レポート

英国大学事情—2017年9月号「英国の学士課程学生の海外経験」<「Gone International: mobility works」より>

2017.09.01

山田直 氏 / 英国在住フリーランス・コンサルタント

 英国在住約40年のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。

 2017年3月、英国大学協会(Universities UK)の国際部門であるUniversities UK Internationalは、2014・15年度に英国の大学の学士課程を卒業した英国出身※学生で、留学やインターンシップ等の海外経験のある人に対して、海外経験がもたらした学業成績や就職への影響等のアンケート調査を実施し、その結果を40ページの報告書「Gone International: mobility works」として発表した。それによると、海外経験は学業成績の向上と共に就職にも有利であることが分かった。今月号では、その中からごく一部を抜粋して紹介する。

※1 原文は「UK-domiciled」であり、厳密には英国籍を持つ学生の他に、英国に永住している外国人も含まれる。英国に定住しているという意味で「英国出身」と訳した。

1. 海外経験をした英国出身の学士課程学生のプロフィール

* 2014・15年度に学士課程を卒業した16,165名(アンケートへの全回答者の7.2%)の英国出身学生は、学士課程の一環として最低1週間以上の海外滞在経験をしている。

* 女子学生の方が男子学生より、海外経験に積極的であった。2014・15年度学士課程卒業生のうち、6.7%にあたる6,410名の男子学生が海外経験をしたのに対して、7.5%の9,755名の女子学生が海外経験をしている。

2. 海外経験先の地域・国

3. 海外経験の目的

* 当アンケート調査に回答した2014・15年度学士課程卒業の英国出身学生の79%が、通常は3年間の学士課程の2年度目、またはスコットランドにおける4年間の学士課程の3年度目にあたる2013・14年度に海外経験をしている。そのため、以下は2013・14年度のデータを基にしている。

※2 EUによる海外交流促進制度。主に大学の学生や教職員を対象に、EU国への留学や、EUにおけるスポーツ、ボランティア等の活動を促進する。
→「Erasmus+」

※3 学士課程の中に一定期間の海外経験を義務付けたコース。

4. 海外経験のある学士課程卒業生の進路

* 上記のSOC(Standard Occupational Classification)コードの「1−3」クラスは、マネージャー、ディレクター、専門職、準専門職、技術職等の大学卒レベルの職種を指し、「4−9」クラスは通常、大卒資格を必要としない職種を表す。

※4 1ポンドを140円にて換算。

【海外経験の卒業成績への影響】

* 海外経験のある学生は、海外経験のない学生に比べて、First-classやUpper Second-class等の優秀な卒業成績をより多く取得する傾向にある。2014・15年に学士課程を卒業した学生のうち、海外経験のある学生の80.1%はFirst-classやUpper Second-classの卒業成績を取得したのに対して、海外経験のない学生では73.6%であった。

筆者注:

英国の大学の卒業成績は、成績優秀順にFirst Class Honours (1st)、Second Class Honours Upper Division (2:1)、Second Class Honours Lower Division (2:2)、Third Class Honours (3rd)があり、通常はSecond Class Honours Upper Division (2:1)以上が成績優秀と見られている。

5. 筆者コメント

* この英国大学協会国際部による報告書には、Higher Education Statistics Agency
(HESA)のデータを利用した詳細なデータや表が豊富に紹介されているが、専門的
過ぎると思われる部分は大幅に割愛した。

* 2014・15年度に卒業した16,165名の英国出身の学士課程卒業生が、課程の一部として最低1週間以上の海外滞在経験をしている。これは当アンケート調査に回答した英国出身学生の7.2%である。アンケート調査に全員が回答したわけではないと思うが、個人的にはこの人数は少ないとの印象を受けた。

* 英国の学生が既に世界標準語になっている英語を学ぶ必要がないことも、その理由の一つなのかもしれない。以前、ある英国の大学の教員が「自分の大学ではフランスの大学と学生交流協定を結んでいるが、フランスからの留学生の方が圧倒的に多く、ほぼ一方通行状態で、英国の学生が内向きで困る」とこぼしていたのを思い出した。

* しかしながら、この状況はEUのエラスムス制度等の浸透によって、英国の学生も海外経験に目を向け始めているように思われる。その上、海外経験が就職に役立つとの認識が深くなってきているのも追い風である。

* 現在では、海外経験をした学士課程学生の55%がエラスムス制度を利用しているが、最も人気の高い海外経験先はフランスであり、36%を占める。ただし、英国のEU離脱によって、英国がEUのエラスムス制度に今後も参加できるかは現在のところ不透明である。

* 大学独自の制度を通じた海外経験先としては、米国の人気が一番高く約26%、カナダ11%、オーストラリア約10%、中国約6%と続くが、日本は約3%と低いのが気になる。

* 海外経験の目的の約69%が勉学のためであるが、約29%がインターン等の仕事のためであり、海外でのボランティア活動にも約3%の学生が参加しているのは興味深い。

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