文部科学省が進める「元素戦略プロジェクト」、経済産業省が進める「希少金属代替材料開発プロジェクト」の合同シンポジウムが、1月27日に東京大学で開催された。約1,000人の参加者で満員になった安田講堂の熱気の中、取り組むべき課題の重要性とわが国としての推進の必要性が議論された。合同シンポジウムは今回が3回目で、これまでは内閣府、文部科学省、経済産業省、科学技術振興機構、新エネルギー・産業技術総合開発機構により行われていたが、今回は環境省も加わり、より幅広い視点からの報告が並んだ。
内閣府総合科学技術会議の奥村直樹議員から、「国家的な課題への速やかな対応という点でも、密な府省の連携の成功例であるという点でも、大きな期待を抱いている」との話があった。元素戦略/希少金属代替材料開発・合同戦略会議(本シンポジウム主催者)の議長を務める岸輝雄・物質・材料研究機構理事長からは、「代替材料開発は世界全体の大きな課題であり、これまで培われてきたナノテクノロジーや材料の技術を用い、国家的な取り組みをさらに加速して行わねばならない。融合的・統合的な研究開発が必要で、環境省が加わりさらなる成果が期待される」との考えが示された。
施策に関しては、文部科学省が、元素戦略プロジェクトでこれまで行ってきた希少資源の代替・減量の取り組みに、希少資源の循環の視点まで広く取り入れ、拡充して推進していくことを明らかにした。また経済産業省から、これまで推進されてきた希少金属代替材料開発プロジェクトに、新たな鉱種を加えて積極的に展開していくことが示された。さらに今後は環境省と密な連携をとっていくことも確認された。
東工大の細野秀雄教授、理化学研究所基幹研究所の玉尾晧平所長らからは、求められている成果の厳しさと、その中にある材料研究のワクワクするような将来像が語られた。
企業戦略から見た両プロジェクトへの要望が、三菱化学の山本巌・執行役員、トヨタ自動車電池研究部の射場秀紀・部長らから語られ、自動車を形成する材料の研究とは切っても切り離せない内容であること、化学会社からの視点でもエネルギーや資源の転換を推進するために必要不可欠の研究開発コンセプトであることなどが挙げられた。また、日経BPの丸山正明編集委員からは、ものづくりの基盤となる材料開発と、将来のイノベーション創出のために行わなければならない布石を着実に打っておかねばならない、との意見が示された。
物質・材料研究機構の原田幸明ラボ長が、都市鉱山の考えとレアメタルの回収や再生利用技術について語り、研究開発戦略センターの安井至・上席フェローは、環境・エネルギー技術立国へ向かわねばならないわが国の現状と、元素戦略や希少金属代替材料開発の社会的意義を話した。
さらに研究当事者を代表して、東北大学の杉本諭・教授から希土類磁石向けDy(ジスプロシウム)低減の成果、神奈川科学技術アカデミーの長谷川哲也プロジェクトリーダーから酸化インジウムスズ(ITO)代替材料開発の成果がそれぞれ明らかにされ、その他全プロジェクトの成果が直接討議される熱のこもったポスターセッションも行われた。
最後に研究開発戦略センターの村井眞二・特任フェローから、わが国が世界を先導する形で始まった新しい科学技術ビジョンであり壮大な計画である「元素戦略」と、国家的に喫緊の課題である「希少金属代替材料開発」を、志高く進めるべきだとの考えが述べられた。
今後へ向けて、さらなる積極的な府省連携による有効な施策の立案と推進、現在採択されている課題からの成果創出、プロジェクトの拡充などに多くの期待が集まった。次回シンポジウムで、「元素戦略/希少金属代替材料開発」のさらなる展開が報告されるであろう。