レポート - 英国大学事情 -

2018年1月号「英国の産学官コミュニティー連携調査結果(2015・16年度)」

掲載日:2018年1月4日

英国在住約40年のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。

2017年10月、イングランド高等教育ファンディング・カウンシル(HEFCE)は2015・16年度版の「英国の大学・産業界・コミュニティー連携調査結果」を公表した。今月号では、この約40ページのHEFCE資料 の一部を抜粋して最新の状況を紹介する。なお、原文では「Higher Education-Business and Community Interaction」とあるが、政府等の公的機関との連携活動も含まれるため、「産学官コミュニティー連携」と表示した。

1. 産学官コミュニティー連携活動による大学の収入

【共同研究収入】単位:£1,000(円)
  2014・15年度 2015・16年度 前年度比
リサーチ・カウンシル 486,371  (730億円) 553,694  (831億円) +14%
その他の英国の省庁 340,773  (511億円) 341,069  (512億円) 0
EU政府 339,055  (509億円) 324,290  (486億円) -4
その他 90,834  (136億円) 72,691  (109億円) -20
合計 1,257,033 (1,886億円) 1,291,744 (1,938億円) +3%
【契約研究収入】単位:£1,000(円)
  2014・15年度 2015・16年度 前年度比
中小企業 47,985 (72億円) 54,190 (81億円) +13%
大企業 435,257 (653億円) 452,801 (679億円) +4
公的機関、第三セクター※1 726,539 (1,090億円) 738,296 (1,107億円) +2
合計 1,209,781 (1,815億円) 1,245,287 (1,868億円) +3%

※1 英国の第三セクターとは、日本とは異なり、チャリティー機関等の非営利機関を指す。

【コンサルタント収入】単位:£1,000(円)
  2014・15年度 2015・16年度 前年度比
中小企業 73,686 (111億円) 83,737 (126億円) +14%
大企業 109,541 (164億円) 112,425 (169億円) +3
公的機関、第三セクター 259,202 (389億円) 258,948 (388億円) 0
合計 442,429 (664億円) 455,110 (683億円) +3%
【施設・設備関連の貸し出し収入】単位:£1,000(円)
  2014・15年度 2015・16年度 前年度比
中小企業 59,134 (89億円) 62,060 (93億円) +5%
大企業 61,862 (93億円) 60,764 (91億円) -2
公的機関、第三セクター 70,484 (106億円) 86,709 (130億円) +23
合計 191,480 (287億円) 209,533 (314億円) +9%
【技術者継続教育・継続教育収入】単位:£1,000(円)
  2014・15年度 2015・16年度 前年度比
中小企業 22,249 (33億円) 22,257 (33億円) 0%
大企業 136,873 (205億円) 126,359 (190億円) -8
公的機関、第三セクター 284,033 (426億円) 271,137 (407億円) -5
個人 271,761 (408億円) 247,186 (371億円) -9
合計 714,916 (1,072億円) 666,939 (1,000億円) -7%
【地域再生・開発関連収入】単位:£1,000(円)
  2014・15年度 2015・16年度 前年度比
European Regional Development Fund 84,181 (126億円) 45,735 (69億円) -46%
European Social Fund 12,103 (18億円) 6,950 (10億円) -43
英国政府 59,520 (89億円) 38,581 (58億円) -35
地方政府、地方団体 28,496 (43億円) 41,221 (62億円) +45
その他 20,258 (30億円) 30,249 (45億円) +49
合計 204,558 (307億円) 162,736 (244億円) -20%
【知的所有権関連収入】単位:£1,000(円)
非ソフトウェア・ライセンス 2014・15年度 2015・16年度 前年度比
中小企業 11,211 (17億円) 16,059 (24億円) +43%
大企業 67,672 (102億円) 99,857 (150億円) +48
公的機関、第三セクター 8,115 (12億円) 8,667 (13億円) 7
ソフトウェア・ライセンス 2014・15年度 2015・16年度 前年度比
中小企業 1,275 (2億円) 1,134 (2億円) -11
大企業 3,302 (5億円) 3,569 (5億円) +8
公的機関、第三セクター 4,109 (6億円) 3,908 (6億円) -5
その他のIP※2収入 2014・15年度 2015・16年度 前年度比
中小企業 1,265 (2億円) 1,067 (2億円) -16
大企業 4,797 (7億円)  5,089 (8億円) +6
公的機関、第三セクター 885 (1億円) 766 (1億円) -13
小計 102,631 (154億円) 140,116 (210億円) +37
株式売却収入 52,770 (79億円) 35,793 (54億円) -32
合計 155,401 (233億円) 175,909 (264億円) +13%

※2 IPはIntellectual Property、知的所有権の略。複数回答有り。

【産学官コミュニティー連携活動による大学の総収入】 単位:£1,000(円)
  2014・15年度 2015・16年度 前年度比
総合計 4,175,598(6,263億円) 4,207,258(6,311億円) +1%

2. 経済的インパクトと知的所有権の保護

【大学にとって最も経済的インパクトのある活動:トップ3】  2015・16年度
活動 回答した大学の比率 前年度比
企業との共同研究 46% +4%
知識交流 (技術移転等のKnowledge Exchange※3活動) 44 +4
幅広い層の学生への大学進学支援 38 -1
国が必要とする各種スキル・ニーズへの対応 29 -1
中小企業への支援 28 -4
地域のパートナーシップの拡充 23 +4
地域が必要とする各種スキルのニーズへの対応 21 -3
地域外からの学生の呼び込み 16 -1
卒業生の地域内への残留支援 15 +1
在学生や卒業生による起業活動への支援 11 +2
商業化支援 (スピン・オフ活動、ライセンシング等) 8 -1
インキュベーター支援 6 -1
地域開発への支援 6 0
地域への外部からの投資の呼び込み 5 0
経営開発への支援 4 -1
施設・設備のネットワークの拡充 1 0

※3 近年、英国では大学から企業への技術移転活動を知識交流(Knowledge Exchange)活動と呼ぶことが多い。これは交流活動によって大学も企業から学ぶことが多く、相互利益となるという考え方に基づく。

*上記は大学へのアンケート調査を行い、各大学にトップ3を挙げてもらった結果である

【大学における知的所有権の保護方法】 2015・16年度
活動 回答した大学の比率 前年度比
大学自身がインハウスでIPの出願・保護を実施 38% +1%
弁理士事務所等、大学外部にIPの出願・保護を委託 61 -1
その他の方法でのIPの出願・保護 51 -2
【大学によって保護された知的所有権の商業価値の見極め方法】  2015・16年度
活動 回答した大学の比率 前年度比
大学自身がインハウスで実施 43% 0%
外部組織に委託 9 -1
大学自身と外部組織の併用 34 +2
ノー・アクション 14 -1

3. 発明の開示、特許、ライセンシング

【発明の開示、特許申請、特許認可数】
  2015・16年度 前年度比
発明の開示数 4,358 -3%
特許申請数 2,066 -4
特許認可数 1,219 +28
現在有効な認可済み特許の合計数 18,723 +5
【ライセンス認可】
  2015・16年度 前年度比
非ソフトウェア・ライセンス認可数 6,487 -22%
ソフトウェア・ライセンス認可数 37,144 +12

* 非ソフトウェア・ライセンス認可数の減少は、前年度に20%増加した反動である。
ソフトウェア・ライセンス認可数は、前年度に322%と大幅に増加した後での更なる増加を示した。その多くは移動通信関連ソフトウェア・アプリケーションである。

4. スピン・オフ、スタート・アップ、ソーシャル・エンタープライズ

【スピン・オフ、スタート・アップ及びソーシャル・エンタープライズにおける推定雇用者数、年間売上高、外部からの投資額】
  推定雇用者数合計 推定年間売り上げ合計 単位:£1,000(円) 外部からの推定投資額合計 単位:£1,000(円)
2014・15年度
スピン・オフ企業(大学が株式所有) 12,480名 1,086,720 (1630億円) 962,143 (1443億円)
スピン・オフ企業(大学が株式非所有) 5,105 781,613 (1172億円) 101,721 (153億円)
教職員によるスタート・アップ企業 2,368 153,571 (230億円) 15,982  (24億円)
卒業生によるスタート・アップ企業 20,880 648,985 (973億円) 302,740 (454億円)
ソーシャル・エンタープライズ 754 35,310 (53億円) 2,282 (3億円)
合計 41,587名 2,706,199 (4059億円) 1,384,868 (2077億円)
2015・16年度
スピン・オフ企業※4 (大学が株式所有) 13,397 1,262,711 (1894億円) 869,585 (1304億円)
スピン・オフ企業(大学が株式非所有) 4,782 413,020 (620億円) 261,077 (393億円)
教職員によるスタート・アップ企業 2,279 156,211 (234億円) 31,319 (47億円)
卒業生によるスタート・アップ企業 22,592 626,790 (940億円) 131,695 (198億円)
ソーシャル・エンタープライズ※4 1,285 52,335  (79億円) 3,411 (5億円)
合計 44,335名 2,511,067(3767億円) 1,297,087(1946億円)

※4 スピン・オフ企業とは、大学で発明された知的所有権を基に設立された企業で、大学がその企業の株式の何%かを所有する企業と株式を所有しない企業の二種類がある。また、ソーシャル・エンタープライズとは社会的問題の解決を目指す企業を指す。

【社会、コミュニティー、文化関連活動への参加状況とアカデミック・スタッフが要した時間】
  無料イベント 有料イベント
  参加者数 アカデミック・スタッフが要した時間 参加者数 アカデミック・スタッフが要した時間
2014・15年度
公開レクチャー 2,098,277名 17,252日 233,072名 3,632日
パフォーマンス・アーツ 864,754 11,393 1,918,888 18,350
展示会 13,658,664 21,215 2,219,383 2,223
博物館での教育 600,839 1,894 124,889 2,178
合計 17,222,534名 51,754日 4,496,232名 26,383日
2015・16年度
公開レクチャー 5,106,697名 17,419日 247,897名 3,239日
パフォーマンス・アーツ 3,976,063 14,105 2,114,245 19,097
展示会 12,756,050 18,057 1,385,469 1,426
博物館での教育 699,967 2,471 191,622 3,412
合計 22,538,777名 52,052日 3,940,233名 27,174日

5. 米国、英国、日本の大学における商業化活動の比較   単位: £100万(円)

米国 英国 日本
FY2014 FY2015 AY2014/15 AY2015/16 FY2014 FY2015
大学の研究費総額 35,542(5兆3,313億円) 39,620(5兆9,430億円) 7,845(1兆1,768億円) 7,874(1兆1,811億円) 13,443(2兆165億円) 14,050(2兆1,075億円)
IP収入(スピン・オフ企業の株式売却を含む) 1,401(2,102億円) 1,224(1,836億円) 155(233億円) 176(264億円) 18.7(28億円 23.82(36億円)
全研究費に対するIP収入の比率 3.90% 3.09% 2.00% 2.24% 0.10% 0.17%
スピン・オフ企業の設立数 840 946 142 168 35 65
スピン・オフ企業1社を生み出すための研究費 42.3(64億円) 41.9(63億円) 55.5(83億円) 46.7(70億円) 384.1(576億円) 216.2(324億円)
特許認可数 5,833 6,124 953 1,219 4,529 3,862
特許認可1件当たりの研究費 6.1(9億円) 6.5(10億円) 8.3(12億円) 6.4(10億円) 3.0(5億円) 3.6(5億円)
産業界への貢献 2,518(3,777億円) 2,961(4,442億円) 548(822億円) 603(905億円) 292(438億円) 342(513億円)
産業界向け研究の比率 7.10% 7.47% 7.00% 7.69% 2.20% 2.43%

* 上記の米国のデータは米国のAssociation of University Technology Managers(AUTM)、日本のデータは日本のUniversity Network for information and Technology Transfer(UNITT)による。また、FYは財政年度(Financial Year)、AYは学年度(Academic Year)を指す。

* この比較表を作成したHEFCEは、これらの国のデータは異なる定義や会計年度の違い等があり、同一ベースに基づくものではないため、必ずしも正確な比較ではないとしている。そのため、このデータは参考程度に見るのが妥当であろう。

6. 筆者コメント

* 筆者が約5年前に執筆した「英国大学事情2012年第9号」では、2003・04年度から2010・11年度までの英国の大学の産学官コミュニティー連携活動による年度ごとの総収入を掲載している。

* それらを参考に、2003・04年度、2010・11年度、2015・16年度の産学官コミュニティー連携活動から得られる英国の大学の総収入を比較すると以下のようになる。

【大学・産業界・コミュニティー連携活動による大学の総収入】 単位: £100万(円)
2003・04年度 2010・11年度 2015・16年度
2,270 (3,405億円) 3,302 (4,953億円) 4,207 (6,311億円)

* 上記のように、産学官コミュニティー連携活動からの英国の大学の総収入は、2003・04年度から2015・16年度までの12年間で85.3%増(平均年率7.1%増)、2010・11年度から2015・16年度までの5年間で27.4%増(平均年率5.5%増)と着実に増加している。

* 英国では、大学発の発明の商業化に特化した大手専門企業もいくつか存在している。「英国大学事情2014年第8号」でも紹介したように、その代表的な企業がIP Group社である。同社は英国の何校もの有力大学の学部や学科等と長期契約を結び、例えば、500万ポンド(7億5,000万円)のブロック投資をし、その見返りとして、今後数年間にわたりその学部や学科の発明から生まれたスピン・オフ企業の株式を何パーセントまで取得する権利を得るという、ビジネス・モデルである。

* 英国にはIP Group社以外にも、このビジネス・モデルにて数社が活躍している。このように、大学発スピン・オフ企業への投資にリスクのとれる専門企業が英国には存在していることも強みであろう。なお、IP Group社は元々中堅の証券会社であったが、現在では大学発のスピン・アウト企業への投資の他、経営支援、人材紹介等の総合的な支援活動も行っている。

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