レポート

出会い、語り、体験通じて未来を考える サイエンスアゴラ2025閉幕

2025.10.27

草下健夫 / サイエンスポータル編集部

 あらゆる立場の人が体験や対話を通じ、科学技術と社会をつなぐ国内最大級のイベント「サイエンスアゴラ2025」(アゴラ)が25、26日の2日間にわたり開催された。顔を合わせ語り合い、自然や科学技術の魅力や課題に触れる多彩な130超の企画が東京・お台場の2会場に集結。にぎわいを通じて知的好奇心を高め、人類や地球の未来を考えるひとときとなった。

サイエンスアゴラ2025の「サイエンスショー」。今年も硬軟取り混ぜた多彩な企画に、会場が沸いた=25日、東京・お台場のテレコムセンタービル
サイエンスアゴラ2025の「サイエンスショー」。今年も硬軟取り混ぜた多彩な企画に、会場が沸いた=25日、東京・お台場のテレコムセンタービル

「トウガラシ」効かせたメニューぎっしり!?

 アゴラは科学技術振興機構(JST)が主催し、今年で20回の節目を迎えた。例年、お台場で開催したが、コロナ禍を受け2020~23年にはオンライン形式も導入した。昨年、完全実地開催が復活。今年もテレコムセンタービルをメイン会場に、日本科学未来館を加えて開催した。小雨が降ったものの会場はにぎわい、このイベントが定着していることをうかがわせた。

 会場では例年、楽しみの工夫が凝らされる。今年の来場者は、パンフレットや掲示に描かれたトウガラシのマークに気付いたことだろう。各企画の内容の難易度を1~3個のトウガラシのアイコンで示したものだ。全企画が老若男女を歓迎するとはいえ、来場者にはエンタメの延長のように科学を楽しみたい人もいれば、“ガチ勉”しに来た人もいただろう。限られた時間の中、あらかじめレベルの心積もりができたのではないか。

(左)テレコムセンタービル会場の入り口(右)企画の難易度を示す「トウガラシマーク」を付けた掲示
(左)テレコムセンタービル会場の入り口(右)企画の難易度を示す「トウガラシマーク」を付けた掲示

 今年も「キュレーション」により、ブースの配置などを分かりやすく整えた。キュレーションとは情報を集め、テーマに沿って編集しながら意味や価値を見いだす作業、といった意味。有識者10人からなる推進委員会が、多彩な企画を参加者の興味関心に応じて価値づけ、分類するキュレーションを進めた。「地球・生き物・私たち」「食・農業・健康」「街・空間・生活基盤」「研究・対話」「学び・体験・創造」の5つのジャンル分けをしており、トウガラシマークと相まって、来場者の過ごし方に影響を与えたことだろう。

「魅力伝えたい」中高生が活躍

 会期中は登壇者からアゴラの意義や、参加のコツに関する声が聞かれた。「科学と私たちが対話し、問いを見つける場だ」「“推し”の研究を見つけて応援してほしい」「疑問に思ったことは、出展者がタジタジになるくらい質問を」などと、来場者に呼びかけた。

活発な質疑応答や意見交換が続いた
活発な質疑応答や意見交換が続いた

 各種のセッションでは健康や医療、災害、生態系の課題や、AI(人工知能)との付き合い方、科学研究のあり方など多岐にわたるテーマで、発表や議論が活発に繰り広げられた。分野は自然科学のみならず人文・社会科学にもまたがった。ブースでは研究機関や学校、有志などの出展者により、実験や観察、ワークショップ、社会課題に関する意見交換といった企画が実現した。研究者や若者が手作りで趣向を凝らしたゲームに、子供たちの行列ができた。

 例年、中高生ら若者による出展も多いが、今年は特に活躍が目立った。会場に、中学や高校による出展ブースをまとめたエリアが設定された。25日の「見どころ紹介」では生徒が「遺伝のメカニズムに、中学生の時にほれた。楽しく学んでもらいたい」「オリジナルのゲームを通じ、恐竜の魅力をいろんな人に伝えたい」などと熱く呼びかけ、続いて開かれたサイエンスショーにも協力した。高校2年生の女子生徒は「想像していたよりも多くの人がブースに来てくれてうれしく、話し合うことでさらに興味が深まっている。出展している他校とも交流したい」と声を弾ませた。

 情報工学を学ぶ大学生は「さばき切れないほどのお客さんが来ている。しかも専門の異なる人が、われわれには気付き得ない要改善点を指摘してくれた。知識を深め、展示内容をブラッシュアップする機会になっている」と手応えを語った。

次世代が次世代を育てる。中高生が企画したゲームや実験が、子供たちの人気を集めた
次世代が次世代を育てる。中高生が企画したゲームや実験が、子供たちの人気を集めた

「嫌がった子供も今、楽しんでいる」

 会場で思いを自由に書き留める「Share Wall(シェアウォール)」には、驚いたことや感動したこと、不安に思っていることなどの多彩なコメントが寄せられた。「日常の当たり前が、万人にとっての当たり前ではないことに気付いた」「AIに負けたくない」などなど。イラスト入りのものもあり、思いを表現すること自体を楽しむという、アゴラの特質がここにも見られた。

(左)来場者の思いで埋め尽くされた「Share Wall」(右)仮想現実を活用した、大学生の力作のゲーム
(左)来場者の思いで埋め尽くされた「Share Wall」(右)仮想現実を活用した、大学生の力作のゲーム

 小学4年生の子供と来場した東京都大田区の会社員の男性(50代)は「各ブースの内容が一見分かりにくいものの、子供にとって、見るだけでなく遊び、触れながら理科や算数に興味を持てる内容が多い」と話した。品川区の会社役員の男性(40代)は「子供は行くのを嫌がったが、いろいろなものに触れてほしくて連れて来たら、今は楽しいと言っている。仮説を立てて考えるゲームでは、家族3人が違うことを考えて興味深かった」と充実を語った。一方で「話が長いと感じた。科学者として説明したい気持ちは分かるが、誰にも分かるよう要点や目的をまとめて話してほしい」と改善を望む声も聞かれた。

 今年はトウガラシマークが1個の企画が最も多く、多くの人に関心を持ってほしいとの狙いがうかがえた。お祭りのような会場に足を運び、他の研究者や来場者と言葉を交わし、時に手足も動かしながら深める知識や思考。それらには、ネット検索で瞬時に得られる情報とは異質の価値があるだろう。この2日間のどのトウガラシも、来場者の心に知的なスパイスとして長く効いていくはずだ。

(左)2つの会場。手前の日本科学未来館と左奥のテレコムセンタービルはごく近い(右)未来館では、遠隔地の医療を支援するトラックの展示も
(左)2つの会場。手前の日本科学未来館と左奥のテレコムセンタービルはごく近い(右)未来館では、遠隔地の医療を支援するトラックの展示も

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