レポート

《JST主催》ロールモデルとして能力の発揮に期待~第6回「輝く女性研究者賞」表彰式から

2024.12.10

室井宏仁 / 科学ライター

 科学技術振興機構(JST)の「輝く女性研究者賞」は、優れた若手女性研究者ならびに女性研究者の活躍推進に貢献する機関の表彰を目的として2019年に創設された。以降、5年間に11人の研究者と4つの機関が受賞している。「サイエンスアゴラ2024」の一プログラムとして、10月27日に日本科学未来館(東京・お台場)で開催された第6回表彰式の様子を、前後に行われた会見および講演も含めて報告する。

3人の受賞者。左から楠田倫子さん、長谷川恵美さん、永塚尚子さん=10月27日、日本科学未来館
3人の受賞者。左から楠田倫子さん、長谷川恵美さん、永塚尚子さん=10月27日、日本科学未来館

睡眠障害、奨励賞運営、鉱物ダストを評価

 「輝く女性研究者賞(ジュン アシダ賞)」は、京都大学 大学院薬学研究科准教授の長谷川恵美さんが受賞した。長谷川さんは、睡眠・覚醒を制御する神経系や神経伝達物質の研究で顕著な成果を挙げてきた。特に、睡眠段階の1つであるレム睡眠のメカニズム解明を通じて、睡眠障害に特有の症状である情動脱力発作(カタプレキシー)の機序の理解に大きく貢献した。また、研究活動だけでなく、理系人材へのキャリア教育や、研究現場における女性活躍の推進に貢献している点も評価された。

 女性研究者の積極支援に貢献している機関を表彰する「輝く女性研究者活躍推進賞(ジュン アシダ賞)」は、日本ロレアル(東京都新宿区)に授与された。企業の同賞受賞は初めて。同社は、約20年に及ぶ「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」の運営を通じて、女性研究者の活躍を支援してきた。さらに、自社におけるキャリア構築や多様な働き方の支援によって、研究所の女性研究者比率59%、管理職比率47%を実現し、ダイバーシティ推進の最も理想的な形の1つとして評価された。

 「輝く女性研究者賞(科学技術振興機構理事長賞)」を受賞したのは、海洋研究開発機構 地球環境部門 地球表層システム研究センターで副主任研究員を務める永塚尚子さん。永塚さんは大気中や氷河に存在する微小な「鉱物ダスト」に着目し、大気や環境の循環や気候の変動について調査を進めている。ミクロからマクロまでをカバーする視点からの研究活動のほか、地球科学分野に関する広範なアウトリーチ活動への貢献も評価された。

表彰式に臨んだ橋本和仁JST理事長(いずれも左)と受賞者(左から長谷川さん、楠田さん、永塚さん)=10月27日、日本科学未来館
表彰式に臨んだ橋本和仁JST理事長(いずれも左)と受賞者(左から長谷川さん、楠田さん、永塚さん)=10月27日、日本科学未来館

世界最先端のダイバーシティ環境を目指して

 表彰式に先立つプレス取材では、受賞者による質疑応答が行われた。長谷川さんは「学生時代から実験が好きで、その延長で研究を続けてきた。その結果が今回の受賞につながり嬉しい」と喜びを語った。

 日本ロレアルを代表して出席したヴァイスプレジデント コーポレート・レスポンシビリティ本部長の楠田倫子さんは「日本奨励賞については応募者数が増えているだけでなく、分野や質もより深化したと講評いただいている。引き続き、さらに女性活躍の幅が広がるように応援をさせていただきたい」と展望した。

 永塚さんは「雪氷学は日本ではあまり馴染みのない分野。今後はこの研究の楽しさや面白さを伝えながら、後進の育成も進めていきたい」と、抱負を述べた。

 表彰式の冒頭、JSTの橋本和仁理事長は「女性活躍は今やあらゆる分野において期待されている。JSTとしても、科学技術の世界、またそれ以外の世界でも女性活躍が実現できるよう、少しでも貢献したい」と挨拶した。

 来賓として招かれた参議院議員の山東昭子さん(元参議院議長)は「多くの方のご尽力で、賞が定着してきたことは大変喜ばしい。女性研究者はどうしても女性であるがゆえのハンディキャップがあるが、それを乗り越えて、今後とも頑張っていただきたい」として、受賞者のさらなる活躍に期待を寄せた。

 同じく来賓として登壇した文部科学省 科学技術・学術政策局長の井上諭一さんは「特にサイエンスの現場では、自らと違う意見をもつ仲間の存在が重要。日本の女性研究者比率はまだまだ低いが、近年は少しずつ上昇してきている。引き続き、世界最先端のダイバーシティ環境の構築を目指して取り組みを進めたい」と強調した。

表彰式で挨拶する来賓の山東昭子さん(左)と井上諭一さん(右)=10月27日、日本科学未来館
表彰式で挨拶する来賓の山東昭子さん(左)と井上諭一さん(右)=10月27日、日本科学未来館

ジェンダー平等は経済成長や技術革新にも寄与し得る

 表彰式の後には、受賞者による講演が行われた。

 特に印象的だったのが、楠田さんによる科学研究における女性活躍の現状と日本ロレアルの取り組みの紹介だった。楠田さんは、同社が化粧品業界のなかでも早期から研究開発に力を入れてきたこと、また消費者の大部分を占める女性のライフスタイルの応援を柱としてきたことに触れ、同社にとって「科学における女性支援は極めて自然かつ重要なテーマだった」点を紹介。その一方で、社会的バイアスや家庭の影響、キャリア形成の難しさなどが原因で、日本における科学分野での女性活躍の度合いは世界的にも低水準にとどまっていることを指摘した。

 さらに、科学におけるジェンダーバイアスの影響は、人材登用の面だけにとどまらないという。たとえば、医学・薬学の臨床研究で行われる治験では、女性の被験者は男性と比べて少ない。そのため、ある睡眠導入剤では長年にわたり、女性の服用リスクが見過ごされてきたケースがあった。また、発展の著しい人工知能(AI)がかかわる領域では、男女間で音声や顔の認識精度に差があることがわかってきている。楠田さんはこれらの例を挙げながら「科学におけるジェンダー平等は女性活躍の支援だけでなく、経済成長や技術革新にも寄与し得る」と述べた。

 同社の受賞理由の1つとなった「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」は『世界は科学を必要とし、科学は女性を必要としている』というにスローガンのもとに2005年創設された。少子高齢化が進行する日本においては、理系人材としての女性がますます求められると予想される。今回の受賞者をはじめとする女性科学者・研究者がロールモデルとなり、科学の世界を目指す女性がさらに増え、その能力を多くの分野で発揮することを期待したい。

表彰式後のトークセッション=10月27日、日本科学未来館
表彰式後のトークセッション=10月27日、日本科学未来館

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