レポート

あなたも私も生まれ変わろう 万博の大阪ヘルスケアパビリオンで「2050年のじぶん」に会いに行く

2025.09.26

滝山展代 / サイエンスポータル編集部

 「健康で長生きしたい」という希望を多くの人が抱く。大阪市の人工島・夢洲でまもなく閉幕する大阪・関西万博では、未来の医療や美容を目で見て体験できる「大阪ヘルスケアパビリオン」が盛況だ。自分の身体の状態を調べた後、様々な企業のブースを巡り、最適な医療技術や美容のパーソナルケアを体験できる。パビリオンのテーマは「REBORN(リボーン)」。「再生した」「生まれ変わった」という意味の英語で、“「人」は生まれ変われる”、“新たな一歩を踏み出す”との思いが込められている。筆者も生まれ変わるべく、パビリオンを体験してきた。

肌、髪、歯、脈拍…。「現在のじぶん」を測定

 「水都大阪」と言われるように、大阪には水路や川があちこちにある。そんな大阪の街をイメージし、膜状の屋根に水を循環させ、建物の周囲に水を配置したのが大阪ヘルスケアパビリオンだ。事前に公式アプリを入れておくよう促されていたので、スマートフォンとタブレット端末にインストールし、アプリがきちんと起動することも確認した。いざ、パビリオン内へ。

大阪ヘルスケアパビリオンの建物。外は水をたたえ、中は日光が降り注ぐ作りになっている(2025年7月、大阪・関西万博会場)
大阪ヘルスケアパビリオンの建物。外は水をたたえ、中は日光が降り注ぐ作りになっている(2025年7月、大阪・関西万博会場)

 入館してみると、屋根から太陽光が降り注ぎ、開放感がある。修学旅行生も来館し、混雑している。まず初めに、アプリに表示されたQRコードから「リボーンバンド」というリストバンドを発行する。自分のニックネームとQRコードが印刷されており、館内の体験コーナーでかざしながら進んでいく。QRコードは1人に1つずつ発行されており、再び来場したときにも同じQRコードを使うことができる。

発行した「リボーンバンド」。自分の名前の一部である「のぶ」の文字が入っている。夏のイベントを感じられて、テンションが上がった(2025年7月、大阪・関西万博会場)
発行した「リボーンバンド」。自分の名前の一部である「のぶ」の文字が入っている。夏のイベントを感じられて、テンションが上がった(2025年7月、大阪・関西万博会場)

 最初に向かったのは「カラダ測定ポッド」。ここでは試着室のようにカーテンで仕切られた部屋の中に入り、大きな画面に向かって肌や髪、歯などを撮影したり、手をかざして脈拍などを測定したりする。画面に表示された絵と同じ絵を目で追うゲーム感覚のものもあった。痛くもかゆくもないものばかりなので、「どこで測定しているのだろうか」と不思議な気分になる。測定終了とともにカーテンを開け、次のブースがある2階に進んだ。

個別化された商品 「あなただけ」に提供

 2階には協賛企業による「ミライのヘルスケア」ゾーンがある。各企業のブースでバンドをかざすと、未来のヘルスケアを感じさせる展示や体験が展開される。例えば、「あなたに必要な食品」や「あなたにおすすめのシャンプー・コンディショナー」などがもらえるといった具合だ。

 実際に「パーソナルフードスタンド」という機械の前でバンドをかざしてみると、自分に必要な栄養素とおすすめのレシピを提案され、最後に乳酸菌のサプリメントを提供された。ヘアケア製品を取り扱う企業のブースでは、番号が振られた棚からチューブに入ったヘアケアの試供品が配られた。

サンプル品が出てくる機械。隣の来場者にはゼリー飲料が提供されていた(2025年7月、大阪ヘルスケアパビリオン)
サンプル品が出てくる機械。隣の来場者にはゼリー飲料が提供されていた(2025年7月、大阪ヘルスケアパビリオン)

 こうして個別に最適な製品が提供されるにあたり、いくつかの質問に答えるだけでよい。ヘアケア製品も、先ほどの「カラダ測定ポッド」で取ったデータを基に、相性の良い製品が提供される。今後、髪質の判定などは人工知能(AI)を含めたコンピューターの仕事になっていくのだろう。人口減少社会では、美容師や理容師、医療職などの専門職の仕事内容はより「AIなどにはできない仕事」にシフトしていくのだと強く思った。

ヘアケアメーカーのブースでは、筆者の髪質にそぐう製品が出てきた。使ってみると、髪の毛がきしまず、香りも良かった(2025年7月、大阪ヘルスケアパビリオン)
ヘアケアメーカーのブースでは、筆者の髪質にそぐう製品が出てきた。使ってみると、髪の毛がきしまず、香りも良かった(2025年7月、大阪ヘルスケアパビリオン)

ありそうでなかった「未来の目薬」

 個別化された商品の他に、「MA-T(マッチング・トランスフォーメーション・システム) 亜塩素酸イオン水溶液」から生成した水性ラジカルによるウイルス不活化や殺菌、「卵の殻から作った繊維」など新しい技術が展示されていた。特に筆者が注目したのは「上を向かずにさすことができる目薬」だ。前を向いたまま目に器具を当てるとミスト状の点眼薬が噴射される仕組みで、子どもだけでなく、高齢や病気で首を動かすのが難しくなった人にももってこいだと感じた。「早く実用化されるといいな」とワクワクした。

ありそうでなかった「前を向いたままさせる目薬」の機械。高齢化社会で役立ちそうだ(2025年7月、大阪ヘルスケアパビリオン)
ありそうでなかった「前を向いたままさせる目薬」の機械。高齢化社会で役立ちそうだ(2025年7月、大阪ヘルスケアパビリオン)

 「2050年のじぶん」に会いに行く。最初に体験したカラダ測定ポッドの結果を見るために、モニターが並んだ小部屋に進む。モニターには現在の髪・肌・視覚・脳・歯・骨格筋・心血管の項目についてA~Eの5段階の評価が表示された後、2050年のアバター「ミライのじぶん」が現れた。筆者は歯科衛生士の資格を持っているので、「せめて歯だけは実年齢より若く判定されますように」と祈ったところ、結果は「32歳、B判定」。「良かった、若い」と小躍りした。

 アバターをまじまじと眺めて「これが25年後の私か」と驚くと同時に、「それまで健康に過ごさないといけないな」と改めて思った。ただし、25年前の10代の頃から現在までを振り返ると、スマートフォンをはじめとした科学技術や、社会の様々な制度が急激に変わったように思う。これからの25年のほうがもっとスピーディーなのではないかと思うと、「老いもあるのに、ついていけるのだろうか」と少々不安になった。

 「ミライのじぶん」アバターと対面したあと、順路に沿って進むと、大阪の街を映し出したアニメーションの中で25年後の私が軽やかに踊っていた。他の人のアバターも映し出され、「あっ、あれ俺だ」「私がいない」「これこれ」と歓声が上がる。見知らぬ人と一緒になって興奮するのは、袖振り合うも他生の縁だ。「いのちを響き合わせる」という万博のテーマ事業の一つに一致していると感じた。

2050年に60代になる筆者のアバター。25年後を考えると、将来の自身の健康のみならず社会保障などのあり方も不安を覚えてしまった(2025年7月、大阪ヘルスケアパビリオン)
2050年に60代になる筆者のアバター。25年後を考えると、将来の自身の健康のみならず社会保障などのあり方も不安を覚えてしまった(2025年7月、大阪ヘルスケアパビリオン)

 様々な技術を見て回ってすっかり「生まれ変わった」後、らせん状の柱が見えるアトリウムに戻ってくる。柱はDNAがモチーフで中は階段状になっているが、「安全上の理由」で上り下りすることはできない。ただの飾りになっているのは残念で、物足りない気がした。

らせん状の柱はDNAをモチーフにしている。階段を使うことはできないものの、木の曲線が美しい(2025年7月、大阪ヘルスケアパビリオン)
らせん状の柱はDNAをモチーフにしている。階段を使うことはできないものの、木の曲線が美しい(2025年7月、大阪ヘルスケアパビリオン)

並ばずにすむ「穴場スポット」も

 1階ではiPS細胞で作られた心筋シートが不思議な動きで脈打っており、京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授のビデオが流れていた。ミライ人間洗濯機といった前回の大阪万博で好評だった展示物もリニューアルしてお目見え。再生医療や美容の未来を眺めながら、大阪ヘルスケアパビリオンを後にした。

iPS細胞から作られた心筋シートは、脈打つように動いていた(2025年7月、大阪ヘルスケアパビリオン)
iPS細胞から作られた心筋シートは、脈打つように動いていた(2025年7月、大阪ヘルスケアパビリオン)

 カラダ測定ポッドはJR新大阪駅などにもあり、こちらはほぼ並ばずに体験できる穴場スポットになっている。今回の万博は「並ばない万博」を掲げているものの、実際の会場では並んでいる時間も短くないため、「カラダ年齢を測定してみたい」という人は会場から少し離れた穴場スポットで体験してみるのもいいだろう(大阪ヘルスケアパビリオンのものよりも簡易なものとなっている)。

 大阪ヘルスケアパビリオンは体験予約が取れない、といった口コミをネット上で見かける。大人も子どもも楽しめることや、体験型であることで人気が広がっているせいではないかと思う。他の国家パビリオンは、ほぼ「見て楽しむ」ことに重きを置いた没入体験なので、大阪ヘルスケアパビリオンのような体験できる没入感はユニークだ。25年後の自分の姿に思いをはせ、「自分がどうなりたいのか?」という根源的な問いと向き合う点において、諸外国のパビリオンとは一線を画しているといえるだろう。

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