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虫にも魚にも脳がある! 札幌で神経行動学の公開講座

サイエンスレポーター 成田 優美

掲載日:2014年11月18日

公開講座「動物行動の仕組みはどこまでわかったか?」(2014年8月2日開催)より

岡良隆氏
岡良隆氏
(提供:岡氏)
「動物行動の仕組みはどこまでわかったか?」という公開講座が8月2日、行われた。主催は、2014年国際神経行動学会議(ICN)と日本比較生理生化学会(JSCPB)、日本学術会議。札幌でのICNとJSCPBの並列開催を機に、北海道大学大学院理学研究院が後援・協力して実現した。会場の北大学術交流会館には講師3人のブースが設けられ、実際の生き物も登場した。

講演に先立ち、今回ICNの議長を務めた岡良隆氏(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻教授)があいさつし、第1回の国際会議が1986年に東京で開かれた経緯も紹介した。今回、国際会議の国の補助金をアジアの若手の参加支援に当てたそうだ。講座の概要を報告する。

◇「ロボットとコンピュータで昆虫の能力をさぐろう」神崎亮平氏(東京大学先端科学技術研究センター生命知能システム分野教授)

「まず昆虫と人間の“環境世界”の違いを理解してほしい」と、3つの観点を挙げた。
1) 感じる:紫外線を感知して花の蜜のありかや雌を識別するミツバチの例など。2) 時間:ミツバチは1秒間に約300回の羽ばたきを見分け、人間は最大50-60回。見え方の違いを手品の動画で分かりやすく示した。キーワードは「臨界融合頻度」。3) スケール効果:体積は長さの3乗なので、体長が16分の1になると体積は4,096分の1。小さくなるほど体積に対する表面積比が大きくなり、摩擦力が増大する。1mmくらいの虫にはそよ風は粘性の高い蜂蜜のような感じになる。

  * 臨界融合頻度: Critical Flicker Frequency(CFF) 例えば光の点滅が連続した光に見える頻度の境界値

神崎氏は昆虫の優れた能力の応用開発に取り組んでいる。世界初の“カイコの脳だけで動く操縦型ロボット”についてもビデオを映しながら詳しく語った。

(要旨)
災害で生き埋めになった人を探すとか、匂い源の探索は工学分野の超難問で、生き物に匹敵するロボットがまだできていない。操縦型ロボットは頭がカイコで、目と触覚を残して神経を電気信号に変換し、人工物の体を運転させる。虫は頭や腹を切り離しても動くが、方向転換は脳が命令する。カイコの脳は2mmぐらい。ほぼヒトと共通している。ロボットには行動をかく乱させる仕掛けをした。カイコは瞬時に気づき、動きを補正する。まさに脳で動いている。こういう瞬時の状況を解析するには、リアルタイムで高速演算(10の16乗/秒)できるスーパーコンピュータ「京」が必要だ。「京」を使って昆虫の脳を再現できることが分かってきた。生物の機能を土台にした設計・開発がこれからの科学や工学で重要だ。

山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所所長
神崎亮平氏(右から3人目):昆虫の衝突回避行動を自動車に応用、その研究を紹介

◇「電気魚が混線しないのはなぜだろうか?」川崎雅司氏(米バージニア大学生物学部教授)

コミュニケーション中枢の神経活動のメカニズムを中心に、オシロスコープで記録した一連の実験映像とともにじっくり解説した。講演で紹介されたのと同じ魚を使った発電をその場で見ることができ、興味深かった。

(要旨)
電気魚は尾の中に発電器官が直列に並び、短い電気信号(パルス)を出す。100万分の1秒の時間差を感知する。脳内のペースメーカーという核が1つ1つの細胞に信号を送り、全細胞が同時に作動する。電気受容器によって周りの状況を知ることができる。「電気定位」という独自の能力だ。

魚同士の信号がなぜ混線しないのか。3つの方法が分かっている。1) 時間を変える:自分の信号のタイミングを変えて信号の衝突を避ける。2)「混信回避行動」:相手の信号の頻度(周波)に応じて、自分の頻度を変える。3) 電気コミュニケーション:アフリカの電気魚はパルスの長さで種類が決まっており、相手のパルスの長さを測って種を識別している。また自分が発電した場合、感覚的に脳に信号を送る「エファレンスコピー」によってコミュニケーション中枢の神経活動が止まり、他からの刺激と識別できる。なお神経行動学では、仕組みの解明からさらに進化の過程とその先を考えることが重要で、大きな特徴の1つだ。

川崎雅司氏(右) 毛糸に潜り込む電気魚。発電すると音が出るように電極をつないでいる
川崎雅司氏(右)
(提供:岡氏)
毛糸に潜り込む電気魚。発電すると音が出るように電極をつないでいる

◇「オタマジャクシを用いて神経系を理解しよう」アラン・ロバーツ氏(英国・ブリストル大学)

日本語と英語のスライドが同時に表示された。

(要旨)
オタマジャクシは毛1本でも触れると動き出す。屈曲して毛から逃げ、体をくねらせて泳ぎだす。ヘビの毒でオタマジャクシを動かないようにして、脳のニューロン(神経細胞)の電気的活動を記録し、特性と血行を調べる。この記録によって、神経細胞や運動神経が皮膚刺激に反応して、スパイク(活動電位)を出した瞬間が分かる。神経細胞の1つ1つに色素を注入して組織も観察する。軸索(AXON:神経線維)と樹状突起とのコンタクト、反射回路が見えてくる。神経系を輪切りにして、刺激を受けた部位から最初に筋肉が興奮して泳ぎ始めるまでの経路をたどって見た。

結果として、7種の神経細胞のうち3種は感覚経路に、4種は遊泳リズムを生成するネットワークにあり、神経細胞の興奮と抑制の特性やシナプス結合の様子が分かる。軸索はまっすぐに伸びる傾向だが、小さなランダムな方向転換が起こる。化学物質の匂いに引かれ、あるいは嫌って伸びる方向が意図されている。神経細胞の発生をつかさどる法則性を特定できたら、少数のニューロンを調べて得られたデータに基づき、大きな神経系を“育てる”こともできる。脊髄損傷で動けなくなっても、その再生は予想より早く起こるかもしれない。研究費は「英国バイオテクノロジーと生命科学協議会」から出ている。

アラン・ロバーツ氏:オタマジャクシの研究データを説明
アラン・ロバーツ氏:オタマジャクシの研究データを説明

◇      ◇

講演終了後のエキシビションは講師に質問しやすいスタイルで、関連分野の大学院生や学生、中高生にとって進路を考える上でも貴重な経験だったと思われた。

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