レポート

《JST主催》次世代の科学者育成と人材交流の場に「グローバルサイエンスキャンパス」平成29年度(第4回)全国受講生研究発表会

2017.11.02

大槻 肇 氏 / 科学技術振興機構 理数学習推進部長

 グローバルサイエンスキャンパス(GSC)の受講生たちが日頃の研究成果を披露する第4回目の全国受講生研究発表会が、10月7日・8日に一橋大学一橋講堂で開かれた。優秀な研究を表彰で称え、受講生同士が交流を深めた。

全国17大学のプログラムを1,500名が受講

 GSCは、国際的に活躍できる科学技術人材の育成を目的に、平成26年度より科学技術振興機構(JST)理数学習推進部と全国の大学が連携して実施している。卓越した意欲・能力を持つ高校生らを対象に、国際的な活動を含む高度で体系的な理数教育プログラムを提供し、さらなる才能の育成を目指す。平成29年度は全国17大学が多様なプログラムを展開中で、約1,500名が受講している。

 全国受講生研究発表会は、GSCプログラムの下で個人・グループで取り組んできた研究成果の発信と、受講生や指導者の交流を深める場として毎年開かれている。今年度も代表として選ばれた受講生約120名が参加した。

 1日目は、時間を区切った形式で計44件のポスター発表を行った。38名の審査員が各ブースを巡回し、科学的探究能力の獲得度や研究の専門的達成水準、研究の意義や社会的貢献を適切にアピールできるかなど、次世代の科学者に求められるスキルを評価した。

 2日目は、前日のポスター発表で高い評価を得た10組が口頭発表を行い、最終審査により文部科学大臣賞1件、科学技術振興機構理事長賞1件、審査委員長特別賞2件、優秀賞6件が選定された。

写真1・2 1日目、ポスター発表の様子(左)、2日目、口頭発表の様子(右)
写真1・2.1日目 ポスター発表の様子(左)、2日目 口頭発表の様子(右)

科学好きの仲間との出会いが貴重な財産に

写真3.受賞者記念撮影(上)
写真3.受賞者記念撮影

 今年度から新設された文部科学大臣賞を受賞したのは、筑波大学「未来を創る科学技術人材育成プログラム“GFEST”」の受講生ナップ・ダニエルさん(東京都立国際高等学校2年)。「ラジエーターの効率分析のための数学的モデルの提案及び応用」と題した研究発表では、ラジエーターの効率向上を図るための理論モデルの構築と、装置を使った実験の経緯をまとめた。もっとも効率が高くなるラジエーター羽の形状を理論モデル上で計算し、実験で検証したところ、従来の実験結果に対して一定の効率アップが確認できたという。

写真4.「ラジエーターの効率分析のための数学的モデルの提案及び応用」のテーマで研究した結果を発表するナップ・ダニエルさん
写真4.「ラジエーターの効率分析のための数学的モデルの提案及び応用」のテーマで研究した結果を発表するナップ・ダニエルさん

 受賞後にナップさんは、「今回の発表は、数学的モデルを用いて高効率なラジエーターを開発するという手法の可能性を示したもの。研究としては未完成で、いわばコンセプトの証明にとどまるものですが、考え方が認められたことはうれしいです」と喜びを語った。

 高校に科学系の部活動がなく、一人で研究を続けてきたというナップさんは、「より高度な研究をしたいということ以上に、仲間がほしかった」と筑波大のGSCプログラムに参加。大学教員らの指導で生徒の自主研究をサポートするコースに所属し、キャンパスにも定期的に通いながら研究を深めてきた。

 これまでの活動については、「今回の発表会も含めて、GSCを通じていろいろな人と交流することができ、科学の面白さを共有できる仲間も増えました。こうしたつながりを、今後研究を続けていくうえでも大切にしていきたいです」と話していた。

グローバルな頭脳循環で“異に出会う経験”を

写真5.ノーベル化学賞受賞者 野依良治氏。「科学を志す君たちへ」と題して行われた講演会で、異文化との交流の大切さを高校生に伝えた
写真5.ノーベル化学賞受賞者 野依良治氏。「科学を志す君たちへ」と題して行われた講演会で、異文化との交流の大切さを高校生に伝えた

 2日目には、2001年ノーベル化学賞受賞者の野依良治(のより りょうじ)科学技術振興機構研究開発戦略センター長による講演が行われた。

 野依氏は、自身が科学に興味を抱いたきっかけや、ノーベル賞を受賞した「キラル触媒による不斉水素化反応の研究」の概要、社会のさまざまな分野での応用の現状などを紹介した後、「皆さんにも独創的な研究に取り組んでほしい」と高校生らにメッセージ。独創的な研究者に共通する要素として、「良い頭ではなく強い地頭」「感性と好奇心」「孤独に耐える精神力」などを挙げ、「特に重要なのが、研究領域や文化の異なる人びとと交流する“異に出会う経験”を積むこと」と語った。

 さらに、「最先端の科学研究では、価値観の似通った人びとが集う“グループ”ではなく、異分野の頭脳が目的を共有する“チーム”的発想が不可欠だ」と強調。最近の日本の若者たちには、「異なる文化に接してひらめく機会が少なくなっている」と危惧を示し、「科学に興味を持つ生徒や若い研究者たちによる、グローバルな頭脳循環を促していく必要がある」と提言した。

異分野交流から生まれる新たな研究にも期待

 表彰式に先立ってあいさつした文部科学省の信濃正範(しなの まさのり)大臣官房審議官は、「皆さんがいま学んでいることに独創力がプラスされたとき、社会を変える科学的発見が生まれる」と生徒たちを激励した。さらに、「GSCは我が国の生徒たちの独創力を育てるプログラムのひとつ。スーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業や科学オリンピックへの代表生徒派遣などと並んで、文部科学省として今後も支援していきたい」と話した。

 GSC審査委員会の坂口謙吾(さかぐち けんご)委員長は講評のなかで、「限られた時間での研究ながら素晴らしい成果が見られた」と発表会を総括した。生徒たちに対しては、「今後は異分野との協働で新しい研究分野にも取り組んでほしい」と期待を込め、「若い時期だからこそ異分野交流が刺激になる。GSCの下で科学を楽しみながら、異なる研究領域を含めた仲間をたくさんつくってほしい」と呼びかけた。

 今回の受賞者のうち数名は、11月25日、JST主催のサイエンスアゴラ2017で若手研究者らとのトークセッション「高校生 × イノベーター トークセッション “Road to INNOVATION”〜JSTグローバルサイエンスキャンパス〜」に参加し、「異に出会う経験」を積むこととなる。

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