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インテグレーテッドファンドリーのすすめ(池田修二 氏 / SVTC/ATDF テクノロジーマーケッティングディレクター)

2008.04.16

池田修二 氏 / SVTC/ATDF テクノロジーマーケッティングディレクター

SVTC/ATDF テクノロジーマーケッティングディレクター 池田修二 氏
池田修二 氏

 これからの半導体生産企業の形として、半導体プロセス開発から、プロトタイプ試作(試験的な製品の少量試作)、量産まで一貫して受けるインテグレーテッドファンドリー(Integrated Foundry)を提案する。

 1980年代後半、チップファンドリー(顧客が設計した製品を生産する半導体チップ製造専門企業:一般にファンドリーと呼ばれるが、ここでは私が提案するインテグレーテッドファンドリーと区別するためチップファンドリーと呼ぶ)がスタートした。TSMCやUMC(いずれも台湾)をはじめとするチップファンドリーは、巨大な設備投資を必要としないファブレス(自社で生産設備を持たない)会社の高揚を促し、お互いの成功をもたらした。2004年に米テキサス州のATDFでスタートしたR&Dファンドリー(研究開発ファンドリー)はIDM(垂直統合型デバイスメーカー)の研究開発費低減だけではなく、設備を持たないスタートアップ企業にアイデアを検証する道を拓き、新たなビジネスモデルを構築した。

 しかしながら、R&Dファンドリー、チップファンドリーだけではスタートアップ企業のアイデアを製品化できない。プロトタイプを試作する場所がないのである。大きなビジネスチャンスがここにある。

 開発案件を広く顧客に求めるのは大きな意味がある。利益を追求する企業では、製品の要求がないプロセスは開発できない。チップファンドリーは最先端プロセスを必要とする多くの顧客に支えられ、プロセス開発でもIDMをリードした。当初プロセス開発で負けるはずがないと言っていた日本の多くのIDMは、微細化を必要とするメモリーから手を引いた結果、必ずしも最先端プロセスを必要としなくなり、プロセス開発で大きく遅れた。

 ここで提案している、インテグレーテッドファンドリーは、開発、プロトタイプ試作、量産を一貫して引き受けることにより、勝つアイデアを顧客から、世界中から集める意味がある。開発の中には生産に結びつかない技術・製品も多いが、中には大量生産につながるものがある。技術移管を行うリスク、費用を考えれば、多少価格が高くても、安いチップファンドリーに流れることなく、量産につながる。もちろん中には新規プロセスの負荷が軽く、技術移管が比較的易しいものもあり、他のチップファンドリーに流れるものもあると考えられるが、それはそれでよし。価格で勝つ必要はない。もちろん価格でも勝つことはすばらしいことで、そうなれば、真っ向勝負すればよいのだが、ここでは価格が高くても戦えるシナリオを議論している。

 日本のよい点は材料・装置開発が極めて強い点である。そして、ものづくりがうまく、きちんと仕事をこなし、人材も優秀である。インテグレーテッドファンドリーに最も適した国であると考えている。顧客のアイデアが集まることにより、材料・装置の開発はますます強くなり、プロセス技術も飛躍的に向上する。

 残念ながら日本では自分のアイデアで起業しようとする人はアメリカに比べて少ない。これはアメリカ人と日本人の本質的な違いではなく、環境の違いが大きい、と私は感じている。アメリカではアイデアを提案すればお金を出してくれる人がいる。しかも、そのアイデアがうまくいかなくても、自分が破産することはない。たとえば3年間出資してもらえば、その間十分よい給料で働けるのである。仮に失敗しても、次の仕事を探せばよい。

 日本では、自己資金を使うことも多く、銀行や、友人からお金を借りたり、うまくいかないと損をするし、お金を出してくれた人に申し訳ないという自責の念に駆られる。このため会社を辞めて起業しようとする人はアメリカに比べてはるかに少なく、生まれてくるアイデア自体も会社でできることに限られる場合が多い。日本にアメリカと同じ起業の土壌があれば、すばらしいアイデアが生まれ、アメリカより多くの起業家が育つことは決して不可能なことではない。最近チップファンドリーの提供するシャトルサービスを利用し、回路技術に新しいアイデアを盛り込んで、新製品、新技術を世の中に送り出す起業家が日本にも増えつつある。しかしながら、プロセス変更を伴うような新しい構造の半導体の提案は少ない。自分のアイデアを開発できる場所が日本にないのである。この意味でも、日本にインテグレーテッドファンドリーを作る意味は大きい。プロセス開発から製品化まで一貫して引き受けるところが日本にあれば、多くの新技術、起業家が育つであろう。

 ここで提案した、インテグレーテッドファンドリーは、材料・装置開発、技術、ものづくり、そして人材といった、日本の強みを最大限に生かすことができ、日本に適したビジネス形態であると考える。さらにはチップファンドリーとファブレスの関係のように、インテグレーテッドファンドリーにより、多くの起業家が誕生し、日本発の新規アイデア、製品、技術を多く創設できると考えている。日本の半導体業界発展のために極めて有効なコンセプトであると確信している。

SVTC/ATDF テクノロジーマーケッティングディレクター 池田修二 氏
池田修二 氏

池田修二 氏のプロフィール
1956年東京都生まれ、78年東京工業大学理学部物理学科卒、プリンストン大学電気工学科修士、東京工業大学工学博士。78年日立製作所入所。半導体事業部でSRAM、LOGIC、RF、混載メモリープロセス開発に従事。2000年トレセンティーテクノロジーズ出向。全工程枚葉プロセスを開発。05年米テキサス州、オースティンにあるATDFに移る。技術部門を取りまとめるほか、R&Dファンドリーのビジネスモデル構築、顧客開拓に従事。日本特許取得200件以上、米国特許取得70件以上。プロセス開発、製造の分野で、学術論文50件以上。国際学会での招待講演、論文発表多数。1993年~2002年 IEDM(International Electron Devices Meeting:国際電子デバイス会議)委員。2002年アジア初のIEDMジェネラルチェア。現在IEEE(米国電気電子学会) AdCom選任委員、IEEE EDS VLSIコミッティー委員、IEEE Reynold B Johnson Data Storage Device Technology Award Committee 委員、VLSIシンポジウムテクニカルプログラム委員などを務める。IEEEフェロー。

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