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本のタイトルは、「原発とプルトニウム」となっている。このタイトルから皆さんはどんなテーマを予想するだろうか。 おそらく、原子力発電の原理を説明するものと思われるのでは? しかし、本書はそのような目的で書かれてはいない。
プルトニウムとはどういう物質で、どのように危険なのか? よく耳にする高速増殖炉とは普通の原子炉と何が違うのか? 地球温暖化問題が騒がれる中で、原子力発電が注目されているが、リスクはどのようにとらえたらよいのか? こうした世間の関心が高い疑問にもあまり触れていない。
著者は、大半を原子核物理学史にページを割いている。物質の根源とは何か? 科学者が探求を始めた当初は、科学者は純粋な知的好奇心のみを持って研究をしていた。しかし、戦争が始まれば、その政治的駆け引きの道具としてなかば強制的に研究が遂行され、そこには必ずしも科学者の純粋な知的好奇心だけが存在したわけではなかった。その歴史の転換期を、多くの科学者のかかわり方から伝えようというのが本書の目的である。
本書の対象となる読者層は、あとがきにもある通り「『理系』に進もうかと考えている高校生や、すでに『理系』に進んだ大学生」が妥当であろう。あまりに多くの科学者が唐突に出てくるのに加えて、理解を助ける図が少ないことも影響して、一般の方にはとっつきにくいかもしれない。
最終章は、「『原子力平和利用』の時代」と銘打たれている。著者は、今後日本が原子力とどのように付き合っていくべきかを考察している。著者の主張は、核燃料サイクルを放棄すべきだ、というものだ。コストの面と再処理工場のキャパシティとリスクの面で問題があると指摘している。確かに著者の主張も納得できるが、環境問題などを考慮すると、ウラン資源全量を海外に頼らざるを得ない日本としては、核燃料をリサイクルして使用する核燃料サイクルの道を模索する重要性も理解できる。
核燃料サイクル方式がよいのか、一度使用したら廃棄処理に進むワンスルー方式がよいのか。国民一人一人が原子力エネルギー利用の基礎的知識を持ってきちんと意思決定できるようになり、その上で本書が理解の助けとなれば、と思う。