アナログテレビが何年後かに無くなることは知っていた。しかし、今使っている携帯端末が2012年に使えなくなるというのは、きょう新しい端末に買い換えるまで知らなかった。「古くなったせいかな。携帯が聞こえにくくなったような気がする」。娘に何気なく話したら、二つ折りでない旧式タイプを使い続けているのにあきれられ「5日まで特別サービス期間だから一緒に買いに行ってやる」となった次第だ。
面倒な機能は不要。電車の中で一心不乱に携帯を、なんてみっともない姿など…。こんな思いの人間は結構いるということだろうか。高度な利用には向いていないが、ボタンも表示も大きくて操作しやすく見やすい。そんな高齢者向きの端末があるというのである。さらにこの際、娘の家族扱いとするサービスに切り替えると、月々の使用料金まで安くなる、というから断る理由がない。
「月々、3百何円かの保険に入ると、これから事故その他で端末を買い替える時、6万いくらかかるところ3万何円ですむ」。店員の勧めもあっさり断る。初めて端末を買った直後に一度だけ小用を足そうとして便器に落としてしまったことはある。2度同じ失敗をするとは思えないし、この先新しい端末が必要になるかも定かでない。たまっていたというポイント(これも知らなかった)千何百円かを引いてもらい、結局、払った料金がなんと7百円余り、というのに驚く。
携帯端末サービス「iモード」の生みの親といわれるエヌ・ティ・ティ・ドコモ元執行役員で現・ドワンゴ取締役、夏野剛氏の話を思い出す(2008年12月19-29日4回続きインタビュー「活かされていない日本の技術力」参照)。
「携帯端末はNTTドコモとメーカーが一体になったから短期間で普及したとみられているかもしれないが、本来はドコモとメーカーの利害は一致していなかった。メーカーはより多くの端末を売りたいのに対し、携帯事業者の方はできれば1台の端末を長く使ってほしい。本当は1台4-6万円するのに事業者が補助金を負担して安く売っていた。しょっちゅう端末を変えられると補助金が増えてしまう。うまく両者がWinWinの関係になることができたのは、携帯端末を高機能にすると、携帯端末を換えた人の通信料金が高くなるというモデルが日本ではできたため」
高度な部品、ソフトの集合体である新機種に700円余りしか払わなくて済む。夏野氏の話はインタビューしたときは分かったつもりだったが、実際に経験するとなると、やはり考えてしまう。携帯事業者さらには携帯事業者から低コスト化を迫られていると想像される携帯端末メーカーの人たちのことを、だ。これじゃ通信業も製造業もつらいよ、ではないかと。
しかし、さらに冷静に考えれば、編集者のような保守的ユーザーは、通信業者にとってはましかもしれない。夏野氏にはインタビュー時に問い質さなかったが、携帯にはある印象をずっと抱いていた。音声通話以外の機能などほとんど使わないのに結構高い通話料金を払い続けて来たのでは、と。新聞1月分の購読料より高い料金が、固定電話使用料金とは別に毎月かかるのは、決して安いと思えない。こんな人間は、少数派だろうか。
店員に聞くとお役ご免になった古い機種は8年半使い続けていたという。この間、携帯事業者も端末メーカーに補助金を支払う必要はなかったわけだ。