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「道」は誰のものか―新興モビリティによる「混在交通」を考える(樋笠尭士/多摩大学経営情報学部 准教授)

2026.01.23

樋笠尭士 / 多摩大学経営情報学部 准教授

 近年、自動運転バス、電動キックボード、電動車椅子、自動配送ロボットなど、新しいモビリティが道路や歩道に増えてきている。モビリティの数と種類は際限なく増加するが、道の幅は変わらない。カオス化した現代の道路事情を筆者は「混在交通」と呼び研究対象にしている。この問題について皆さんにもぜひ考えてもらいたい。

樋笠尭士氏
樋笠尭士氏

自動走行モビリティ実証の裏に課題やリスク

 まずは日本でも盛んに実証実験が行われている自動運転バスを見てみよう。すでにさまざまな技術的課題が浮上している。路上駐車車両を追い越せずに緊急停止するケースや、横断歩道ではないところを渡る歩行者や車道を走る自転車を車体横のセンサーが検知して急停止するケースなどが見受けられる。

昨年12月に香川県坂出市で行われた自動運転バスの実証実験
昨年12月に香川県坂出市で行われた自動運転バスの実証実験

 自動配送ロボットは、歩道上も走行可能(時速6キロメートルまでなら一部の歩道や路側帯の走行も認められている)であるため、歩行者とのインタラクションを行う機能を備えた製品もある。センサーで衝突を防止し、音声などで歩行者等へ声掛けを行い、何かあれば遠隔監視センターで監視員がカメラ映像と音声を用いて問題に対処する。車両ごとの性能差も大きく、メーカーの異なる車両同士や自動車との接触、センサーの不検知などのリスクももちろん存在する。

歩道を走行する自動配送ロボット
歩道を走行する自動配送ロボット

交通ルール違反相次ぐ電動キックボード

 すでに市民権を得つつある電動キックボードも、多くの課題が指摘されている。2025年2月27日の警察庁発表によると、電動キックボードに代表される特定小型原動機付自転車の違反は、解禁から1年半で4万8376件に上る。うち2万8000件近くが二段階右折(交差点で二度信号に従い、直進し渡りきった後に向きを変えて右折する)などの交通ルールに従わない「通行区分」違反であり、違反の約6割を占めている。

首都圏では日常的に見かけることも多くなった電動キックボードのポート(貸出返却場所)
首都圏では日常的に見かけることも多くなった電動キックボードのポート(貸出返却場所)

 電動キックボードは、16歳以上であれば免許不要で乗れてしまう。アプリ上で簡単な○×の設問で「教育」を受けただけの利用者は、必須である二段階右折ルールに従わないのはもちろん、歩道を6キロメートルモードではなく20キロメートルで走行してしまうこともあり、社会問題となっている。ヘルメット着用も任意であり、自転車同様、事故時の致傷・致死率が高いままである。

子どもや高齢者への衝突リスクが高まっている

 このように、今日の歩道ではある程度の速度で走行する電動キックボード・自動配送ロボットなどの新興モビリティが、電動車椅子や自転車とも合わさって通行している。子どもや高齢者など歩行者が占有する空間は相対的に狭くなり、不安感・不快感だけでなく、客観的に衝突のリスクも増加している。

 また、車道でも、時間的制限のなか法定速度を超えがちなフードデリバリーなどの配送ギグワーカーのバイクや、シェア形態が主流の電動キックボードなどは、場面に応じた走行速度・場所が安定せず、事故の可能性も高まっている。

 さらに歩道がない道路においては、これらすべてのモビリティが車道や歩道で競合し、生活道路として利用する子どもや高齢者等の交通弱者が危険に晒されている。これらは、「混在交通」に関する社会問題といえよう。

今日の道路上にはこれだけ多くの利用者・モビリティが集中している
今日の道路上にはこれだけ多くの利用者・モビリティが集中している

知識をつけて地域における合意形成を

 では、地域や社会がどのように「混在交通」と向き合えばよいのだろうか。

 自動運転バスについては、「完璧ではないし、隣に近づかれると困るし、路上駐車車両が苦手です」という「弱さ」や「リスク」と、その「回避方法」(近づかない、路上駐車しない)を、利用をしない非受益者を含む地域住民が知るのが第一歩だろう。その上で、地域においてどのような支援体制が必要で、誰がどのような負担を負うべきかの合意形成が必要だ。

 電動キックボードなどの特例特定小型原付の場合には、6キロメートルモードに変更すると、緑色のランプが点滅し、歩道走行モードであることを周囲に知らせる機能があるが、この仕組み自体が歩行者に認知されていない。よって、違反者の行為を歩行者側が「違反」だと思わないで黙認するケースも見受けられている。我々も、点滅していないのに歩道を走っている者を注意できるような、そもそもの知識をつける必要があるだろう。同時に、自転車にも同様のことが言えるため、自転車やキックボードが歩行者を危険に晒さないための交通教育も重要だ。

京都市内に設置された電動キックボード用の標識
京都市内に設置された電動キックボード用の標識

移動の価値と権利を多角的視点から考察

 モビリティを利用する受益者に対し、利用しない非受益者の負担(危惧感やリスクの受け入れ)が生じ得る新興モビリティについては、「混在交通」という上位のフレームで議論をすべきだ。つまり、そもそも「道のなかで、誰が優先されるべきか」という根源的な問題に立ち向かう必要がある。

 筆者が研究代表を務める混在交通プロジェクトでは、「混在交通の道はだれのものであるか」を検討するために、「交通とは何か」を根源的な問いとして設定している。これは、人類が求める普遍的な価値の一つとして、移動の価値(=モビリティ/移動性、可動性、動きやすさ)と権利に関わる問いだ。同時に、リスクと安全・安心、公と私、効率と公正を内包する問いであり、技術、法、心理、倫理の視点から連携して考察する必要がある。

筆者が研究代表者を務める混在交通プロジェクトは、法・心理、技術、倫理の各専門家が集い、快適な道路環境づくりを目指している
筆者が研究代表者を務める混在交通プロジェクトは、法・心理、技術、倫理の各専門家が集い、快適な道路環境づくりを目指している

 多種多様な新興モビリティは人々の移動の可能性を拡げるものだ。では、人間の移動能力が拡張するとき、社会はどのようにそれを受容するのか、どのように法やガイドラインを整えていけばよいのか。これらは言説化すべき課題の一つである。混在交通の道をどのようにシェアすべきかを議論することは、人や社会のより良いあり方と密接に関係するため必要不可欠だ。

新たなモビリティは今後も登場する

 日本でも将来的に自動運転タクシーが実装されるだろう。一歩先を行く米国では、人の運転よりも事故率は少ないものの、スクールバスを追い越す違反事例や、停電で止まってしまう事例も発生して社会問題になっている。

 また、免許返納者向けのシニアモビリティとして4輪バギータイプの特定小型原付も登場している。高齢者の移動手段として利用の増加が予想されるが、交通教育を受ける機会はないという状況の悪化も同時に懸念される。

 さらに経済産業省は、中速(最高時速20キロメートル)の配送ロボットの開発・実装も推進している。

 このように、今後もモビリティは次から次へと登場するだろう。その流れに対しては、歩道や車道、すなわち「道」のあり方を全てのステークホルダーで議論し、優先度について合意形成を図る取り組みが期待される。

答えは地域や習慣などで変わりうる

 筆者が小学生を対象に行った「混在交通学」では、子どもから「自動配送ロボットを優先すべきだ」や「すぐ避けられるかどうかが決め手だから、子どもより俊敏でない車椅子が一番優先だ」など、さまざまな判断基準が提示された。

混在交通学の授業で用いた問い
混在交通学の授業で用いた問い

 混在交通の優先度に対して、何もしないままなのは不正解だが、正解を探そうとすることも果たして正解なのであろうか。少なくとも各地域の人口やインフラ、慣習や移動形態によっても答えが変わりうるので、一般化は難しいものかもしれない。

 さて、あなたは、道で誰が優先されるべきだと考えますか?

樋笠尭士(ひかさ・たかし)

多摩大学経営情報学部 准教授

上智大学法学部法律学科卒業。中央大学大学院法学研究科修了、博士(法学)。ISO/TC241 WG6では日本代表として、自動運転の倫理に関する国際指針ISO39003の策定に貢献した。混在交通プロジェクト代表者。近著『自動運転レベル4:どうしたら社会に受け入れられるか』学芸出版社(2023年)は、第49回「交通図書賞(技術部門)」(公益財団法人交通協力会)を受賞。川崎市の栗平で開催されているマチカドこども大学の代表も務める。

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