レポート

研究開発戦略ローンチアウトー第52回「システム構築型イノベーションの重要性とその実現に向けて」

2013.12.24

富川弓子 氏 / 科学技術振興機構 研究開発戦略センター システム科学ユニット フェロー

富川 弓子(科学技術振興機構 研究開発戦略センター システム科学ユニット フェロー)

 システム科学ユニットでは、今年11月に「システム構築型イノベーションの重要性とその実現に向けて」という標題のプログレスレポート[1]を上梓しました。同ユニットは2009年10月に発足し、それ以来、「システム構築が社会的価値を生み出す原動力である」との考え方に基づき、「要素研究の統合」「科学技術の社会還元」「分野別振興から課題解決型へ」を実現するための科学的探索を使命として活動しています。このプログレスレポートでは、科学技術の研究開発における「システム化」と「システム的考察」の重要性を指摘し、これまでのユニット活動を通じて得られた「システム化」を推進するための方法論がまとめられています。本稿では、「システム科学」1年生の私がこの8カ月間で学んだなりに、このプログレスレポートの内容について紹介し、今後のユニット活動の方向性を述べてみたいと思います。

システム科学技術の役割

 「システム」という言葉はそれ自体が多義的で、分かりにくさの根源になっています。 CRDSから発した戦略提言[2]では「システムとはある目的を達成するために機能要素を適切に結び付けた複合体である。」と定義しています。

 具体例で話した方がいいかもしれません。工業製品などにおいては、付加価値が要素技術からシステムへ移動してきています。過去には、カメラの性能はレンズの明るさが決めていました。自動車はエンジンの性能が勝負でした。現在では、デジタルカメラの性能とコストは、光の像を電子に変換する信号処理システムに依存しています。自動車も車体系と駆動系を統合した車載制御系が膨大なシステムとなっています。さらに、その自動車自体も、道路交通やエネルギーマネージメントと結びついた社会システムの機能要素です。このように、もはや商品やサービスの価値の有無はシステム化の優劣に依存しているといえます。別の見方をしますと、「システム化」が難しいがゆえに、その価値に対価が支払われているわけです。

 すでに私たちはさまざまな社会システムの中に生きており、食、エネルギー、水循環、金融などすべて、システムによって生活が支えられています。ただし、それらのシステムが効率よく、最大限に我々が恩恵を得られるように、組み立てられているとは限りません。このレポートで主張する「システム構築型イノベーション」は、「よいシステム」を構築することによって得られるイノベーションです。「よいシステム」とは、先端技術を駆使してより高い質の生活を保障し、我々に恩恵を与えるものです。このようなシステム構築の重要性を追求する「システム科学技術」を、戦略提言[2]では、次のように定義しています。「システム科学技術は望ましいシステムを構築、管理するための科学的な基盤と、それを達成するための技術的な手法の総体である。」「システム科学技術」の背景には、部分と全体の関係を科学として深く研究する“システム科学”と、設計の視点から部分と全体の関係を探求する“システム技術”があります。これについての詳細はシステム科学技術分野の俯瞰報告書[3]をご参照ください。

システム構築とイノベーション

 システム構築型イノベーションの特長をレポートの中では、6つ挙げています。ここでは、その中でも重要なポイントを2つ抜粋します。「構築しようとするシステムの目的、機能、構成手順、運用などの合理性が一段高い、一般性のレベルで明示的に担保される」「現存する最先端の要素技術が動員され、それらが全体との調和のもとにシステムの部分として統合される」 さらにシステムを構築する手順を示します。図1のようにフェーズ1〜3に分け、それぞれ、プラットフォームの構築、個別システムの設計、設計したシステムの実装と運用、管理といった手順です。必ずしもフェーズ1から構築すべきだとはしていません。さらにフェーズ3においてもフェーズ2、フェーズ1に戻って課題を一般的に定式化して、より高い視点からシステム構築の意義を確認することとしています。

システム構築の手順
図1.システム構築の手順

今後の課題

 このレポートで提言している内容をもって、研究プロジェクトへの「システム化」の実装を試みることにより、方法論の検証と不足部分の洗い出しができるのではないかと思っています。また、システム化の成功例を社会や先駆者から学び、その分析を行うことによって、システム化の成功モデルを示すことができないか考えていきたいです。

 今回紹介できませんでしたが、このレポートの中では、研究プロジェクト実施のスキームや人材育成についても記載をしています。人材育成に必要な教科書作成の検討と、実際にシステム科学分野でPO、PM、PDとなる人材の発掘も重要な課題です。

細胞シート技術

 このレポートで提言している内容をもって、研究プロジェクトへの「システム化」の実装を試みることにより、方法論の検証と不足部分の洗い出しができるのではないかと思っています。また、システム化の成功例を社会や先駆者から学び、その分析を行うことによって、システム化の成功モデルを示すことができないか考えていきたいです。

 今回紹介できませんでしたが、このレポートの中では、研究プロジェクト実施のスキームや人材育成についても記載をしています。人材育成に必要な教科書作成の検討と、実際にシステム科学分野でPO、PM、PDとなる人材の発掘も重要な課題です。

おわりに

 CRDSでは、2014年2月21日(金)に科学技術国際シンポジウム「イノベーションを牽引するシステム科学技術 〜日米中の動向に学ぶ〜」(13時から、「ベルサール飯田橋駅前」で)を開催します。第1部ではアメリカ、中国からシステム科学の第一人者を招聘し各国のシステム科学政策について講演していただきます。吉川弘之・研究開発戦略センター長にも基調講演をお願いしています。また、第2部では、国内の企業や研究分野でシステム構築に造詣が深い方々のパネルディスカッションを予定しています。プログラム等の準備ができましたら、CRDSのHPで案内させていただきます。ご興味のある方は是非ご参加ください。

ページトップへ