九段会館で開かれた大強度陽子加速器「J-PARC」の完成記念式典とその後に開かれたパーティに参加して、あらためて感じた。J-PARCが第一級の研究施設ということと、日本の物理学の水準の高さである。
米政府の要職にある元カリフォルニア工科大学学長が相当、熱のこもったビデオメッセージを送ってきたほか、数多くの国々の物理学界の指導的研究者が次々に壇上に上がり、お祝いの言葉を述べていた。多用な研究が可能なJ-PARCの長所を挙げ、どのような成果を期待するかといった祝辞から、この研究施設が外国から見てもいかに魅力的かが、分かる。
あいさつしなかった海外からの研究者たちも1人1人名前を紹介され、壇上に招き上げられる。それでも紹介しきれない研究者全員にまとめて登壇を促したところ、舞台は外国人でいっぱいになった。「これらの研究者たちのほとんどは自分たちの費用で記念式典にやってきた」。会場で顔を合わせた旧知の原子力研究開発機構幹部に聞いたので、パーティ会場で永宮正治J-PARCセンター長に確かめてみた。うそだろう、と思ったからだ。
「こちらで旅費を持ったのは3人。正確に言うと2.5人かな。1人はエコノミーチケットで来てもらったから」(笑い)
永宮氏の答えにようやく納得する。皆、パーティ参加費用5,000円も払ったらしい。
これだけ見ても、この研究施設が半端なものではないと分かるのではないだろうか。招待されなくても完成記念式典にやってくるのは、永宮センター長の研究者としての顔の広さもあるかもしれない。しかし、この研究施設で今後進められる研究にやはり大きな関心があるからだろう。
永宮氏からは、J-PARCには常時、数百人の外国人研究者が滞在することになる、と聞いていた。大きな悩みが、地元の茨城県東海村にはこれら外国人研究者を受け入れる百人規模の宿舎が全くない、ということも。
世界から第一級の研究者が集まるような研究施設は、快適な生活を送れる居住環境も備えているのが国際的な常識らしい。欧米先進国で研究生活を送ったことのある日本人研究者なら体験済みのことだろう。
役所には何度も要望したが、こちらの面ではほとんど対応できていない。前に永宮センター長から聞いていたので、これも尋ねてみたが、どうもこれぞという進展はなさそうだった。
「研究施設がすばらしいのはよく分かる。しかし、生活するには魅力なさそうだから、あなただけどうぞ行ってきて」。家族からそう言われて、単身で来る外国人研究者ばかり。これでは世界に誇る研究拠点というには寂しいのではないだろうか。