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「科学の甲子園」挑戦の5年間

科学技術振興機構 理数学習推進部長 大槻 肇 氏

掲載日:2016年5月9日

「科学の甲子園全国大会」は今年度が第5回。次世代を担う才能豊かな高校生たちが、専門的な能力に加え、コミュニケーション力や役割分担を活用して課題解決に当たった。

大槻 肇 氏
大槻 肇 氏

科学技術イノベーションの創出に貢献する次世代人材育成

科学技術振興機構 理数学習推進部は、日本が将来にわたり科学技術で世界をリードしていくために、次世代を担う才能豊かな子どもたちの継続的、体系的育成をミッションとして、その才能を発掘し、伸ばすようさまざまな事業を行っている。例えば、「スーパーサイエンスハイスクール支援」、数学オリンピック等を含む「国際科学技術コンテストの推進」、「科学の甲子園全国大会」その中学生版の「科学の甲子園ジュニア全国大会」などでは、多くの生徒が科学に挑戦し、国内外に同好の仲間を得る機会となっている。

これからの「グローバル人材」に求められる力

科学技術に秀でた人材育成という観点で見た場合、「グローバル人材」とは、世界水準の科学的知識や技能を習得し、国内外で活躍できる力を備えていることを意味する。専門的な能力とは別に、自国の文化や歴史に関する基礎的な知識・理解も必要であろうし、何よりも自分の考えを伝えるコミュニケーション力は不可欠である。産業界でもアカデミアでも研究や開発が単独で行われることは極めて希で、何人ものスタッフや複数の組織での協働が普通になっている現在では、コミュニケーション力や効果的な役割分担が求められる。

科学の甲子園全国大会

「科学の甲子園全国大会」の特色は、まさにこのコミュニケーション力や役割分担を活用して課題解決にあたるところにある。この大会は、科学好きの裾野を広げるとともに、トップ層のさらなる能力伸張を目的として高校生を対象に、2011年度にJSTが創設した全国規模の科学コンテストである。都道府県の教育委員会が主催する大会で選ばれた各代表校は6~8名で1チームとなって、さまざまな科学的課題を解決する。大会は筆記競技といくつかの実技競技で構成され、全てチーム戦で複数の生徒が協力して取り組み、必ず1つ以上の競技に参加することになっている。筆記競技は6名で出場し、チームメンバー同士であれば途中で相談しても良い。実技競技はそれぞれ3名程度で担当するが、科学的な知識のみならず、その活用能力も発揮できるような実験や工作課題を出題すべく、作問者も工夫を凝らしている。当初都道府県大会では筆記競技のみの実施が多かったが、回を重ねるごとに実技競技も取り入れるところが増えてきたのは、大会の趣旨としても大いに歓迎している。その甲斐もあってであろう、全体の参加人数も第1回目は5,684名だったが、第5回目の今年度大会は8,261名と、順調に増加傾向にある。

第5回全国大会開催

第5回科学の甲子園全国大会は2016年3月18日から21日、茨城県つくば市において開催され、各都道府県代表の47校、365名の高校生たちが、科学の力を競い合い、仲間との交流を深めた。

選手登録を済ませた生徒たちが最初に行うのは、開会式での入場行進。科学の甲子園のロゴと学校名が記載されたフラッグを持ってステージ上で自校のアピールをする様子は、スポーツの大会と同じようにエネルギーに満ちあふれている。

また、この大会の優勝チームは、毎年アメリカで開催されるサイエンス・オリンピアドという全米の科学コンテストに親善チームとして参加しており、今回の開会式には、サイエンス・オリンピアド会長の Gerald Putz氏夫妻が来場し、日本の科学好きな高校生たちに向けて、「科学や数学の能力を伸ばし、グローバルに活躍してくれることを期待する」と語った。

今大会の実技競技は4つ、筆記競技と合わせて、全5競技を実施した。実技特別競技「ゆっくり、正確に着地するパラシュート」、実技競技①「納豆菌のDNAを捕獲せよ!」、実技競技②「7回表裏:風船の物理」、実技競技③「届け!光のメッセージ」。これらのタイトルから競技内容を想像いただけるだろうか?(競技概要は科学の甲子園全国HP掲載のダイジェストレポートを参照ください)

実技競技①の実験風景
実技競技①の実験風景
実技競技②空気圧を測る
実技競技②空気圧を測る
 

評価されるのは科学の知識、発想力、応用力、考察力、実験技術、物作りの力、そしてチームワーク。競技中の真剣な表情と熱気。競技終了直後に沸き起こる観客の拍手。その拍手の中、思わぬ失敗に悔し泣きをする生徒もいれば、ガッツポーズやハイタッチをする姿も見られる。科学好きがいつもクールな顔をしているわけでは無いと改めて確認できる。

全ての競技終了後は、特別シンポジウムを聞きながら表彰式を待つ。今回は「未知の領域へ挑む!探検者へ」と題して113番目の元素の発見で注目された森田浩介氏(理化学研究所グループディレクター)等4人の研究者を向かえパネルディスカッションを実施した。後半の生徒たちとの質疑応答が、毎年活発に展開されるのも特徴的である。

今大会総合優勝をしたのは愛知県代表海陽中等教育学校。2位は神奈川県代表栄光学園高等学校、3位は岐阜県立岐阜高等学校という結果となった。

協働パートナーとしての協賛企業への期待

競技は全て点数化され総合得点で順位が決まり、優秀なチームには文部科学大臣賞を始めとした多くの賞が授与される。総合成績、競技別表彰、企業名を冠した特別賞など多岐にわたる賞が用意されているのも科学の甲子園全国大会の特長であり、多くの企業の支援を得て実現できたことと感謝している。この大会では従来の企業協賛のありかたにとどまらず、競技に使用する機材・材料を提供いただくこともあれば、企業技術を核とした競技問題アイディアの提供や技術協力をいただくこともある。さらには、この大会を人材育成に関心を寄せる企業と教育現場を結びつける機会にしたいと考え、教育関係者と企業との意見交換会も同時に開催している。産業界がどのような人材を必要としているのか、また産業界が教育にどう関われるのか、協賛企業各社には協働パートナーとして、大会の拡充に積極的に関わっていただけるよう、科学の甲子園全国大会を才能発掘・育成の機会としてより一層充実させていくよう努めたい。

関連インタビュー

伊藤 卓(科学の甲子園推進委員長/横浜国立大学名誉教授)に聞く
グループかつ分野融合で考えることの意義

伊藤 卓 氏
伊藤 卓 氏

—科学の甲子園は高校生たちの交流の場にもなっています。

伊藤  われわれは意識的に、他のチームのメンバーと交流する場を作り出しています。全国大会のフェアウェルパーティーは、NHK・Eテレの科学番組「すイエんサー」に出ている「すイエんサーガールズ」が参加し毎回大いに盛り上がります。また、第4回大会から開会式終了後に「スワップミート」というお土産交換会のようなイベントも行っています。フェアウェルパーティーは大会の最後に行いますので、より早い段階で交流を始めてもらいたいという思いで始めましたが、各地の名産などを交換しあって交流をしていました。そのかいあってか、大学に進学した全国大会出場経験者たちが、ソーシャルメディアを使ってOB・OG会を結成し、交流しています。

—大学生になっても、科学の甲子園の経験、楽しさが生きているのですね。

伊藤  科学の甲子園は科学の「出る杭」を育てることに貢献したいと思っています。この事業を検討していたとき、科学コンテストがたくさんある中で、どこに違いを置くかを議論して、「グループで問題を解決する」というスタイルにしました。なぜグループなのか。異分野の融合が重要だと考えるからです。

私は以前から物理、化学、生物、地学という枠を外そうと主張してきました。理由は二つ。一つは、分けて学ぶことは現在の世の中にマッチしないからです。もう一つは、地学を学ぶ生徒が少ないことです。現行の地学基礎を選択する生徒は約30%弱。いわば総合科学の面もある地学を学ばない生徒が多いのは問題です。そして私は、高校1年生で総合的な科学の基礎を学ぶことを必修化すべきであるとも言ってきましたが、残念ながらまだ実現していません。科学の甲子園では「チーム」かつ「分野融合」でと考えたわけです。筆記競技は物理、化学、生物、地学に数学と情報を加えた6分野各2問の計12問です。これまで数回、分野を融合させた問題も出題されました。実技競技では、さらに多くの分野融合問題が出されています。

—協働パートナー制度によって産業界が支援しています。

伊藤  発足当時から協賛企業を募っていて、年々企業数が増えているのは大変ありがたいことです。金銭的な協賛だけでなく、ブース展示や実験ショーなどを行っていただいています。大学研究者と違った視点で高校生の「出る杭」を啓発していただける。都道府県大会に地元企業が協賛するケースも出てきています。

—課題はありますか。

伊藤  都道府県大会への参加者の数にバラつきがまだ見られることです。参加校が80校を超える県がある一方で、1桁のところもあります。もう一つは女子生徒をどう増やすかです。現状では都道府県大会で30%、全国大会はもっと少なくなってしまいます。

—今年3月の全国大会が第5回。科学の甲子園出場の経験が、科学的思考の醸成や将来の進路選択の場面で生きてほしいですね。

伊藤  科学の甲子園は着実に前進し、いい方向に向かっています。大きく育ってきた要因の一つは、問題をつくる先生方のご努力でしょう。知識だけで解ける問題はありません。このコンテストは実体を伴った「出る杭育成法」です。こうした取り組みを継続していくためには、産業界を含めた社会全体の支援が必要だと思います。

(取材・構成:編集部 登坂和洋)

「産学官連携ジャーナル」2016年3月号より転載

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