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ICT活用して防災教育を実践―「情報ひろばサイエンスカフェ」で研究者と市民が語り合う 

サイエンスポータル編集部

掲載日:2017年8月2日

「地域防災×ICT-スマートフォンアプリの活用を通じて」をテーマにした「情報ひろばサイエンスカフェ」〔主催・文部科学省、共催・科学技術振興機構〈JST〉〕が7月28日、東京都千代田区霞が関の同省内のラウンジで開かれた。「情報ひろばサイエンスカフェ」は科学者などのさまざまな分野の専門家と市民が科学や科学技術にまつわる話題や課題について自由に語り合う場として企画されてきた。今回は、子どもたちが災害について能動的に考え、行動する仕組みを取り入れた、ユニークな災害訓練を大阪で実践している研究者が講師と進行役として登壇し、地域の防災力や減災力を高める様々な試みについて、参加した市民と熱心な意見交換を行なった。

この日の講師は大阪市立大学都市防災教育研究センター(CERD)で兼任研究員をしている吉田大介(よしだ だいすけ)さん(大学院創造都市研究科准教授)で、進行役は同センター教育担当の生田英輔(いくた えいすけ)さん(大学院生活科学研究科講師)。サイエンスカフェは午後7時に始まり、会場のラウンジでは終了予定時間の8時半を過ぎてもまだ参加者との熱いやり取りが続いていた。

写真1 情報ひろばサイエンスカフェの様子
写真1 情報ひろばサイエンスカフェの様子
写真2 大阪市立大学都市防災教育研究センター(CERD)の吉田大介さん
写真2 大阪市立大学都市防災教育研究センター(CERD)の吉田大介さん

まず吉田さんが現在実践している「アクティブラーニング災害訓練」について説明した。この訓練は、参加する子どもたちには事前の訓練シナリオは伝えられない。訓練中に起きるさまざまな問題に対してその場で対応し、それを体験することで災害への対応力を高めることを狙っているからだ。訓練シナリオは地域がもつ潜在的な災害リスクに沿ったものにするため、地域住民と一緒に街を歩いたり、過去の災害情報を聞いたりして作られる。準備や当日の運営も地域住民の協力を得て行なわれる。地域全体で一体となって災害訓練に取り組むことは、地域の防災力や減災力の向上にも期待できると、吉田さんは強調していた。

写真3 アクティブラーニング災害訓練の記録映像を説明する吉田さん
写真3 アクティブラーニング災害訓練の記録映像を説明する吉田さん

吉田さんは次に、アクティブラーニング災害訓練を行なうために開発したARアプリ「CERD-AR」について説明した。ARとは「拡張現実」とも呼ばれ、実在する風景に擬似的な視覚情報などを重ね合わせ、目の前の風景を拡張させて見せる技術のことで、ポケモンGOなどで有名になった。吉田さんが開発したCERD-ARは、スマートフォンを周囲の風景にかざすと、その場所の災害想定に従って警告が表示され、災害状況が時間経過によって変化する仕掛けになっている。時間と共に変化していく災害状況をイメージしながら、現実に周囲にある施設などを直感的に理解することができるという。アプリは、防災教育や外部団体による利用の広がりを期待して、誰でもカスタマイズが可能なオープンライセンスとして公開されている。

写真4 吉田さんが開発したARアプリ「CERD-AR」の警告画面
写真4 吉田さんが開発したARアプリ「CERD-AR」の警告画面

吉田さんは最後に「地域防災は、このようなICTを活用することで、これまで地域に関わっていなかった若い世代や子どもたちも貢献できる場となる。地域の防災減災力を向上させるきっかけにして欲しい」。また進行役を務めた生田さんは「防災のような地域活動に若い世代は参加しにくいが、社会貢献したい気持ちは誰にでもある。ICTのような新しいツールを加えることで、若い世代や子どもたちにも貢献できる場が生まれるのでは。」と結んだ。

写真5 進行役を務めたCERDの生田さん
写真5 進行役を務めたCERDの生田さん

参加者とのディスカッションでは、アクティブラーニングやARアプリの活用によるメリット・デメリットなどについて、熱心な意見交換が行なわれた。鳥取県から参加したという高校教員の男性は、中部地震で被災した際の経験として「通常の避難訓練では予想できないことがたくさん起きた。ARの中での仮想体験は、普段の避難訓練の意識を変える手段として有効だと感じた」と感想を述べた。

この日のサイエンスカフェの記録は2人の「ギジログガールズ」が務め、発表やディスカッションの内容を、その場で大きな白紙にイラストを交えて分かりやすく書き出していた。

サイエンスカフェをまとめた「ギジログ」(ギジログガールズ記録)

ギジログ1
ギジログ1
ギジログ2
ギジログ2
ギジログ3
ギジログ3
ギジログ4
ギジログ4
ギジログ5
ギジログ5
ギジログ6
ギジログ6

「情報ひろばサイエンスカフェ」は、JSTが11月24~26日に東京都・お台場地域で開催する科学イベント「サイエンスアゴラ2017」との連携企画。奇数月の最終金曜日に開催予定で今回からJSTが共催者となった。

「サイエンスアゴラ2017」のテーマは「越境する」で、「カフェ」でも登壇する研究者が自分の専門領域を超え、専門分野間や研究者と市民との間の「仕切り」を超えて市民との交流を深めて「対話・協働」につながることを目指している。企画担当者によると登壇者もなるべく若手の研究者に依頼する予定で、今後のテーマは登壇者の専門領域とその登壇者が乗り出したい別の領域の異文野が交錯するテーマを選ぶという。今後のテーマ設定に当たっては、医療と経済、環境とコミュニケーション、数学と芸術、ロボットと生活、建築とデザインなどの異分野の組み合わせが検討されている。

(サイエンスポータル編集部 腰高直樹)

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