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コラム - インタビュー -

第2回「社会変革もたらすものこそ」

内閣特別顧問・イノベーション25戦略会議座長 黒川 清 氏

掲載日:2007年4月23日

「真善美への情熱-イノベーションの源」

世界中が政策のキーワードを、科学技術からイノベーションへとシフトしてきている。日本でも、安倍首相の肝いりで「イノベーション25」の検討が進んでいる。いま、なぜイノベーションなのか。イノベーション25戦略会議の座長を務める、黒川 清・内閣特別顧問に聞いた。

- ではイノベーションが使われ始めた背景から教えてください。

黒川 清 氏

黒川 清 氏

 

これは一例ですが、インターネットは、1980年くらいからアメリカが軍事用のものを大学向けに開放しました。インフラを政府が提供して、誰が使ったのかといえば、当時は専門家以外誰も使えなかった。80年代に世界中に普及していたのはファクスです。80年代からコンピュータが小さくなって、便利だなと思っても、主としてワープロや表計算にしか使っていなかった。一部の専門家はEメールを使っていた。しかし、それを見て、「そうか!」と考えた人(バーナーズ・リーさん)が、www(ワールド・ワイド・ウェブ)をつくる。これが92年です。

インターネットはインフラですから、それをどう使うかが大事で、それがイノベーティブなアイデアです。それを見たとたんにMOZAICというソフトが出る、ネットスケープが94年に出る。そのソフトが面白いと思ってすぐに投資して事業化する人が出てくる。

つまり、ソフトを考えているのは学生など若い人ですが、それを事業化するのは別の人です。そういう面白いアイデアを出す人、リスク投資して事業化する人、どちらも変わった人で、そういうときに大企業は出てきません。

それで94年にネットスケープが出てくると、ビル・ゲイツはビックリしてしまう。ビル・ゲイツはインターネットがそれほどの役に立つとは思っていなかったと思う。「MS-DOS」によるソフト独占モデルでしたから。ちょうど独占禁止法で訴訟が始まるころなんだけど、それでビックリして翌年にWindows95を出した。たった10年前ですね。それで、ネットスケープやWindows95が出たから、YahooやAltaVistaといったさまざまなサーチエンジンが出てくる。

これで大きな流れが終わったかと思ったら、すぐにLINUXというオープンリソースが出てくる。これでおしまいかなと思っていたら、突然2000年にGoogleが出てくる。Google を考えたのは、数学の人です。そういう人が出てくる。それらの流れで日本は「ものづくり」では確かに貢献した。ラップトップとか。

つまり、インターネットというのはインフラなのだから、それは政府がやる。そこで、「これは面白い」と考える人がいて、その新しいアイデアや技術に対して投資して事業化する人がいる。こうした一連の流れによって世界中に情報が流通するようになり、社会変革をもたらしたのがイノベーションなのです。

- そうすると、イノベーションは単なる「技術革新」ではない。

今までの科学技術への投資は、それによって発明や発見を生み出すことが目的だった。しかし、イノベーションで大事なのは、生活者や消費者が何が欲しいのかをいち早く考えて届け、新しい市場を開拓して創ってしまうことです。製品だけでなく、新しいサービスも同様で、スピードが大事。誰かが、ほかがやってしまったらおしまいですからね。

つまりイノベーションというのは、色々なアイデアなどをいかに早くマーケットに届け、開拓し、世の中、人の行動を変えるか。そうすると経済価値が変わってくる。それにはブランディングとかサービスのイノベーションというのもすごく大事なことです。それが成功するためには、みんなが考えないけど、実はそれが欲しかったという視点が重要になります。ごく身近なところではiPod、さらに任天堂のDSとか、Wiiなどがありますね。

- 科学技術に限ったものではないと。

その一番良い例が、小倉昌男さんが始めたクロネコヤマトの宅急便です。みなさん、最近、スキーやゴルフを持って歩かないでしょう。

昔は、何かものを送ろうと思うと、郵便局や国鉄の駅まで運ばなくてはいけなかった。それを取りに行きましょう、配達しましょうと始めたわけです。その時の一番の抵抗勢力は日本通運とか運輸省ですね。小倉さんは、みんなにとってそれが良いんだからと言って、役所を訴えても前進する。彼はそういう思いがあってやっている、金もうけだけでやっているわけじゃない。だから、技術じゃないんです。

その想いが大事で、日本はすぐに科学技術でなんとかしようというけれど、そうじゃない。何が必要なのかを考えることが必要なことです。野中郁次郎さんの言うイノベーターに必要なのは「真、善、美」への強い思いということですね。

(続く)
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(科学新聞 中村 直樹)

黒川 清 氏
黒川 清 氏
(くろかわ きよし)

黒川 清(くろかわ きよし)氏のプロフィール
1962年東京大学医学部卒、69年東京大学医学部助手から米ペンシルベニア大学医学部助手、73年米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部内科助教授、79年同教授、83年東京大学医学部助教授、89年同教授、96年東海大学医学部長、総合医学研究所長、97年東京大学名誉教授、2004年東京大学先端科学技術研究センター教授(客員)、東海大学総合科学技術研究所教授等を歴任。この間、2003年日本学術会議会長、総合科学技術会議議員に就任、日本学術会議の改革に取り組むとともに、日本の学術、科学技術振興に指導的な役割を果たす。06年9月10日、定年により日本学術会議会長を退任、10月、内閣特別顧問に。

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