レポート

科学のおすすめ本ー 何とかなるさ! ママは宇宙へ行ってきます

2010.04.05

安田和宏 / 推薦者/SciencePortal特派員

何とかなるさ! ママは宇宙へ行ってきます
 ISBN: 978-4763199928
 定 価: 1,400円+税
 著 者: 山崎直子 氏
 発 行: サンマーク出版
 頁: 222頁
 発行日: 2010年2月15日

宇宙飛行士候補者に選出された1999年2月、著者は記者会見の場で、自身の長所を「意志の強いところ」、短所を「多少楽観的なところ」と語っている。意志の強さ、つまり一度決めたら譲らない頑固さと、本書のタイトルにもなっている「何とかなるさ!」という楽観主義とが、絶妙にバランスしている著者の人となりを感じることができる。

優しい語り口で、幼少のころの体験がつづられる。千葉県松戸市で生まれ育った山崎氏は、短期間過ごした北海道での「星を見る会」(町内会主催の観望会)のことを思い出しながら、兄と共にプラネタリウムに頻繁に足を運んだ。「ハー、宇宙って広いなぁ」という感覚が、素朴な「好き」という気持ちを大事にする原点となったようである。その後、大学、大学院で航空宇宙工学を学び、米国での留学ではロボット工学を研究した。

山崎氏は、「ISS(国際宇宙ステーション)の長期滞在専門の宇宙飛行士」として選ばれた。毛利衛氏などのような、米国・スペースシャトル内任務が前提となっている宇宙飛行士とは、立場は異なる。2003年のスペースシャトル「コロンビア」空中分解事故を受け、ISS建設予定が一時白紙に戻されている。その間、先の見通しが不透明な中、ロシアの宇宙船「ソユーズ」のフライト資格取得のための訓練を受け、準備を整えてきた。

いよいよ4月5日朝(日本時間では同日夜)、スペースシャトル「ディスカバリー」が打ち上げられる。相当量の物資をISSに運ぶ任務を携えて、搭乗することになった山崎氏は「たくさんの人びとの努力や思いも、一緒に運べたらと思います」と述べた。訓練を開始してから、結婚、出産、祖母の死、夫の病などの経験を通して、ついにこの日を迎えられることの喜びに満ちた言葉であろう。

本書は、宇宙開発とて、家族や多くの仲間のサポートや熱意によって支えられていることに気付かせてくれる。特に、NASA(米航空宇宙局)の「ファミリーサポートシステム」についての記述に注目してほしい。「宇宙に行く宇宙飛行士より大変なのは、実はその家族」という山崎氏の言葉はとても重みがある。そして同時に、生きる勇気や夢を追い求める素晴らしさを感じさせてくれる読み物となっている。将来のことについて思い悩んでいる中高生や、仕事に行き詰まりを感じている社会人にも元気を与えてくれることだろう。

最後に、宇宙飛行士を目指す方へ、精神医学の専門家が作成した宇宙飛行士候補選抜の問題を一つ紹介する。「あなたは桃太郎と浦島太郎のどちらが好きですか?」。ヒントは、山崎氏の「何事も鈍感に楽しめること」というコメントの中にある。

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