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本書は写真というアプローチにより先端科学技術に光をあてたとても個性的な作品となっている。
核融合研究施設や加速器研究施設、外郭放水路などの巨大施設写真があらゆる角度から収められており、それら施設を撮影する際の著者のコメントや専門家による解説や展望、そしてそれら機器に込める思いなどが語られている。これらが写真集としても十分に魅力のあるこの作品を、写真集という枠に収まらないユニークな一冊にしている。
本書に収められている写真の数々は巨大機器構造物への見方を変えてしまうほど美しく精巧で凛(りん)とした存在感を放っている。そして無機質なはずのそれら機器にどこか生命体を想像してしまうのは私だけではないだろう。本書からはそれら空間の放つ圧倒的存在感を感じることができる。忘れてはいけないのは、その空間にはこれら技術を可能にしてきた、多くの人の人生も内包されているという点である。
「この国にとって重要なことは、研究開発や物を作ることを通して、未来を提案してゆくこと。私がやらなければならいことは、その提案を、より多くの人に伝えること。写真を撮影し発表することで、未来に関わってゆく。現時点での、私なりの答えだ。」
科学技術の発展には常に光と影がつきまとう。だが大切なのはそれを扱う人々の思いであり、本書は今までにないアプローチによりこれら科学技術に光をあてた一冊となっている。