レポート

感じて考えて伝えて、ゲリラ豪雨に立ち向かう サイエンスアゴラ2025「ソラヨミ講座」から

2026.01.08

本田ともみ / サイエンスライター

 ゲリラ豪雨に打たれ、洗濯物も自分の心もグショグショになったあの夕方。もしも「ソラヨミ」ができていたならば――東京・お台場で行われた科学フォーラム「サイエンスアゴラ2025」において、「異常気象へのレジリエンスを高めよう~ソラヨミ講座~」が昨年10月26日に開催された(主催=東京大学COI-NEXT「ClimCOREプロジェクト」、ウェザーニューズ)。気象情報提供サービスを運営するウェザーニューズ(千葉市)の気象予報士らが登壇。同社が提唱する「ソラヨミ」をキーワードに、気象災害から身を守るための考え方ならぬ「読み方」を、クイズなども交えながら解説した。

子どもから大人までさまざまな参加者がクイズにトライしながらソラヨミを学んだ
子どもから大人までさまざまな参加者がクイズにトライしながらソラヨミを学んだ

精度の高い予報は至難の業

 「ソラヨミ」とは、空を見て「感じる」こと。次にどうなるかを「考える」こと。そして「伝える」こと。「それが災害からみんなを守ることにもつながる」と教えてくれたのは、杉田雄輝さん(ウェザーニューズ予報センター気象予報士)だ。

普段は世界中から収集したデータの解析などを通じて天気予報を作成しているという杉田さん
普段は世界中から収集したデータの解析などを通じて天気予報を作成しているという杉田さん

 私たちが普段見る天気予報は、アメダスや気象レーダー、気象衛星から得られた観測データをもとに、スーパーコンピューターで分析することによって出ている。しかし異常気象の発生が毎年増加している中で、現在のシステムでは地域ごとに精度の高い情報を出すことは難しい。特にゲリラ豪雨は局所的・短時間に集中して雨が降るため、予報するのは至難の業である。しかし「ソラヨミ」をすることで、自ら天気急変の可能性を察知し対策をとることが可能だと杉田さんは言う。

天気の悪化を招く雲は? 2題に挑戦してみよう

 読者の皆さんにも実際にソラヨミクイズに挑戦してもらいたい。次のうちどちらの雲が近づくと、天気が悪化するだろうか。

会場で実際に出されたクイズの写真をお借りした(ウェザーニューズ提供)
会場で実際に出されたクイズの写真をお借りした(ウェザーニューズ提供)

 正解はモクモクとした形の左の雲で、夏場を中心によく見られる「積乱雲」だ。ゲリラ豪雨の前触れとされている。

 積乱雲は、地上の暖かい空気と上空の冷たい空気の気温差があるときに急激に発達する。近年増加傾向にある都市部のゲリラ豪雨は、アスファルトなどで空気が強烈に熱せられることで積乱雲が発達しやすくなっているためだと考えられている。

平均気温の上昇に加え、都市部ではビルからの排熱などによるヒートアイランド現象も積乱雲の発達に影響する(ウェザーニューズ提供)
平均気温の上昇に加え、都市部ではビルからの排熱などによるヒートアイランド現象も積乱雲の発達に影響する(ウェザーニューズ提供)

 では次のクイズに移ろう。いかにも天気が崩れそうな空模様だが、どちらの雲の下にいると危険だろうか。

いずれも暗雲立ち込める様子だが―(ウェザーニューズ提供)
いずれも暗雲立ち込める様子だが―(ウェザーニューズ提供)

 正解は右の写真の、つぶつぶとした小さな塊が集まっているように見える雲。「乳房雲」といい、ゲリラ豪雨直前に雲の中で激しい対流が起こっているため、丸みを帯びた形になるのだという。ニュースなどでよく耳にする「大気の状態が非常に不安定」なときには、この雲が見られることが多い。

乳房雲は積乱雲の中に発生しやすい(ウェザーニューズ提供)
乳房雲は積乱雲の中に発生しやすい(ウェザーニューズ提供)

 積乱雲の中では、重たい氷や雨の粒を含んだ下降流が、上昇気流と釣り合うことで渦を巻き乳房雲となる。やがて乳房雲が発達し、下降流の力が上回ると、対流の中から氷や雨の粒がゲリラ豪雨となって地上へ一気に落ちてくる。

アプリへの投稿が他者に快適や安全をもたらす

 このように、雲がくれるヒントをもとに変化の兆候を「感じる」ことができれば、洗濯物を取り込んだり、より安全な場所に移動したり、次の行動を「考える」ことができるようになる。

 さらに杉田さんは、「みんなに伝える」ことも重要だという。実はウェザーニューズのアプリにも、伝えるためのシステムがある。ユーザー同士で各地の天気に関するリポートを投稿し合える仕組みだ。

 ある日の天気予報レーダーとリポートをこちらに示す。

左の「雨/雪レーダー」は雨を青系色で、雪を赤系色で表している。右はユーザーのリポート情報。リポートがあった場所の天気をアイコンで示している。コメントがついているものもある(ウェザーニューズのアプリより)
左の「雨/雪レーダー」は雨を青系色で、雪を赤系色で表している。右はユーザーのリポート情報。リポートがあった場所の天気をアイコンで示している。コメントがついているものもある(ウェザーニューズのアプリより)

 雨/雪レーダーでは、札幌付近は青(雨)と赤(雪)が入り混じり実際の天気が見極めにくい。そこで右のリポートを見てみると、アイコンやコメントによって雨やひょうが降っていることがひと目で分かる。それを見たユーザーは、傘を持ったり外出を控えたりと、対策を打つことが可能だ。自分の気づきを「伝える」ことは、他のユーザーに快適さや安全をもたらすことにつながるため、ソラヨミにおいて重要なのだと杉田さんは語ってくれた。

球形モニターで国境を越える問題を体験

 最後に、会場に持ち込まれていた球形のモニターで、地球上の気温観測データや未来のシミュレーションデータを見せてもらった。

使い方をレクチャーする西祐一郎さん(ウェザーニューズテクニカルディレクター)。球形のモニターに地球上の観測データを映し出しており、手の温度に反応して見る場所を変えられる
使い方をレクチャーする西祐一郎さん(ウェザーニューズテクニカルディレクター)。球形のモニターに地球上の観測データを映し出しており、手の温度に反応して見る場所を変えられる

 筆者が体験させてもらうと、「エルニーニョ監視海域」(北緯5度から南緯5度、西経150度から西経90度)の矩形が目に付いた。ハワイ諸島のはるか南の赤道域からガラパゴス諸島に至る範囲だ。エルニーニョ現象との関連が深いとして気象庁が定義した海域で、そのデータは常に観測されている。

 エルニーニョ現象によって平年より海域が暑いと他の地域で上昇気流がうまく起きず、雨が降るべき場所に降らない、もしくは雨の降る場所がばらけるので、干ばつにつながる可能性がある。水不足は国境を越え、最悪の場合、食糧問題や紛争へと発展しかねない。そうした事態への予見可能性を高めるためにも、注視しながら観測をしているそうだ。

空を読む力が災害に強い社会を形作る

 参加した小学3年生の女児は「つぶつぶ(乳房雲)がゲリラ豪雨のサインだと初めて知って、心に残りました 」と話してくれた。子どもたちも空を見て考えるきっかけをもらえたようだ。

 「ソラヨミ」は天気を読み解くだけでなく、考えた結果、自分が逃げたり、他者へ伝えたりすることも含めての力だった。気象衛星、気象レーダー、スーパーコンピューターなど科学技術の発展によって天気の予測精度は高まっているが、全ての地域を予想するのは今も困難だ。対策を打つのは自分しかいない。空を読む力で、これから起こるかもしれない災害やそれに付随する問題を想定し、伝えていくことが、より災害に強い個人、そして社会を形作るのだと心に刻むことができた。

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