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DNA捜査技術向上狙い国際共同研究スタート

2009.10.26

 遺伝子解析の研究成果を犯罪捜査の面にも活用することを狙い、日本とオランダの研究機関による国際共同研究がスタートすることになった。

 26日の共同研究覚え書き調印式には、日本から中村祐輔 氏・理化学研究所ゲノム医科学研究センター長、小型迅速遺伝子解析システムの実用化を進める理研ジェネシス社長、オランダから法科学研究所長ら当事者に加え、文部科学省大臣官房審議官、オランダ教育文化相も同席した。

 共同研究の狙いは、「次世代の高速・高精度なDNA鑑定法を確立するため、SNP(Single Nucleotide Polymorphism:スニップ)を用いた新たな科学捜査技術の開発と実用化を目指す初めての国際プロジェクト」と説明されている。

 SNPというのは、「遺伝子多型の中でもゲノム塩基配列中の1つの塩基が個人間で異なっている個所があり、これらをSNP(single nucleotide polymorphism:一塩基多型)と呼ぶ。このSNPは、ヒトゲノム上で最も数の多い遺伝子多型であり、約数百塩基対に1カ所くらいの割合で存在し、ヒトのゲノム中には約1,000万個所のSNPがあると考えられている」ということだ。

 理化学研究所ゲノム医科学研究センターは、優れた遺伝子多型判定技術を持ち、個々人のSNPを体系的に解析し、その人が特定の病気になりやすいかどうか、あるいは薬剤が効きやすいかどうかといったことを明らかにする研究を行っている。

 オランダの法科学研究所は、「非常に高精度なDNA鑑定技術を有し、欧州随一の科学捜査研究所として欧州各国における科学捜査の実績を誇っている」という。

 現在、現場に残された体液などから犯人を割り出すことなどに利用されているDNA鑑定法は、DNA中で同じ塩基配列が複数回繰り返す領域を目印とし、その繰り返しの回数が個人個人によって異なることを利用している。しかし、この方法では、微量のDNA量しか採取できない場合や、時間がたってDNAの分解が進んでいる試料などでは、鑑定が困難だった。共同研究では、SNPを用いることで、これまでDNA鑑定が困難だった試料に対しても正確に遺伝子型を判定できる新しいDNA鑑定技術を開発することを目指す、という。

 都市化によるコミュニティ意識の希薄化や製品の大量生産、販売ルートの多様化などで犯罪捜査における市民からの協力や、遺留品から犯人に迫るといった伝統的な捜査手法はますます難しくなっているのが現実だろう。

 犯罪捜査に新しい研究成果の導入を目指す共同研究に期待する人は多いと思われるが、同時に司法界全体の科学リテラシーの向上も求められる時代になっているのではないだろうか。司法関係者が自白を重視するだけではなく、科学捜査で得られた結果についてもしっかり判断できる知識と目を持つ、という。

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