インタビュー

第3回「若い人へのメッセージ」(Jerome I Friedman 氏 / ノーベル賞物理学賞受賞者)

2006.10.16

Jerome I Friedman 氏 / ノーベル賞物理学賞受賞者

スペシャルインタビュー

Jerome I Friedman 氏
Jerome I Friedman 氏

ノーベル物理学賞を受賞したフリードマン博士が自らを語る、サイエンスポータルスペシャルインタビュー(全4回シリーズ)

—基礎研究について

基礎研究とは自然の仕組みを知ることです。最初から成果を応用するつもりで研究するものではありません。なぜならば、最先端の知識を手にしたとき、その知識をどのような技術で応用することが可能なのか知ることは困難だからです。しかし基礎研究は、必ずいくらかのリスクも孕んでいます。

何が見つかるかがまったく予想できないからです。偉大な発見をするかもしれませんし、何も見つからないかもしれません。しかしそれが自然を理解することの不確かさなのです。自然に対しては良い問いかけを行わなければなりません。そうすると、それらの質問はときに明瞭な答えへと導いてくれますし、またときにははっきりとした結論に辿り着けない場合だってあります。振り返ってみれば、私自身が成し遂げた大きな成果には、必ず多大なリスクが伴っていました。Ph.D取得後、ヴァレンティン・テレグディと行った初めての実験がその始まりでした。その他の二つの実験とともに、私たちはパリティの非保存を発見しました。

しかし実験を開始する前は、周りから「パリティは保存されるのが常識だろう」といわれたものです。シカゴ大学でセミナーに呼ばれたときも、発表後に高名で偉大な物理学者が私のところに来て「面白い話だったけど、君は何も発見しないだろう」と言いました。そして陽子の構造を研究していたときにも同じことが起こりました。

実験を始める前、立派な物理学者たちから「まったく時間の無駄だ」と言われました。既に言ったように、私たちはクォークを信じていたわけでもなければそれを探そうとしていたわけでもありません。ただ、陽子の構造を知りたかったのです、それが何でできているのかを。そしてそれは完全に時間の無駄だと言われました。しかし結果的には彼らの予測は間違っていたことが証明されました。

私は若い人たちに言いたいのです。現時点で解明されている科学について、可能な限りよく勉強しなさい。そしてリスクの多いプロジェクトでも確信が持てるのならば、やってみなさい。結果は誰にもわかりません。歴史的な発見に繋がるかもしれない。しかしそうでなかったとしても、諦めないのが大切です。リスクを受け入れることは、実験が期待した成果を上げずに終わることがあり得ることを意味しています。卓越したことを成し遂げるまでに、必ずどこかで失望を味わうのです。科学の分野で素晴らしい結果を残したいのならば、リスクを恐れてはならないのです。

—若い人へのメッセージ

私はこのメッセージをいつも学生全員に言っています。まず、「心から愛することを職業にしなさい」と。大きな功績を残すには途方もない献身が必要です。自分が熱中できることでなければそれほど全てを注ぎ込むことはできません。人生で最も重要なのは心の底から愛せる何かに携わるということです。

私自身を突き動かした最大の原因は自然の仕組みに対する深い好奇心でした。自然とは美しいものです。そして謎が多い。畏敬の念を起こさずにはいられません。宇宙では一体何が起こっているのか考えたとき、ただただ圧倒されます。これまでの歴史で、特に前世紀に解明された科学は目覚しいと思います。信じられないような小さいスケールで物事を理解できているわけですから。

宇宙の誕生、そして進化についてもある程度の知識を得ることができました。そして宇宙がこれから辿るかもしれない運命のことも。科学とは最も小さいものから最も大きいものまで全てをカバーしています。生物科学では生命の仕組みや遺伝学、そして細胞の機能や脳の働きについての理解が非常に深まっています。生物科学の分野でなされた偉業の数々には驚きます。そして自然について興味深く学ぶべき重要な物事はまだまだたくさんあるのです。物理学的、そして生物学的の両面で。そして、生物学的な自然の中心には、物理学的自然も存在しているのです。

そこには素晴らしいキャリアの可能性があります。私自身、自然に対する理解を深めることを非常に楽しみました。今でも偉大な発見について聞くと興奮します。現在解明されつつある知識などにいつも感嘆しています。それは私にとって飽きることのないテーマです。自然について少しでも好奇心を持っている学生には、科学の分野で仕事を見つけることを強く勧めます。素晴らしい機会に恵まれた分野だからです。

—自由な時間があったら、何がしたいですか?

自然に関する疑問をもっと深く考えたいですね。そして絵を描いたり音楽を聴いたり、あとは良い文学を読んで演劇やダンスも見に行きたいと思います。

—無人島へ行くとしたら、何を持っていきますか?

そうですね。まずはお気に入りの音楽がたくさん入ったiPodを持っていきます。バッハやベートーベンやモーツァルトなどの素晴らしいクラシック音楽を入れます。もちろん他にも好きな音楽はたくさんあるのですが。iPodには60ギガ(バイト)ものデータが保存できるのでたくさん曲を入れられますね。

—若い世代に薦める一冊は?

一つだけ助言したいことがあります。どのような分野に進むにしても、人文科学と美術と社会科学について知識を深めることは必要不可欠です。これらについて書かれた素晴らしい書物は数多く存在するので特にお勧めする一冊はありません。誰もがこれらの分野についてよく知った方がいいと考える理由はいくつかあります。まず、人として世界の文化や人間の交流について広く知るべきだと思います。

それらを勉強することは自らの人間性を深め、道徳観念を身に付けるために大変重要です。さらにはその知識によって人生がより一層豊かになるからです。仕事だけではなく、音楽や美術や文学を楽しむことで自分を高め、可能性を広げられるのです。そういう理由で特に科学や技術の道に進む学生は人文科学と社会科学と美術についてよく学ぶべきだと思います。それが私から学生たちへのアドバイスです。

—あなたの夢は?

私の夢は世界が平和になることです。貧困をなくし、世界中の人が幸せな生活を送れること。そして皆で協力して、伝染病をはじめとする病気を撲滅することです。

Jerome I Friedman 氏
(ジェローム・アイザック・フリードマン)
Jerome I Friedman 氏
(ジェローム・アイザック・フリードマン)

Jerome I Friedman(ジェローム・アイザック・フリードマン) 氏のプロフィール
1930年3月28日生まれ アメリカ シカゴ大学で博士号を授与され、1967年にマサチューセッツ工科大学教授となる。1990年には、「陽子と重水素核による電子の深部非弾性散乱に関する研究」によりクォークを発見した功績を認められ、ヘンリー・ケンドール教授およびリック・テイラー教授らと共にノーベル物理学賞を受賞。
アメリカ物理学会長をはじめ、日本でもつくば高エネルギー加速器研究機構の評議員を務める等、素粒子物理学実験の分野で幅広く活躍している。
また、最先端の物理を分かりやすく講義するとともに「若い人たちに科学の面白さを伝えたい」と学生たちの質問にも気さくに答える温厚な人柄で知られている。

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