レポート

食を通じて“北海道再考”-第4回北大マルシェ2013

2013.09.11

成田優美 / サイエンスレポーター

北大マルシェ 入場ゲート
北大マルシェ 入場ゲート

 “農”や“食”を通して「生産者と消費者が出会える場を」と、「北大マルシェ*」が8月31日と9月1日、北海道大学で開かれた。「2008年度文部科学省戦略的大学連携支援事業」による北海道大学と酪農学園大学、帯広畜産大学の3大学連携の大学院教育プログラム「食の安全・安心基盤学」の授業の一環として、2010年から毎年行っている。プログラムの受講生有志が「北大マルシェ実行委員会」を組織し、農業実習や出店農家への事前取材などを通して企画を練った。今回のテーマは「北海道再考」。会場の北大農学部前の道路沿いには、道内各地から集まった農家らによる40の出店が並び、週末とあって家族連れが目立ち、大勢の人でにぎわった。 

*マルシェ:フランス語「marche」(市場)

◇    ◇

 各店舗は農産物や酪農製品、蜂蜜のほか、味噌など手づくり加工食品を販売した。道産素材を主にしたカレーや石窯ピザなどの軽食も好評だった。中でも、漁業者として唯一参加した日本海に面する寿都(すっつ)町漁業協同組合特製の「寿ほっけ揚げパン」は、出店後数時間で完売した。北海道合鴨水稲会の、「合鴨(アイガモ)農法」による米を薪で釜炊きしたご飯が眼を引いた。合鴨農法は、「水田に放し飼いにした合鴨が雑草と害虫を食べ、水をかいて動き回るので、水田に酸素が補給され、稲の生育を助ける」というもの。ただ合鴨の飼育の手間や害獣よけの電気柵の設置が必要だ。同会は、合鴨農法を実践する道内農家らで1994年に発足。除草は手作業のほか機械を使い、無農薬・無化学肥料で栽培している。お昼時の催し「マルシェ Live」では、カフェブースで北大の音楽サークルがアイルランド民謡やジャズを演奏した。

北大マルシェ「つくってあそぼ」
北大マルシェ「つくってあそぼ」

 北大マルシェは、子供たちも楽しめる。「疑問解決ラリー わかったね!」では、会場の産品に関する素朴な疑問をカードに書き、生産者などに質問して、解決したらカードと引き換えにバジルの種を無料でもらえる。「トマトはなぜ赤いの?」「ヤングコーンと普通のとうきびの違いは?」「コウナゴはどうやってとるの?」などの質問カードが、約100枚も集まった。「子供たちが大人の買い物について歩くだけじゃなく、“食”や“食材”について不思議に思うことを聞ける機会にしたい。小さなきっかけだけど、積み重なって子供たちの心に何か残ってくれたら…」と、企画した北大の湯本健志さん。

 道東の林業の町、滝上(たきのうえ)町からは「ブレーメンファーム」が参加した。同町では産業振興のために、間伐材や製材工場の残材などを「木質バイオマス」(木材由来の有機性資源)として有効に活用する方策に取り組んでいる。ファーム代表の竹内正美さんは運送業の傍ら、木材工作を教える活動を行っており、町産の白樺の木でバスケットをつくる「つくってあそぼ」教室を開いた。いろいろな木工作品と共に、木質バイオマスの活用例として「木質チップ」や「木質ペレット*」の説明パネルも展示していた。

*樹皮やおが屑などを粉砕し、小さな円筒状に圧縮成型した固形燃料

北大マルシェ「TED×農」
北大マルシェ「TED×農」

各日の主要イベント

「TED×農」(8月31日)

 イベント名の「TED」は、米国の「TED:Technology Entertainment Design」グループが、国内外で主催する大規模な講演会活動に倣(なら)った。TEDは講演の一部動画をインターネット上で無料配信している。「TED×農」では農業・農村について、学生と行政マン、生産者の3人が順に画像やホワイトボードを使いながら、次のような発表をした。

  • 「北海道発!田舎発!日本を変える!」=岩本淳兵さん(北大工学部)
    ドイツとデンマークにおける再生可能エネルギーの取り組み状況を話し、日本では「市民による普及が進んでいないことがネックである」とチャレンジ精神を訴えた。岩本さんは2012年、果樹栽培が盛んな仁木町で、日帰りの短期農業派遣を体験したが、「もっと仁木町の自然に親しみ、地元の人たちと交流をしたい」と、本年6月、地域土着型サークル「いなかっぺ」を設立した。仲間の学生と泊りがけで、農作業アルバイトや「いかだでの川下り」「ツリーハウス作り」の活動をして来た。目標は「誰もが羨む田舎を作る」ことで、目下「仁木町散策&地図作り」に励んでいる。
  • 「『農』の価値で、『栗山町に暮らして良かった。』を創る!」=金丸大輔さん(栗山町役場から(財)栗山町農業興公社に出向中)
    同町には、築100年のレンガ・石造りの酒蔵(国の登録有形文化財)がある。そこの銘柄の前掛けをして登壇した。町の農業史や名物の話に続き、先駆的な取り組みとして、2005年に誕生した赤たまねぎ「さらさらレッド」について説明した。このたまねぎは、北大農学部発ベンチャー企業「(有)植物育種研究所」の研究開発事業の1つであり、従来品種よりアントシアニンが多く、特に機能性成分「ケルセチン*」の高い含有率が注目されているという。話の後半では、若手女性農業者が2年間、作物の基礎や加工実習を学ぶ「くりやま農業女性塾」を紹介した。「子連れ参加できるのが魅力の1つ」で、2012年春に第一期生が修了。地元の食材を使った料理講習や地域で楽しく暮らすための意見交換をする場でもあり、今後の活躍が期待されている。
    *ケルセチン(quercetin):たまねぎに多く含まれるフラボノイド(ポリフェノールの一種)で、抗酸化作用があり、健康機能性が研究されている。
  • 「トカチポワロで日本開拓!」=竹中章さん(たけなかファーム)
    竹中さんは、帯広市に近い音更町で、フランス料理で知られる西洋ネギの「ポワロ(別名リーキ)」を20万本、日本で一番収穫している。作物の特徴や日本での普及状況を、種を供給するオランダの種苗メーカーの社員の人も一緒に説明した。ポワロの味を観客に実感してもらうため、 “ポワロ入り”“ポワロなし”の2種類のヴィシソワーズ(じゃがいも冷製ポタージュ)を帯広市の有名レストランに作ってもらい、全員に配った。「ポワロ入りに、コクや深い味わいがある」との感想が多かった。

「食の観光大使は誰だ?!選手権」(9月1日)

 大学生・小学生・一般の3部門があり、参加者は生産者が提供する食品を食べ、各部門のルールに添って“美味しさ”を表現した。それに対する観客からの拍手の大きさで優勝者が決まり、賞品として各生産者から産品が贈られた。観客も提供の食品を試食した。

  • 大学生部門のルールは「いかにおいしそうな顔をして食べるか」。5人が札幌市郊外の果樹農家グループ「砥山農業クラブ」が作った生のプルーンを表情豊かに食べ、ひと言ずつ印象を述べた。同クラブは、小学生が家族と農業体験をする「砥山農業小学校」を2003年から実施している。
  • 小学生部門には5歳の子供も参加した。余市町の有機農園「えこふぁーむ」のジャムを「どれだけお行儀よく食べるか」がルールだ。子供たちが丁寧にジャムのビンを取り扱い、真剣な表情でパンにジャムを塗る様子を、観客たちも笑顔で見守った。
  • 一般部門は、観客から飛び入り参加を募った。道北の美深町で放牧羊のチーズを作っている「チーズ工房羊飼い」のチーズを食べ、4人が「言葉でおいしさを伝える表現力」を競った結果、英国人の男性が優勝した。

トークショー「農カフェ」(9月1日)

 農業に関わるゲスト2人を迎え、北大落語研究会の小四郎丸拓馬さんがインタビューをする形で話を進めた。

 1人目の中澤和晴さんは、道南のむかわ町の中澤農園の4代目で、年齢はまだ20代前半だ。現在、長いもと自然薯(じねんじょ)の中間の粘りを持つ「だるまいも」を主に、唐辛子や大豆とその加工品も手がけている。作物の食味と栄養価が高まるように、土にごく微量の火山岩ベースのミネラルを補給し、綿密な土壌分析にも取り組んでいるという。今後は、抗酸化力の高い野菜を作りたいと抱負を語った。

 2人目の佐藤秀靖さんは、富良野市で、農林水産省「食と地域の交流促進対策交付金事業」による「富良野地域農村元気プロジェクト」のリーダーをしている。同プロジェクトでは、全国からの修学旅行の生徒たちの「ファームイン*」や、地元住民や観光客の収穫体験などに無料の「地産地消バス」を運行するとか、震災支援などと、さまざまな事業を行っている。ただし、少子高齢化による農業後継者問題への危機感があり、「観光地としても転換期を迎えている」という。そんな中、“観光・食・健康”をテーマにした「ヘルスツーリズム」や、来年に向けた「ヘルシーステイ」への取り組みに頑張っている。

*ファームイン:主に農家が経営する宿泊施設に泊まり、農村体験を通して農業に理解を深めてもらう。農家自体に、数人ずつ泊る場合は「農家民泊」と呼んでいる。

 トークが終わったあと、会場から「ぜひ参考にしたい」といった活発な質問が二人に相次いだ。

◇   ◇

 初めて「北大マルシェ」を訪れた。生産者の皆さんの「安全でおいしいものを消費者へ届けよう」という情熱と意気込みを感じた。私自身が食や農を再考する機会となった。

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