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人材育成は資質の見極めが大事(高木晴夫 氏 / 慶應義塾大学・大学院 経営管理研究科附属ビジネススクール 教授)

2007.06.28

高木晴夫 氏 / 慶應義塾大学・大学院 経営管理研究科附属ビジネススクール 教授

研究会「サービスイノベーションと知的生産性を考える」(2007年6月27日、東京工業大学統合研究院 主催)講演から

 多くのチェーン店を抱えるサービス企業は、広域店舗の活用ということで情報技術の活用が進んでいる反面、マニュアル重視のために従業員がロボット化しがちという弱みがある。客にマニュアル通りの言葉をかけているだけでも報酬は得られる。このような外発的な動機付けは大きいが、お客の様子を見て一言、言葉を付け加えることでサービス向上を図ろうといった内発的動機付けが小さい。店員は一段高いレベルの仕事をする機会が少なく、そうしようとする動機付けも持ちにくいわけだ。店員の中から店長候補をいかに育てるか、店長の中からその上に行く人間をいかに育てるかが、重要になってくる。限られた自由度の中でも内発的な動機付けを深められる人材をいかに発見し、育てるかということだ。

 恐らく訓練だけではこうした人材を育てることはできず、何らかの素質というものが働いていると思われる。ネズミによる実験例がある。触れると痛みを感じる電流が底に流してあるカゴの中にネズミを入れると、逃げようと何回か繰り返すうちにあきらめて動かなくなる。こういうネズミ群と、わずかの可能性を求めてなかなかあきらめず、その結果、カゴの隙間から電流を通していない隣のカゴに逃げ出すことができる群に分かれる。二つの群の脳の中を調べると、わずかの可能性にかけたネズミ群の脳の方にエンドルフィン(注)が多く見られたという結果が得られた。まだ研究は不十分だが、エンドルフィンの受容体が多いか少ないかという先天的な資質が、ネズミの行動の違いに影響していることが考えられる。

 人間についても、いろいろな事情で生まれてからすぐに別々の環境で育った一卵性双生児に対する研究がある。世界でこのような一卵性双生児は2000組いるそうだが、これらの一卵性双生児を再び集めて観察すると、先天的な部分によると見られる影響が30〜40%はあると言われている。

 先天的なものを重視するということは、医師は頻繁に行っている。同じ症状だからといって同じ治療ということはない。患者の体質、家族の病歴などを聞いて、個々の患者に合わせた治療を医師は行っている。つまり患者の先天的なものを考慮しているわけだ。医師に聞くと50%くらいは先天的なものを重視しているという。

 人材育成という面でもどういう資質の人に対し、どういう訓練をするかが大事。訓練してもしようがない人にやっても無駄ということだ。ポテンシャル能力、つまり限られた自由度でも主体性を高く持てる能力のある人を発見して育成することが大事だということになる。

注)エンドルフィン:
脳内の神経伝達物質。モルヒネと似たような作用を持ち、例えば長時間走り続けると高揚感が生じるのはエンドルフィンの分泌によるという説がある。

高木晴夫(たかぎ はるお)氏のプロフィール
1973年慶應義塾大学工学部管理工学科卒業、78年慶應義塾大学院博士課程工学研究科管理工学専攻単位取得退学、84年米国ハーバード大学経営大学院博士課程経営管理研究科経営学修了、経営学博士取得、85年慶應義塾大学・大学院経営管理研究科助教授、94年から現職。「やる気を引き出す職場管理術 」(日経連出版部 、2002年)など著書多数。

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