レポート

英国大学事情—2018年1月号「英国の産学官コミュニティー連携調査結果(2015・16年度)」

2018.01.04

山田直 氏 / 英国在住フリーランス・コンサルタント

 英国在住約40年のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。

 2017年10月、イングランド高等教育ファンディング・カウンシル(HEFCE)は2015・16年度版の「英国の大学・産業界・コミュニティー連携調査結果」を公表した。今月号では、この約40ページのHEFCE資料の一部を抜粋して最新の状況を紹介する。なお、原文では「Higher Education-Business and Community Interaction」とあるが、政府等の公的機関との連携活動も含まれるため、「産学官コミュニティー連携」と表示した。

1. 産学官コミュニティー連携活動による大学の収入

※1 英国の第三セクターとは、日本とは異なり、チャリティー機関等の非営利機関を指す。
※2 IPはIntellectual Property、知的所有権の略。複数回答有り。

2. 経済的インパクトと知的所有権の保護

※3 近年、英国では大学から企業への技術移転活動を知識交流(Knowledge Exchange)活動と呼ぶことが多い。これは交流活動によって大学も企業から学ぶことが多く、相互利益となるという考え方に基づく。

*上記は大学へのアンケート調査を行い、各大学にトップ3を挙げてもらった結果である

3. 発明の開示、特許、ライセンシング

* 非ソフトウェア・ライセンス認可数の減少は、前年度に20%増加した反動である。
ソフトウェア・ライセンス認可数は、前年度に322%と大幅に増加した後での更なる増加を示した。その多くは移動通信関連ソフトウェア・アプリケーションである。

4. スピン・オフ、スタート・アップ、ソーシャル・エンタープライズ

※4 スピン・オフ企業とは、大学で発明された知的所有権を基に設立された企業で、大学がその企業の株式の何%かを所有する企業と株式を所有しない企業の二種類がある。また、ソーシャル・エンタープライズとは社会的問題の解決を目指す企業を指す。

5. 米国、英国、日本の大学における商業化活動の比較   単位: £100万(円)

* 上記の米国のデータは米国のAssociation of University Technology Managers(AUTM)、日本のデータは日本のUniversity Network for information and Technology Transfer(UNITT)による。また、FYは財政年度(Financial Year)、AYは学年度(Academic Year)を指す。

* この比較表を作成したHEFCEは、これらの国のデータは異なる定義や会計年度の違い等があり、同一ベースに基づくものではないため、必ずしも正確な比較ではないとしている。そのため、このデータは参考程度に見るのが妥当であろう。

6. 筆者コメント

* 筆者が約5年前に執筆した「英国大学事情2012年第9号」では、2003・04年度から2010・11年度までの英国の大学の産学官コミュニティー連携活動による年度ごとの総収入を掲載している。

* それらを参考に、2003・04年度、2010・11年度、2015・16年度の産学官コミュニティー連携活動から得られる英国の大学の総収入を比較すると以下のようになる。

* 上記のように、産学官コミュニティー連携活動からの英国の大学の総収入は、2003・04年度から2015・16年度までの12年間で85.3%増(平均年率7.1%増)、2010・11年度から2015・16年度までの5年間で27.4%増(平均年率5.5%増)と着実に増加している。

* 英国では、大学発の発明の商業化に特化した大手専門企業もいくつか存在している。「英国大学事情2014年第8号」でも紹介したように、その代表的な企業がIP Group社である。同社は英国の何校もの有力大学の学部や学科等と長期契約を結び、例えば、500万ポンド(7億5,000万円)のブロック投資をし、その見返りとして、今後数年間にわたりその学部や学科の発明から生まれたスピン・オフ企業の株式を何パーセントまで取得する権利を得るという、ビジネス・モデルである。

* 英国にはIP Group社以外にも、このビジネス・モデルにて数社が活躍している。このように、大学発スピン・オフ企業への投資にリスクのとれる専門企業が英国には存在していることも強みであろう。なお、IP Group社は元々中堅の証券会社であったが、現在では大学発のスピン・アウト企業への投資の他、経営支援、人材紹介等の総合的な支援活動も行っている。

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