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折りヅルがつないだキューバ交流 プログラミング体験学習を現地で実践

東京工業大学大学院修士2年 中島 沙由香 氏

掲載日:2016年12月20日

この夏、単身でキューバ共和国を訪問しました。パソコンを使った簡単なプログラミングを子どもたちに体験学習してもらうワークショップを開くのが目的です。体当たりで挑んだキューバは、長年、国際社会との交流を断ってきた未知の国だけに、全ての経験がひやひやの連続でした。そんな中で子どもたちの輝く瞳と快活さ、好奇心の旺盛さに救われました。

未知の国を身近に

小学生から高校生の女子生徒に向けて、モノ作りや理科の知識を楽しんでもらい、理系への進学を促そうという数人の学生グループ「Robogals Tokyo」に所属しています。これまでに東京近郊や京都で、ロボットのプログラミング体験会や進路座談会などを通して、子どもたちに科学を身近に感じてもらう活動を続けてきました。

今回、私は東京工業大学の理科教育振興基金から支援をいただき、国際交流を取り込んだ活動の機会を得ました。日本とキューバの交流を通して、両国の子どもたちに理系の考え方やモノ作りの楽しさ、国際的な関心を持ってもらおうという目的のもと、両国でのプログラミング体験会を計画しました。

キューバを選んだ理由は、昨年、アメリカとの国交回復を経て、新たな教育や技術が導入されようとしているこの国を直に知ってみたかったからです。今年は安倍首相が日本の首相として初めて訪問し、11月には革命を指揮したフィデル・カストロ前国家評議会議長が亡くなり、国民の意識の変化に世界の注目が集まっています。

未知の国が、これから劇的に変わろうとしています。そんなドラマを日本の子どもたちにも伝え、私たちに何ができるか考えてみたかったのです。また、キューバの子どもたちにとっても、遠い国の学生と交流しながら、プログラミングを体験することは、世界の広さを知り、科学技術のおもしろさや重要さに気づくきっかけになるだろうと考えたのです。

タイムスリップしたかのようなキューバ

計画を進めるうちに大きな問題に直面しました。現地でワークショップを開催するために必要な情報がほとんど手に入らなかったのです。半世紀もアメリカをはじめとする欧米諸国やその周辺国と国交を絶ち、孤立していたこの国では、情報が閉ざされ、インターネットがほとんど普及していないことも分かってきました。

当初はオンラインでキューバと日本をつなぎ、交流しながら現地でワークショップなどを進めていきたいと考えていましたが、ネットが使えないため困ってしまいました。現地の小・中学校と直接連絡を取る手段もなく、ワークショップの受け入れ先も見つけられません。現地で直接交渉して糸口を見つける以外に方法はありません。どうにかなるだろうとの度胸一つで出かけました。

大学が夏休みの9月初旬、首都ハバナに到着しました。街に入ると未舗装の道路にひやひやし、溢れるクラシックカーに見とれ、わが物顔で闊歩する野良犬に驚きました。東欧諸国や東南アジアの国々にも旅行したことはありましたが、そのどことも違う、レトロながらも美しい、まさに時代を遡りタイムスリップしたような独特の雰囲気に息をのみました。

プログラミングソフトが入ったパソコンと日本の文化を伝える絵や折り紙などを大事に携えていきましたが、本当にワークショップが開けるのかと、一時は途方に暮れました。

ハバナの街を歩いていて、ふとあることに気付いたのです。夕方になるとたくさんの子供たちが公園や広場に集まって遊びまわっています。これだ!と膝をたたき、折り紙で作ったツルを手に子供たちの輪の中に入って行きました。

子どもたちの好奇心に救われた

折りヅルを持った私は、意外にもすんなりと子供たちに受け入れられました。折りヅルが珍しかったのか、次から次へと集まって十数人の人の輪ができたのです。ツルを折る実技から始め、日本の文化を紹介し、次に猫のキャラクターを動かしてアニメーションを作るという、ちょっとしたプログラミングの体験会へとつなげていきました。「工学的な教育を」「情報の大切さを」「国際理解を」―こんな片意地張った目的とは裏腹に、子どもたちに喜ばれ、すんなりと仲良くなれたのは、さりげない折りヅルが結んだ縁だったのです。

写真1、2.キューバの小学校の様子(左)、日本の紹介に目を輝かせる子どもたち(右) 写真1、2.キューバの小学校の様子(左)、日本の紹介に目を輝かせる子どもたち(右)
写真1・2.キューバの小学校の様子(左)、日本の紹介に目を輝かせる子どもたち(右)
写真3、4.ワークショップで子どもたちと(左)、プログラミングワークショップの様子(右) 写真3、4.ワークショップで子どもたちと(左)、プログラミングワークショップの様子(右)
写真3・4.ワークショップで子どもたちと(左)、プログラミングワークショップの様子(右)

この方法で、ハバナのほかに古都トリニダーでも公園や広場で計4回のワークショップを開催し、100人近い子どもたちと触れ合うことができました。みんながプログラミングに興味を持ったわけではありませんが、パソコンに触れたことに喜んだ子も多く、暗くなるまでずっとプログラミングに挑戦した熱心な子もいました。ワークショップと言うにはあまりに小規模で、言葉が通じなくて伝えきれなかった部分もなくはなかったのですが、子どもたちの屈託のない笑顔を見て、やってよかったなと思いました。

便利さの中で私たちが忘れたもの

印象的だったのは、子どもたちの好奇心の強さと人懐こさ、目の輝きでした。公園にいきなり現れた見ず知らずの外国人がすんなりと受け入れられたのは、子どもたちの素朴な好奇心のおかげです。これが日本だったらどうだろうかと考えてしまいます。

「明日もここにいるの?またプログラミング教えて」と、嬉しくもおねだりした子がいました。たった2時間程度でしたが、「またやりたい」と思ってもらえるほどに魅力を伝えられたことが分かり、小さな手応えに私は胸いっぱいの感動をもらいました。この経験が、子どもたちの夢へとつながるといいな、と思います。

帰国後は、国内各地でのワークショップの準備をしています。キューバでの貴重な経験をもとに、子どもたちにどんなことを伝えていけるか考えています。いつでもどこでもネットを通して人とつながることのできる日本ですが、ご近所付き合いなどの有機的なつながりが希薄になり、児童虐待や高齢者の孤独死などに気づきにくくなっています。

その場その場の出会いを大切に過ごすキューバの子どもたちの好奇心に溢れた表情は、私たちが忘れた何かを思い出させてくれるようでした。スマホやパソコンが当たり前にある生活しか知らない日本の子どもたちに、キューバの子どもたちの好奇心をどのように伝えられるかが、大きな宿題になりました。

(※この渡航は東工大基金の「理科教育振興支援」【ものつくり人材の裾野拡大支援プロジェクト】の支援を受け実現しました)

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