日本語にしても意味がつかみにくいIoT(Internet of Things=モノのインターネット)の重要性が、9日閣議決定された「ものづくり白書」でも強調されている。センサー技術やコンピューティング能力の発達に伴い、ものづくりの世界でも大きな変革が起きつつある。その変革を起こしつつあるものこそ、IoTやビッグデータの解析だ、という。
「製造業はデジタル化の波の到来とともに大きな転機を迎えている」ということだが、次のように説明されている。
「あらゆるものにセンサーを張り巡らせて膨大な量のデータを取得し、それをリアルタイムで解析することが可能となりつつある。データを収集し、解析・処理するサイクルによって付加価値が次々に生み出され、あらゆる分野で競争領域が変化している。同時に産業の垣根を越えた新サービスが次々と広がる」
日本を支えてきた製造業も新たな挑戦を迫られる大変な時代を迎えているということだろう。世界の現状を理解してもらおうとして白書は、「インダストリー4.0」というドイツが産官学共同で練り上げた行動計画を紹介している。「第四次産業革命」とも称されるこの計画の中核をなすのが「サイバーフィジカルシステム」という概念だ。「現実のデータを収集、コンピューター上の仮想空間に大量に蓄積・解析し、その結果を現実の世界にフィードバックするサイクルをリアルタイムで回すことで、システム全体の最適化を図る仕組み」という。
この説明より、実例の方が分かりやすいだろう。ドイツのソフトウエア企業「SAP」が提案したビジネスモデルで成功した製造企業が、大要、以下のように紹介されている。
ケーザー・コンプレッサーというドイツの会社は、動力源としてあらゆる製造現場で使われるコンプレッサーのメーカーだ。同社はリモートセンシングを利用して販売した製品の稼働状況をモニタリングしている。「予知保全」と呼ばれる機器・設備の保全方法のためだ。耐用期間が切れるころを見計らって交換する旧来の保全法と異なり、故障や不具合の兆候が見られたら速やかに交換や修理を行う。これによって同社は販売した機器・設備の稼働率を向上させるだけでなく、サービスコストを削減することができた、という。
ただ、これだけでは「産業の垣根を越えた新サービスが次々と広がる」IoTの成功例として、白書が紹介することはなかっただろう。同社が次にやったことは、こうしたモニタリングのデータを活用して、コンプレッサーの供給業者から圧縮空気の供給業者へとビジネスの形態を変えてしまったことだ。顧客に代わってコンプレッサーの運用を行うという新サービスでは、コンプレッサーは売らない。コンプレッサーが供給した圧縮空気の量に応じて料金を払ってもらう。これによって客の方は多額の初期費用(コンプレッサー購入という固定費)が不要になり、同社は小口のユーザーを新しい客層として取り込むことができた、というわけだ。
白書は、ドイツだけでなく米国、日本についてもIoTやビッグデータ解析により成果を挙げている例を多数紹介している。ただし、ドイツ、米国に比べると日本の製造業はだいぶ遅れていることが、白書のいくつかの記述からうかがわれる。
「製造業の変革に対して、ソフト重視の姿勢を示すような企業行動が見られるようにはなっていない」「製造業の付加価値が、データから生み出されるバリューチェーン(価値連鎖)の全体最適化を通して決められるようになるというラダイムシフトが起こっている中で、日本の製造業は状況に対応できていない」などなどだ。
日本の製造業にとって、IoTやビッグデータ解析というのは、まだまだ手強い相手ということだろうか。ものづくり白書は製造業を鼓舞するだけでなく、政府に対しても「(IoT社会における)ビジネスモデル創出に向けた企業の意識改革のリードや環境醸成を行っていくこと」を求めているのだが。