レポート - 研究開発戦略ローンチアウト -

第61回「研究開発の投資効率を最大化させる2つの場 ~『集中研究開発拠点』と『共用拠点(Common User Platform)』~」

科学技術振興機構 研究開発戦略センター ナノテクノロジー・材料ユニット 永野智己 氏

掲載日:2014年11月19日

永野智己 氏(科学技術振興機構 研究開発戦略センター ナノテクノロジー・材料ユニット)

今、世界的に研究開発の集中拠点化と、先端設備の共用プラットフォーム化が、互いに相関を持ちながら進んでいる。この2つの動きは、研究開発や産業展開に関するその国・地域で、産学官からの投資と人材をグローバルに吸引する競争力の源泉になっている。


1. 異分野の連携、融合を

高価な装置類を集めて拠点化または共用化することは、投資効率を上げるばかりではなく、そこに集まった異分野の人材がアイデアを交換し合うことで連携・融合が進み、全く新しい科学技術やビジネスが生まれるきっかけを提供している。米国は既に研究インフラの整備された先進国でありながら、融合と連携を促進する新時代の科学技術戦略として、中長期の教育施策と人材育成策をセットにした制度設計を過去10数年で整え、持続的運営のノウハウを蓄積した。例えば、米国家ナノテクノロジーイニシアチブにもとづくNNIN(National Nanotechnology Infrastructure Network)に代表される共用プラットフォーム拠点や、ニューヨーク州立大のAlbany Nanotechの集中拠点化がそうである。

新興国では、国の科学技術ポテンシャルを一気に引き上げたいとの考えから、イノベーション立国への近道としてやはりこれら研究インフラの構築と運用に積極投資を進めた。中国の蘇州工業園区(Suzhou Industrial Park)にあるナノポリスは、国際拠点化をもくろんだ街づくりをシンガポール政府との共同で進め、世界各地から企業と投資を誘致している。その規模は既に、日本のつくば地域の10倍を超えるといわれ、海外有名大学を含む24の大学・研究機関が参画し、2014年現在で7万人の学生が活動している。

日本では過去、基盤的な研究インフラとして何をどこまでそろえ、どう運用・活用していくかの戦略的な設計が不足していた。近年の研究開発は、研究設備が先端的で高度であればあるほど、そこから得られる結果が課題解決の直接的な糸口になるケースや、よりデータの説得力が増すといった傾向がある。限られた財源のなかで、利用ニーズの高い先端設備を、組織を超えて地域ごとに整え、産業界や大学間で共同利用することが肝要である。そうした場の構築が国際競争を左右するとの考えは既に多くの国々で共通認識になっているが、日本ではそのような認識は産学官ともに薄かった。

欧米亜(中・韓・台・シンガポールなど)では研究インフラを整えた後、その維持発展・活用促進のためにも戦略的な投資を継続し、拠点の魅力を時間経過とともにさらに高めている。そこに集まる人が自らの課題を解決し、目的とする価値を生み出す循環を回すことに力を入れている。これに対し日本は、インフラを作るときには大きな投資をしても、そこから成果を生み出し、価値を高めるための戦略的な仕組みがなかなか構築されなかった。拠点は作った後、価値を生み出すための活動を産官学が協力して推進することで投資が本来の実を結ぶ。拠点における産官学連携は、産業界の人とアカデミアの人が共同作業をすることに意味がある。共有できる物理空間を用意することが重要であり、その物理空間が孤立しているのではなく、ネットワークとして国全体でつながっていることがさらに大事になる。


2. 共同拠点の真価を示せ

日本で共用プラットフォームが真価を発揮するためには、2つのマインドセットの変化を求めなければならない。第一は、プラットフォームを運営・提供する側の変化である。自ら研究開発活動を行いながらも共用設備のユーザーにサービスを提供する人が、なぜそれを行うのかについての能動的な考えを持つことが重要である。それには彼ら彼女らの周辺にいる人々の認識も変えていかなければならない。今後は、先端設備の共用サービスを提供してユーザーの課題を一緒に解決し、新しい知識や技術の創出に貢献することが、研究者・技術者としての尊敬を集めることにつながり、自らの社会における役割や存在価値をさらに確固たるものにしていくのだという新しい認識が求められる。また、各法人はそのような研究者や技術者を正当に評価する新たな基準を導入することが必要な時期に来ている。

第二は、使う側、すなわちユーザーサイドである。自前での解決が難しい時に、プラットフォームに行けば先端の装置と技術があり、また、知識が得られ、それによって少ないコストで解決策が見つかる。専門知識・技術の人的ネットワークもできる。プラッフォームがそのような価値を本当に備えているのだとユーザーが認識すれば、活用も進むはずだが、現在はまだ構築の途上にあって、存在を知っても利用に至らないことも多い。設備提供者とユーザーとの間での相互フィードバックループが働かないのである。第一の変化と第二の変化が相互に関係し合い、正のフィードバックが働く仕組みを機能させることができれば、さらに多くの人が共用拠点を使うようになるだろう。

日本では平成24年度からスタートした文部科学省のナノテクノロジープラットフォームがその仕組み構築に力強く挑戦しており、諸外国に制度面で遅れを取っていた日本が、その遅れを相当程度取り戻しつつある。ナノテクノロジープラットフォームには全国25機関37組織が参画している。このようなプラットフォームがなかった時代は、共同研究の形で個別に連携が図られていたが、それ以上の広がりはなかなか持ち得なかった。ナノテクプラットフォームという25機関37組織のネットワークができて変わってきたことは、ユーザーが課題を最初に持ち込んだ先の機関では対応できない問題も、他の機関へと紹介され、そこに持って行くことで解決できるケースが生まれているということである。このネットワークを通して、アドバイス、情報、技術サポートといったサービス、さらに今後は高度専門技術者の流動も期待される。

全国のナノテクノロジープラットフォーム
全国のナノテクノロジープラットフォーム
(図、ナノテクプラットフォームセンター機関NIMS発行パンフレットより)

全国のナノテクノロジープラットフォーム
写真. ナノテクプラットフォームセンター機関NIMS発行パンフレットより
プラットフォームの施設利用にはリアルの部分とバーチャルの部分の二面がある。リアルの部分はプラットフォームの設備、技術などのサービス提供である。バーチャルの部分はそのプラットフォームに専門知識、事例、解決策などが蓄積されていくことで、これ自体がプラットフォームの強みを生み出し、価値創出の源泉となる重要な部分である。特にバーチャルの部分では、利用事例などの知識や、設備情報のデータベース化、利用システムの面でICTを駆使することがポイントになる。(参考:ナノテクプラットフォーム共用設備利用案内 サイト)

日本ではこれまでの研究開発投資により、設備と知識が確実に蓄積されている。先端設備が徐々に整い、そこから新しい価値を生み出すことのできる人材が育ってきた。過去、そうした蓄積は研究機関ごと個別に積み上がるか、またはそこにいる個人に蓄積されたものであった。しかし今後を考えると、技術や人材の蓄積をプラットフォームに乗せ、誰もがアクセスし、その成果や経験を活用できるようにすることが、国全体の投資効率最大化の観点では重要である。もちろんビジネスの視点では、ユーザーと提供者の両者が納得できるような知的財産の取り扱いに関するルールを適切に組み込まなければならない。


3. 自主、自立の経営も必要

こうした先端設備のプラットフォームは、初期段階では国が主導すべきであろうが、プラットフォーム機関側の自主性・自立性が特に重要である。自主的にプラットフォームの意味を捉え、展開させていく必要がある。企業や地方自治体からのマッチング的な協力を得ていく必要もあるし、運営費の一部負担や、地方自治体が土地や人材を提供するといった協力関係をプラットフォームが作り出していくことも考えるべきである。一方、制度面の問題で利用課金の仕組みを導入しにくいケースもこれまではあった。しかし、ユーザーが得るサービスに応じて適正な費用を課金する仕組みは、拠点の持続的運営の観点で積極的に導入していくべきである。

継続性や持続性の意味では、プラットフォームに行けば知識が得られ、問題解決の糸口が見つかり、異分野の人と共同で研究開発活動ができる、という拠点としての魅力を備えることが必要条件となる。これは、研究開発と産学官連携に関する新しいエコシステムであり、これらを遂行していくためには、プラットフォーム運営にある種の経営概念が欠かせない。様々なタイプの資金を活用した収支のモデル、それに対するサービスモデル、そこに働く高度専門エンジニアやコーディネーターの雇用・評価・キャリアパスを運営システムに組み込むのである。国の政策的側面だけでなく民間の経営手法も参考にすることで、持続可能な集中研究開発拠点と共用拠点を成立させていくことが、新しい時代の研究文化を拓く。


参考・引用文献

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