レポート

女性活躍を妨げる「見えない壁」を壊すために~第7回「輝く女性研究者賞」表彰式から~

2026.02.02

室井宏仁 / サイエンスライター

 科学技術振興機構(JST)の「輝く女性研究者賞」は、優れた若手女性研究者ならびに女性研究者の活躍推進に顕著な貢献を行っている機関の表彰を目的に、2019年に創設された。以来、個人・組織双方の取り組みに注目して、科学技術分野におけるダイバーシティ推進の機運を高めてきた。昨年10月26日、第7回を迎えた本賞の表彰式が日本科学未来館(東京・お台場)で開催された。当日の様子を中心に、講演内容も交えながら報告する。

3人の受賞者。左から大阪公立大学学長の櫻木弘之さん、九州大学助教の中野知香さん、東京科学大学講師の原祥子さん
3人の受賞者。左から大阪公立大学学長の櫻木弘之さん、九州大学助教の中野知香さん、東京科学大学講師の原祥子さん

海洋プラスチック、もやもや病、女性教員の人事制度が対象

 「輝く女性研究者賞(ジュン アシダ賞)」は、九州大学応用力学研究所海洋プラスチック研究センター助教の中野知香さんが受賞した。もともと海洋物理学の研究者だった中野さんは博士課程修了後、海洋中のマイクロプラスチックの動態解析の研究に参画。東京湾から東南アジア沿岸域を対象としたフィールド調査を通じて、河川流入や季節風がプラスチックの分布に与える影響を探求している。また、開発途上国でも導入できる低コストの分析手法の開発にも取り組んでいる。こうした国際的な環境問題の解決に資する成果に加え、学生や若手研究者の育成、地域社会との連携といった点も受賞理由となった。

 また、「輝く女性研究者賞(科学技術振興機構理事長賞)」は、東京科学大学脳神経機能外科学分野講師(キャリアアップ) の原祥子さんが受賞した。原さんは神経外科医としての診療と並行して、国指定難病である「もやもや病」をはじめとする脳血管障害の臨床・基礎研究に取り組み、病態の理解と治療法の開発を進めている。さらに、自身の経験を生かし、複数の学会においてダイバーシティ推進活動に携わってきた経歴が評価された。

 女性研究者の活躍を後押しする機関を表彰する「輝く女性研究者活躍推進賞(ジュン アシダ賞)」は、大阪公立大学に授与された。同大学は女性教員の拡充を目的に、一定の条件を満たした研究者をポストの枠の制約なしに昇任できる「OMU女性教員昇任制度」を導入。短期間での女性教授・准教授の登用数の進展につなげた。そのほか、次世代の女性研究者育成と研究アウトリーチを目的とした、「理系女子大学院生チームIRIS」の活動も高い評価を受けた。

表彰式に臨んだ橋本和仁JST理事長(いずれも左)と受賞者(左から中野さん、原さん、櫻木さん)
表彰式に臨んだ橋本和仁JST理事長(いずれも左)と受賞者(左から中野さん、原さん、櫻木さん)

成果を広めて可視化し、一貫した支援を

 表彰式の冒頭、挨拶に立ったJSTの橋本和仁理事長は、本賞について「女性科学者の活躍を広く社会に伝えるきっかけとなり、次の世代に希望と勇気をつなげるものであればと思う」と述べた。そして、賞の冠にもなっているファッションデザイナー・故芦田淳氏の言葉「人間は常に自分の信じる道をただ一筋に進むこと。それがたとえ人通りの少ない道であっても」を引用し、受賞者にエールを送った。

 来賓として登壇した前参議院議員の山東昭子さんは、女性科学者が着実に成果を挙げながらも、注目度が高まらない状況が続いてきたと述べた。そのうえで本賞の意義について「どれほど努力を重ねても、成果が適切に伝わらなければ評価にはつながらない。多くの関係者の協力のもとで、研究成果を広め、伝えていく姿勢が重要だ」と強調。自身も引き続き政府と連携しながら、科学技術立国の推進を支援したいとの意気込みを述べた。

 続いて挨拶した参議院議員・自由民主党総務会長の有村治子さんも、初代の女性活躍推進特命担当大臣を務めた経験を踏まえ、特に理工系の分野で活動する女性研究者に光が当たりにくい状況を経験したことを振り返った。そのうえで「女性研究者が増加し、その存在が自然に可視化されていくことは、社会全体のより健全な意思決定につながる」と述べ、ロールモデルとしての女性研究者の重要性を強調した。

 文部科学省 科学技術・学術政策局長の西條正明さんは、生成AI技術の進展などを背景として、将来的に産業構造の変化と人材需給のミスマッチが生じる可能性が高い点に言及。「理数系の素養をもつ人材の育成は、今後ますます重要になる」と展望した。一方で、特に女子における理数系離れが深刻である現状のもと、理数系を志望する女子学生を対象に、初等・中等教育から高等教育までの一貫した支援が求められていると述べた。また文部科学省として、結婚や妊娠・出産といったライフイベントに左右されず研究を継続できる環境整備に、JSTと連携しながら取り組んでいく考えも示した。

表彰式で挨拶する来賓の山東昭子さん(左)と有村治子さん(中)、西條正明さん(右)
表彰式で挨拶する来賓の山東昭子さん(左)と有村治子さん(中)、西條正明さん(右)

現地・現場が重要、継続的な取り組みに意欲

 表彰式では、各受賞者がこれまでの研究の歩みや今後の抱負について語った。

 中野さんは、受賞理由の1つとして評価された、海洋プラスチックの測定技術の国際規格化の取り組みを紹介。現在、各国の研究者と連携して、サンプリングやデータ解析までを包括したガイドラインの策定を進めていると明らかにした。関連して、実際の議論や交渉が会議本編だけでなく、会場でのランチミーティングや立ち話などでも進められている点にもふれ、実際に現地に赴くための予算拡充の必要性も訴えた。

 原さんは、結婚・出産を経た女性、また脳外科医として実臨床に携わりながら研究を続ける「マイノリティ」としてキャリアを築いてきたことにふれた。特に、大学病院で管理業務にかかわるようになってからは、研究時間が限られるなか、診療現場で得た気づきを研究につなげているという。原さんは「患者さんのより良い人生につながる成果を生み出すことが、医師として臨床研究を行うことの醍醐味」と述べ、診療を通じて見えてくる課題を今後も追求したいと語った。

 大阪公立大学を代表して登壇した学長の櫻木弘之さんは、同大が組織的に実施してきた、女性活躍推進の施策を提示した。櫻木さんは、自身が若手時代に経験した海外の学会では、女性研究者の存在がすでに当たり前であったと回想。これを念頭に、「研究者が来たい、辞めない、活躍できる大学」を実現するべく、上位職への育成・登用をはじめ、女性研究者の活躍支援を進めているという。櫻木さんは「女性研究者の活躍を見える化・魅せる化することで、大学の景色を内部から変えたい」と、さらなる継続的な取り組みへの意欲を示した。

性別を問わない人材確保は喫緊の課題

 表彰式を通じて、研究現場における女性活躍を推進するために最も必要なのは、それを妨げる「見えない壁を壊すこと」にあるとの印象を受けた。例えば、有村さんは挨拶のなかで、以前に日本のある大学の研究所を視察した際のエピソードを紹介した。当時、その研究所に所属する研究者一覧に女性の名前が一人もないことを指摘したところ、現場にいた誰もがその点に気づいていなかったという。

 このエピソードは、たとえ意図的に排除されていなくとも、研究現場における性別の偏りが温存されてきた現状を示していると考えられる。少子高齢化が進む日本において、性別を問わず科学技術人材を確保することは喫緊の課題である。そうした状況を考えれば、優秀な女性研究者の活躍の場がないことは、大きな損失といえるだろう。

 重要なのは、単にクオータ制で数をそろえることではなく、実績を挙げている女性研究者を可視化し、研究環境や評価といった支援の仕組みを整えることだ。大阪公立大学が策定した人事制度では、各部局とは別に大学としての予算を確保することで、女性研究者の積極登用を実現している。これは、研究現場におけるポジションの壁を取り払うための重要な参考事例といえるだろう。こうした取り組みが、研究現場のみならず社会全体に波及していくことを期待したい。

表彰式の様子(日本科学未来館)
表彰式の様子(日本科学未来館)

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