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アフリカ最大の科学フォーラムで語られる地球規模課題の今-「Science Forum South Africa 2016」

科学技術振興機構 科学コミュニケーションセンター

掲載日:2016年12月22日

「Ignite Conversations about Science(科学についての対話を”刺激”する)」をテーマに、アフリカ大陸で最大の科学技術フォーラム「Science Forum South Africa(南アフリカ科学フォーラム)」が12月8、9日の両日、南アフリカ科学技術省(DST)が主催して南アフリカ・プレトリアで開催された。このフォーラムは、2015年に第1回が開催され、今年が2回目。ユーロサイエンスオープンフォーラム(ESOF)、米科学振興協会(AAAS)年次総会や日本のサイエンスアゴラ(サイエンスポータルニュース・11月4日ニュース『サイエンスアゴラ 2016』が開幕」参照)をモデルにしているとされている。世界やアフリカ大陸が抱える社会的・政策的な課題として持続可能な開発目標(SDGs)、科学的助言、イノベーション、社会科学との協働、若手の育成などを中心に全体セッション(4件)やパラレルセッション(34件)、サイエンストーク(科学講話)(30件)のほか68件の展示があり、南アフリカを中心にサブサハラアフリカ諸国、欧州、またアジアから70カ国以上の政策立案者、科学アカデミー、研究機関、個人研究者らが参加した(登録者約2,200人)。

日本のサイエンスアゴラ同様、一般の来場者には多くの学生の姿も見られた。アフリカには貧困、衛生、感染症といった深刻な社会課題が多いが、現地の参加者はいずれも自立意識が高く、これまで援助主体の先進国との関係も、自立に向けたパートナー関係の構築と先進国の知見と経験を共有することに移りつつあるように見受けられた。その中心に科学技術を据えた今回の会合は、南アフリカがサブサハラの盟主として並々ならぬ決意でリーダーシップをとろうとする意志を感じた。南アフリカ科学フォーラムは、来年も12月に3回目が開催される予定。「暗黒大陸」と言われたアフリカの未来を科学で拓こうという意志に満ちあふれたセッションから発信された「アフリカ発のメッセージ」や、JST主催セッション「SDGs達成のためのパブリック・エンゲージメント」での議論などを中心にレポートする。

写真1「南アフリカ科学フォーラム 2016」のシンボル画像
写真1「南アフリカ科学フォーラム 2016」のシンボル画像
写真2 開幕プレナリーセッションでのパンドール大臣と来場者 写真2 開幕プレナリーセッションでのパンドール大臣と来場者
写真2 開幕プレナリーセッションでのパンドール大臣と来場者

「魅力的雇用生み出すイノベーション構造を」と南ア科技大臣

8日朝行われた開幕プレナリーセッションは、フォーラムの開催を祝して南アフリカで用いられる多言語の組み合わせによる国歌斉唱で始まった。ナレディ・パンドール南アフリカ科学技術大臣が開会のあいさつをした。この中で同大臣は、世界の70カ国以上の講演者全員が自費で参加していることを紹介しながら「2回目を迎えた同フォーラムがアフリカにおける科学の役割を議論するプラットフォームとして認められてきた」と強調した。

同大臣はまた、「アフリカ大陸の重要分野であるエネルギー、食糧安全保障、さらに感染症であるマラリアやエイズに関わる研究者の数はこの10年で倍増し、700万ドルの研究投資がある。しかし科学技術・イノベーションの達成度はまだ低く、農業以外の持続可能な資源が求められている。そのためには多様な分野の若手研究者の『頭脳循環』による革命が必要で、彼らを訓練するファンディングなどの政策を通じて、イノベーションが魅力的な雇用を生み出す構造をつくることが重要だ」と指摘した。さらに「国家的な優先課題である貧困・不平等・非雇用の問題を改善するためには、科学技術・イノベーションの強化が必要。科学コミュニティによる国際的なパートナーシップを通じて海外のファンディングを獲得し、アフリカ大陸における国内研究投資にすることが不可欠。このフォーラムをアフリカの科学技術イノベーションを世界に発信し、アフリカの科学力の向上と2063年に向けたアフリカ開発の長期ビジョン『アジェンダ2063』実現に貢献したい」などと語り、アフリカが抱える重要な課題の現状と展望を解説した。

写真3 南アフリカのソウェト地区(スラム街)。ソウェト地区では5畳程のバラック小屋に8人の家族が暮らし、トイレは簡易式数個、飲み水の水道管も全コミュニティで共用、排水は地面に垂れ流しの劣悪な環境。SDGs目標1の「貧困をなくそう」について実態ベースで考える機会となった(サイトビジット訪問時)(川添菜津子撮影・文) 写真3 南アフリカのソウェト地区(スラム街)。ソウェト地区では5畳程のバラック小屋に8人の家族が暮らし、トイレは簡易式数個、飲み水の水道管も全コミュニティで共用、排水は地面に垂れ流しの劣悪な環境。SDGs目標1の「貧困をなくそう」について実態ベースで考える機会となった(サイトビジット訪問時)(川添菜津子撮影・文)
写真3 南アフリカのソウェト地区(スラム街)。ソウェト地区では5畳程のバラック小屋に8人の家族が暮らし、トイレは簡易式数個、飲み水の水道管も全コミュニティで共用、排水は地面に垂れ流しの劣悪な環境。SDGs目標1の「貧困をなくそう」について実態ベースで考える機会となった(サイトビジット訪問時)(川添菜津子撮影・文)
写真3 南アフリカのソウェト地区(スラム街)。ソウェト地区では5畳程のバラック小屋に8人の家族が暮らし、トイレは簡易式数個、飲み水の水道管も全コミュニティで共用、排水は地面に垂れ流しの劣悪な環境。SDGs目標1の「貧困をなくそう」について実態ベースで考える機会となった(サイトビジット訪問時)(川添 菜津子 撮影・文)
写真4 JST主催セッションで質疑に答える大竹暁JST研究開発戦略センター特任フェロー(左写真右端)と来場者(右写真) 写真4 JST主催セッションで質疑に答える大竹暁JST研究開発戦略センター特任フェロー(左写真右端)と来場者(右写真)
写真4 JST主催セッションで質疑に答える大竹暁JST研究開発戦略センター特任フェロー(左写真右端)と来場者(右写真)

SDGs達成に向けた具体的な道筋が示される

8日午後は、計11のセッションが並行して行われた。その第1ラウンドとして、JSTが主催する「持続可能な開発目標(SDGs)達成のために科学と社会にブレークスルーを育むパブリック・エンゲージメント(公共の関与)の力」と題したセッションが行われた。冒頭大竹暁JST研究開発戦略センターCRDS特任フェロー(内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官)は、「SDGsを社会や科学界に周知していくためにはさまざまなステークホルダーと議論する場が必要だ。世界の科学フォーラムがその役割を果たすべきで、11月に開催されたサイエンスアゴラでのSDGsに関する議論を受け、このセッションの議論を反映し、来年2月のAAAS年次総会で実施するセッションにつなげていきたい」などと企画の狙いを説明した。

続いて、南アフリカのMJシュワルツ ズールーランド大学科学センタープロジェクトオフィサーから「パブリック・エンゲージメント」がSDGs達成に果たすべき役割について、また海洋保全に関わっている松田裕之横浜国立大学環境情報研究院教授からは研究者がSDGs達成に果たすべき役割についてそれぞれ問題提起があった。更にユーロサイエンスのピーター・ティンデマンス事務局長からSDGsに関する欧州の動向や取組みなどが紹介された後、登壇者とフロアの約60人の南アフリカや欧州の参加者との間で活発な議論が行われた。

この場で紹介されたさまざまな取組みはいずれも、SDGsの達成に向けた具体的な道筋が示されている。例えば、ズールーランド大学科学センターなど南アフリカの30に及ぶ科学センターが参加する組織の年次会合では、SDGs全般にわたる重要テーマが取り上げられ、その成果を2017年に日本の科学未来館で開催される世界科学館サミットにつなげられようとしている。海洋の生態系保存に北海道・知床の漁業者と協力して取り組んできた松田教授は「規制ではなく、当事者間で合意して進めることがSDGsの目標達成の一つの有効な方法である」と述べ、その経験を今後のユネスコ人間と生物圏(MAB)計画にも活かしたいと説明した。更に、ティンデマンス事務局長は「地球温暖化の問題には二酸化炭素(CO2)だけではなく、地域により異なるさまざまな要因がある。その解決には地域からの寄与が必要でありオープンサイエンスなどが重要だ」と述べた。

このセッションでは、登壇者だけでなくフロアからの質問も、持続開発可能目標を達成するために個人としてどう取り組んでいくか、に注目が集った。フロアからの問題提起や質問に対して登壇者からは次のような考え方が提示された。

「個人ができる目標を選び、システマティックに推進できるよう、アフリカの科学コミュニティが、例えばエネルギー供給に関して関心のある企業を巻き込みながら政府に働きかけることが重要だ」

「科学者の役割は、ステークホルダー間で合意できるオプションを提示することであり、単に自然を保全するのではなく、持続可能な社会を目指して関心がある地域の人々のキャパシティ・ビルディング(発展途上国の人々の能力構築)を行うことだ」「公共の関与の点では、異なるコミュニティの背景や見方、挑戦をみながら目標を明確にしないと誰にも届かない」

「SDGsの達成には、既存の近代科学システムや文化の変革が必要で、科学コミュニティは一定のリソースに基づいた研究活動で成果を出すのではなく、経験や知識、スキルを生かした早急なアクションが必要である」「定義の無い一般大衆に働きかけるのは困難だが、この部屋に集まる数十名がその同僚らにSDGsに関する大使となって周知することで輪が広がることが重要だ」

「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のように(気候変動を防止するという)具体的な目標を絞り、長期的にかつ目標を定めた科学者と政策立案者をつなげるメカニズムを作る必要がある」「ズールーランド大学科学センターのようにHIVテストの過程を簡単な実験で示す活動を通じて核となる科学的課題にも理解を促すことが出来る」

こうした登壇者とフロアとのやり取りを通じて会場には互いの共通理解醸成と具体的な活動に向けた胎動が感じられた。

「SDGsの達成に科学技術は不可欠、目標に優先順位を」

モデレータのリディア・ブリト-・ユネスコ中南米・カリブ海事務所科学部長がセッションの最後に「SDGsの達成に科学技術は不可欠だ。今後15年、目標の優先順位を定め、野心的な目標を達成するために協働すべきだ。そこに科学者と政策立案者との対話や、科学コミュニティが他のステークホルダーと関与していく新たな文化を醸成することが不可欠だ。その実現のために(このような)科学フォーラムの場を通じて今後も議論を継続していきたい」と語った。

写真5 「科学的助言」に関するパラレルセッションに登壇する有本建男JST国際戦略室上席フェロー 写真5 「科学的助言」に関するパラレルセッション
写真5 「科学的助言」に関するパラレルセッションに登壇する有本建男JST国際戦略室上席フェロー

続いて、第2ラウンドのパラレルセッション「科学的助言の証拠・倫理・原則のためのボトムアップの青写真は何故革命的なのか」が行われた。今年「政府に対する科学的助言に関する国際ネットワーク(INGSA)」で公表された科学的助言に関する20項目のガイドライン「ブリュッセル宣言」ついて、何が重要であるか問い直す議論が行われた。

ブリュッセル宣言は、科学的助言の枠組みのあり方ついて2012年から過去5年に渡り、非公式ながら継続的に積み上げられてきた議論の成果である。この日のセッションでは、これまでの議論に携わってきたキーメンバーが登壇。有本建男JST国際戦略室上席フェロー(政策研究大学院大学教授)は「政策と科学の異なる文化をつなぎ、共に進化すること」の重要性を指摘した。その他、アン・グローバー英国アバディーン大学副学長(元欧州委員会主席科学顧問)、南アケープタウン大学のジュリアン・キンダーレーラー教授、リディア・ブリトー・ユネスコ中南米・カリブ海事務所科学部長、イムラーン・パテル南アフリカ科学技術省経済社会イノベーションパートナーシップ担当局長が登壇し、ガイドラインの各項目とその背景の説明や議論がなされた。さらにOECD、INGSA等で進む科学的助言の議論との重要性への言及があった。

写真6 サイエンストーク「科学フォーラムの集い:世界の大規模科学イベントの所在」
写真6 サイエンストーク「科学フォーラムの集い:世界の大規模科学イベントの所在」

世界の科学フォーラムを紹介し合う

2日目の9日午前は、南アフリカ科学フォーラムのような世界各地の科学フォーラムを紹介する30分の科学講話が行われた。米科学振興協会(AAAS)年次総会、世界科学フォーラム(WSF)、日本のサイエンスアゴラ、南アフリカ科学フォーラム(SFSA)、中南米・カリブ海オープンフォーラム(CILAC)、ユーロサイエンスオープン・フォーラム(ESOF)の6フォーラム担当者(日本からはJST科学コミュニケーションセンター主査・川添)が登壇し、それぞれのフォーラムの目的や構成、特徴などを説明し、共有した。

世界各地のフォーラム発表では、フォーラムの成果を政策提言につなげるための設計をしている例が多い。また、一般市民や若手の研究者の参加を促進する工夫がなされている。質疑応答では、これまで個々に活動を行ってきたこれらフォーラムが互いに連携を進めながら今後目指すべき方向性について考えるべき、といった問題提起があった。

写真・画像7 「展示賞」が贈られた日本ブース、パンドール大臣からの受賞、表彰状 写真・画像7 「展示賞」が贈られた日本ブース、パンドール大臣からの受賞、表彰状
写真7 「展示賞」が贈られた日本ブース、パンドール大臣からの受賞、表彰状
写真7 「展示賞」が贈られた日本ブース、パンドール大臣からの受賞、表彰状

9日午後3時半からは閉幕プレナリーセッションが行われた。冒頭、南アフリカ科学技術省より、在南アフリカ日本大使館展示(JST、JICA、在京南アフリカ大使館が共同で参画)「日本の知識-研究と高等教育の機会」が優秀展示3点の一つに選ばれ、川添がパンドール大臣から表彰状を受け取った。この展示は全68の展示の中で、南アフリカに関わる多角的な活動を紹介したアジア圏から唯一の展示だった。このほか、科学技術外交賞の授賞や、来年ドイツで開催されるスパコン学生大会の南アフリカ代表の発表があった。南アフリカが科学技術分野で国際連携や若手・次世代の育成に力を入れていることがうかがえた。

写真8 閉幕プレナリーセッションのパンドール科技大臣と尾身STSフォーラム理事長らパネリストと参加者 写真8 閉幕プレナリーセッションのパンドール科技大臣と尾身STSフォーラム理事長らパネリストと参加者
写真8 閉幕プレナリーセッションのパンドール科技大臣と尾身STSフォーラム理事長らパネリストと参加者

「他者と連携し、継続的対話を」

閉幕プレナリーセッションの最後に登壇したパンドール大臣は「今回の『南アフリカ科学フォーラム2016』が本当の意味で成功するためには、(今回の参加者が今後どの様なことをして)どのようなことが起きるのかにかかっている」と述べた。その上で、国際的な民主主義の象徴でもある故ネルソン・マンデラ氏が南アフリカ初の共和国憲法を公布してから10日で20周年を迎えることをあげ、「2017年に向けて第一に南アフリカや世界の社会経済的な文脈に当てはめて科学技術・イノベーションの成果につなげること、第二にSDGsの達成には(ツールとして)科学技術・イノベーションだけでなく(世界の人々の)人間そのものの価値を中心に据えること、第三に過去に学び、未来につなげるためには決して諦めない使命感が重要だ」と強調した。 さらに「次世代につながるより良い南アフリカ、より良いアフリカ、そしてより良い世界をつくるためには、パネルディスカッションで尾身幸次STSフォーラム理事長が言及したように、他者と連携し、継続的に対話し(その内容を)統合しながら、科学を単に社会に奉仕するものとしてではなく、(具体的な将来)ビジョンに位置付ける必要がある」と述べて2日間の南アフリカフォーラムを締めくくった。

(写真とレポート・JST科学コミュニケーションセンター 川添 菜津子)

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