レポート

科学のおすすめ本ー 身近な鳥のふしぎ

2010.07.26

成田優美 / 推薦者/SciencePortal特派員

身近な鳥のふしぎ
 ISBN: 978-4-7973-5145-3
 定 価: 952円+税
 著 者: 細川博昭 氏
(作家、サイエンス・ライター)
 発 行: ソフトバンク クリエイティブ
 頁: 222頁
 発売日: 2010年5月25日

花鳥風月という言葉がある。それは日本人の自然観、美意識を端的にあらわす。中でも鳥は、季節の移ろいと共に人々の暮らしに興趣を添えてきた。本書は90種の鳥たちを主軸にサイエンスと文化史的な魅力を併せ持ち、読者の精神世界を楽しく刺激してくれる。

1羽を見開き2ページで紹介する本文は、右側がきれいなイラストと写真2枚、左側に特徴がまとめられている。花の蜜を吸う愛らしさ、風を切って大空を飛翔する姿、夜半に獲物を狙う眼と耳の進化。鳥の多様性に驚かされる。序章で鳥の基礎知識(外観や部位、習性・行動)が詳細に図解・説明されており、巻末には既出の鳥の分類一覧と、ハンディな事典としても便利だ。(オールカラー)

著者は大学で物理学を専攻、先端科学技術についての記事を書く一方、江戸文化をフィールドにしている。十数年にわたって鳥の飼育の研究を続け、本書でも古事記や万葉集、国立国会図書館所蔵の江戸期の文献からの逸話が歴史的な興味を誘う。

また、鳥の「声」と「色」の表記へのこだわりを述べ、声は1つの項目としてキャプションが設けられている。よく知らない鳥は間近で見ないかぎり、鳴き声が判別する重要な要素になる。自分ならどのように表現するだろう。思い比べるのも面白い。

もう一つ「色」については、例えば羽毛の白のニュアンスの違いをイメージしやすいように書き分けているそうだ。朱鷺(とき)色、鶯色など日本の伝統色には鳥に由来したものがあるが、オオルリやカワセミなどの青や緑は色素をもっているわけではない。本書によれば「羽毛の表面にある、微細な構造が光を回折させることなどによって青や緑の色彩を作り出している構造色と呼ぶ」らしい。瑠璃色が一層魅惑的に思える。

鳥は自然界の変化のメッセンジャーでもある。著者は絶滅が危惧されている鳥たちを通じて地球温暖化、熱帯雨林の減少、開発、狩猟の鉛弾中毒など生息環境の悪化を伝える。風力発電の風車に衝突するバードストライクは難しい問題だ。

そして鳥の貯食の記憶力、パンくずや小石などを水面に落として寄ってきた魚を捕まえるという疑似餌を使う潜在能力はミステリアスだ。著者の『鳥の脳力を探る』(サイエンス・アイ新書)もお勧めしたい。

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