は初めてといえ、実現すれば話題となりそうだ。

 ロシアはISSに新たな多目的実験棟「ナウカ(科学)」をドッキングさせる計画だが、打ち上げは年来、繰り延べられてきた。今年7月の予定という情報がある。

 一方、ISSに参加していない中国は独自に地球上空の宇宙基地「天宮」を来年頃までに完成させる計画で、年内にも建設に着手するとみられる。人民日報のサイト「人民網」によると、主に3棟で構成し質量は66トン、飛行士の活動空間は110立方メートル。それぞれ420トン、916立方メートルのISSに比べると小規模ながら、同時に3人の飛行士が長期滞在し実験などを行う。昨年5月には建設に使う「長征5B」ロケットの初打ち上げに成功し、基地実現への道を開いた。

 20年代後半の基地実現を目指すインドは、22年までの有人宇宙船「ガガニャーン」打ち上げを目標に掲げており、年内にも無人試験飛行を行うとの見方がある。

「強み生かし」月を目指す

ゲートウェーの最新の想像図(NASA提供)
ゲートウェーの最新の想像図(NASA提供)

 米国は2020年代に国際協力で月上空に有人基地「ゲートウェー」を建設し、24年にアポロ計画以来約半世紀ぶりとなる有人月面着陸を目指す「アルテミス計画」を進めている。日本と欧州、カナダが参画を表明済み。昨年7月に日本の文部科学省とNASAは、日本人の着陸機会に言及した共同宣言を発表。今月13日には外務省が、ゲートウェーに関する日米協力の覚書が発効したと発表した。

 日本はこうのとりの後継機による物資輸送や、ゲートウェーの生命維持機能などを担う。来年度以降は「日本の強みを生かし、民間企業などの積極的な参加を得ながら研究開発などを実施する」(政府の宇宙基本計画工程表)。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は“アルテミス世代”の確保を視野に今年秋ごろ、13年ぶりに新たな飛行士を募集する。

 米国は今年11月に、地球とゲートウェーを行き来する有人船「オリオン」の無人試験機を大型ロケット「SLS」で打ち上げる「アルテミス1」を計画。ただし新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの影響でオリオンとSLSの開発は遅れており、延期の可能性がある。

 月面着陸は当初、2028年の予定だったが、19年春にトランプ政権が4年の前倒しを決定。理由は不詳だが、24年はトランプ氏が大統領に再選された場合の任期の最終年にあたっていた。着陸を急ぐため、ゲートウェーの建設計画などが大幅な見直しを迫られた。宇宙関係者からは計画の加速を歓迎する声と同時に、安全性などの観点から疑問も聞かれてきた。米国は過去に政権交代を節目に宇宙政策が変わり、諸外国が影響を受けてきた。国際協力で月を目指す方向性は揺るがないにせよ、バイデン政権発足を機に、スケジュールなどが見直される可能性は低くない。

新型ロケット「一点の曇りもなく仕上げる」

H3ロケットの想像図(JAXA提供)
H3ロケットの想像図(JAXA提供)

 日本の新大型ロケット「H3」が来年度にデビューする。現行の「H2A」と昨年運用を終えた強化型「H2B」の後継機で、JAXAと三菱重工業が中心となって開発中。H2AとH2Bは打ち上げ成功率98%、46機連続成功で世界トップクラスの信頼性を誇る。ただ人工衛星の大型化に対応できていないことや、世界市場のコストダウンが加速したなどを受け、1994年初打ち上げの「H2」以来、実に四半世紀ぶりに大型ロケットの本格開発を進めている。最大打ち上げ能力(静止遷移軌道)はH2Bの6トンを上回る、6.5トン以上となる。

 基幹ロケットとして、日本が他国に頼らず衛星や探査機を飛ばす能力を持つことが、基本の役割だ。使い勝手のよいロケットとして、通信などの商業衛星や外国の衛星の打ち上げの受注を進め、日本の宇宙産業を牽引する期待も高まっている。

 H2Aなどと同じく液体燃料を用いる2段式だが、2段エンジンで用いてきた日本独自の燃焼方式を1段エンジン「LE9」に採用するのが最大の特徴。従来方式に比べ、燃費をわずかに犠牲にする代わりに部品数を大幅に減らし、仕組みや制御を簡素にする。3Dプリンターなどの新技術や、自動車用などの民生品の導入も進めてコストを低減し、H2Aの基本型で約100億円といわれる打ち上げ費用の半減を目指している。

 当初は今年度に打ち上げ予定だったが昨年5月、燃焼試験でLE9の一部が破損。技術的な課題が判明して9月に延期を決めた。対策は具体化できているといい、JAXAの開発責任者は「曖昧なことは許されない。立ちはだかる技術の壁に正面から向き合い、納得のいく対応をし、一点の曇りもなく仕上げる」と話している。

 一方、欧州の「アリアン6」など、各国も次世代機の開発を急いでいる。価格競争を加速させたスペースX社の「ファルコン9」が1段ロケットを再使用し優位を築くなど、商業打ち上げ市場は厳しさを増している。H3が地道に成功を重ね、世界に浸透していけるか注目される。

広視野と高分解能、両立図る新衛星

 政府の工程表によると、基幹ロケットによる人工衛星の打ち上げは来年度に3回。このうち大型ロケットは2回で、カーナビやスマートフォンでも身近な衛星利用測位システム(GPS)を担う「準天頂衛星初号機後継機」をH2Aの44号機で、JAXAの地球観測衛星「だいち3号」をH3の初号機で打ち上げる。

だいち3号の想像図(JAXA提供)
だいち3号の想像図(JAXA提供)

 だいち3号はカメラで地上を撮影するタイプの衛星で、2006~11年に運用された初代「だいち」の後継機。初代の観測幅70キロという広い視野はそのままに、分解能が2.5メートルから0.8メートルと3倍に向上する。衛星は一般に視野と分解能の両立が難しいが、センサーの大型化と高性能化で実現するという。東日本大震災では初代が被災地を撮影し、行政などの災害対応に貢献した。3号は建物の倒壊や道路の寸断の様子がより明確に分かるという。運用中のレーダー衛星「だいち2号」とともに、国内外の防災や災害対応、植生などの観測に貢献することが期待される。

 「革新的衛星技術実証2号機」を、小型ロケット「イプシロン」5号機で打ち上げる。宇宙用の新しい部品や装置の性能を、実用化の前に実際の宇宙で確かめる取り組みだ。宇宙利用や産業振興を進める政府の方針を受け、JAXAが実施する。2019年1月に続く2回目の今回は企業や大学、高等専門学校などの14の部品や衛星を搭載することが、昨年12月までに決まった。

ペルセウス座流星群は絶好条件

 国内で見られる天文現象は、2回の月食と「ペルセウス座流星群」が特筆される。国立天文台の資料によると5月26日、月が地球の影に完全に入り込む皆既月食が起こる。11月19日は部分月食だが、欠けずに残る部分がごくわずかで、皆既食に極めて近いものとなる。

 流星(流れ星)は、宇宙のチリが地球の大気圏に突入して燃え尽きる際、発光する現象。彗星(すいせい=ほうき星)の通り道には多くのチリが残されており、地球が毎年そこを通る際に流星が多発する流星群が起こる。毎年8月13日頃に発生のピーク「極大」となるペルセウス座流星群はその代表格。今年は同日午前4時頃に極大となり、月明かりもなく絶好条件で1時間に50個程度が見込まれるという。今から好天を祈りたい。

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