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第56回科学技術映像祭 受賞作品発表 内閣総理大臣賞に、『鳥の道を越えて』

サイエンスポータル編集部

掲載日:2015年5月11日

 科学技術映像祭の受賞作品が決定し、4月17日、東京・北の丸公園の科学技術館サイエンスホールで優秀作品の表彰式と作品上映が行なわれた。作品は順次、全国各地の科学館で上映される予定だ。

 この映像祭は、「優れた科学技術映像を選奨し科学技術の普及と向上を図る」ことを目的に、1960年に始められた。表彰式の冒頭で、運営委員を代表し石田寛人(いしだ ひろと)金沢学院大学名誉学長は、「設立当時は高度経済成長期のさなかでテレビが家庭に浸透し始めたころだったが、応募作品はスクリーンに映写する映画作品ばかりだった」と感慨深げに振り返り、「以来、今日まで極めて優秀な作品が数多く寄せられた。今後もわが国の科学技術の振興、科学イノベーションによるさらに豊かな日本、明るい将来を目指し、科学映像を力強く応援していきたい」と決意を語った。

 56回目を迎える今回は、全国のテレビ局や学術研究機関等から32作品の応募があった。審査には、科学ジャーナリストや映像プロデューサー、各分野の研究者、小中学校教員など19人が臨み、優秀作品10作品が選出された。

 その結果、最優秀作品の内閣総理大臣賞には、「鳥の道を越えて」が輝いた。この作品は、岐阜県の東濃に生まれ育った今井友樹(いまい ともき)監督が、幼いころに祖父から聞いた、「昔、あの山の向こうに鳥の道があった」という言葉をきっかけに、かつて東濃で盛んだった霞網猟(かすみあみりょう)の真実を探ったドキュメンタリーだ。映像によれば霞網猟は、鳥から見えにくい霞網を使って野鳥を捕える日本独自の狩猟法であり、戦後、禁止され、現在は野鳥保護に役立てられている。

映画「鳥の道を越えて」予告編より

 

 「鳥の道とは何か?」「霞網はどこで誰が仕掛けていたのか?」「なぜ渡り鳥の大群はいなくなったのか?」と次々に浮かぶ疑問の答えを、今井監督は、2006年から8年の歳月を費やして、カメラマンと二人で探っていったという。昔を知る人を訪ね、資料をひも解き、江戸時代から長年受け継がれてきた霞網猟の風習や、野鳥を貴重なタンパク源としてきた文化、禁猟令の歴史観、野鳥保護活動の動きなどを、監督自身の静かな驚きを織り込みながら、丁寧にロードムービーに紡いでいった。

 科学ジャーナリストの武部俊一(たけべ しゅんいち)審査委員長は、「時間の流れが非常にゆったりとして、ものごとを深く考えさせる作品。歴史的な記録としても貴重だが、それ以上に、食文化をはじめ広い意味での文化と野鳥保護の関わりという根源的なテーマを撮っている。気品があり、意義のある作品だと思う」と評した。

作品を講評する武部審査員長
作品を講評する武部審査員長

 

表彰式より。内閣総理大臣賞を授与する藤井文部科学副大臣(左)と今井監督(右)
表彰式より。内閣総理大臣賞を授与する藤井文部科学副大臣(左)と今井監督(右)

 

受賞の喜びを語る今井監督
受賞の喜びを語る今井監督

 

 次点の文部科学大臣賞には3作品が選出された。特に「NHKスペシャル巨大災害MEGA DISASTER 地球大変動の衝撃 第4集 火山大噴火」については、表彰式で、実は決選投票前の多数決ではこの作品が優勢だったという秘話が披露され、最優秀作品との接戦ぶりが伝えられた。両者は趣向も手法も大きく異なる作品であり、比較することの難しさや、映像表現の幅広さを感じさせる。

 この「火山大噴火」は、NHKの取材力で国内外の研究現場を訪れ、その最新成果から、地下に潜むマグマのダイナミズムと、やがて来る大噴火の脅威を伝えた。桜島大噴火の可能性など、取材で得たあまりにも恐ろしい研究成果を知った取材班は、「本当にこのまま伝えてよいものか」と迷ったそうだ。だが、結局、全てを映像で伝えることにした。

 

噴火する火山(イタリア・ストロンボリ島)
噴火する火山(イタリア・ストロンボリ島) ©NHK

鹿児島・桜島の地下のマグマだまり(CG)
鹿児島・桜島の地下のマグマだまり(CG) ©NHK

日本列島の地下に蓄積するマグマ(CG)
日本列島の地下に蓄積するマグマ(CG) ©NHK

火砕流で壊滅したイタリア・ナポリ市街(CG)
火砕流で壊滅したイタリア・ナポリ市街(CG) ©NHK

 

 製作者代表の山本高穂(やまもと たかお)NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサーは、「決心の裏にあったのは、2011年の東日本大震災で何度も耳にした『想定外』というキーワードだった」と振り返り、社会の無防備に近い状態に対し、「迫り来る火山噴火に備えるための助けになれば本当に幸いだ」とコメントする。武部審査委員長は、「リスクとワンダー、両方の要素を兼ね備えた、大変迫力のある、時間的にも地理的にもスケールの大きな作品。地球全体が、今、地学的にリスクの高いステージに入ったことを伝えている。こうした映像が一般の人にじわじわと入り、社会がその知識に基づいた災害対策を行なうことが望まれる」と語った。

 今回の受賞作品は、10作品中7作品が「生き物」をテーマにした点でも注目される。生態の不思議を見つめた「Sex Change オキナワベニハゼの社会と性転換」や、大阪の動物園で1950年から飼われてきた高齢アジアゾウの最期に密着した「天王寺おばあちゃんゾウ 春子 最後の夏」、福島第一原発事故で被ばくした生きものを観察した「福島 生きものの記録シリーズ2 -異変-」、最先端のバイオイメージング技術で人体のミクロの世界を鮮明に捉えた「NHKスペシャル 人体 ミクロの大冒険 第1回 あなたを創る!細胞のスーパーパワー」など、どの作品も生き物を凝視し、工夫を尽くした撮影と編集がなされている。

 表彰式の終盤、藤井基之(ふじい もとゆき)文部科学副大臣は、「受賞作品には、人々の生活の営みに深く関わる自然界の仕組みを長時間にわたって研究した成果や、地球の構造や生命の不思議さを多角的に編集したものがあった。われわれの生活を支える科学技術を分かりやすく伝えると同時に、科学研究が地道な観察、実験、検証の積み重ねの上に成り立っていることを伝えてくれる。科学技術が生み出す成果が社会に望ましいものとなるためには、科学技術の知識や研究成果の発信に加え、国民の科学技術への参加の促進が重要だ。ますます創造性豊かで魅力的な作品をつくり、科学技術と社会の関係深化に尽力してほしい」と祝辞を述べた。

 なお、受賞作品の詳細については、関連リンクチラシ を参照のこと。今回の個性豊かな優れた作品を、機会があればぜひ多くの人に鑑賞してほしい。さらに、映像製作にチャレンジしてみるきっかけになれば、なお素晴らしい。

 

    受賞作品上映会の日程 *上映作品やプログラム等詳細は、各館に問合せのこと。
  • 旭川市科学館 6/14(日)、21(日) TEL.0166-31-3186
  • 帯広市児童会館 8/7(金)~9(日) TEL.0155-24-2434
  • 所沢航空発祥記念館 9/19(土)~27(日) *9/24は休館 TEL.04-2996-2225
  • 富山市科学博物館 7/15(水)~8/31(月) TEL.076-491-2125
  • 広島市こども文化科学館 8/15(土) TEL.082-222-5346
  • 阿南市科学センター 8/11(火)~16(日) TEL.0884-42-1600
  • 鹿児島市立科学館 10/1(木)~31(土) TEL.099-250-8511
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