レポート

英国大学事情—2017年4月号「2016年度・英国大学統計資料」<英国大学協会 2016年8月発行資料より>

2017.04.03

山田直 氏 / 英国在住フリーランス・コンサルタント

 英国在住約40年のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。

 2016年8月、英国大学協会(Universities UK)は2016年版の「Higher Education in facts and figures 2016 」と題する 英国の大学に関する統計資料を発表した。本連載ではこれまでにも、英国大学協会による同統計資料の年度ごとの更新内容を報じてきたが、傾向を把握しておく意味で、最新版である2016年度資料の抜粋を紹介する。

 これらの統計資料は、主にHigher Education Statistics Agency(HESA)が収集した2014・15年度のデータを利用したものである。なお、当「英国大学事情」では紙面の関係上、一部のデータを編集し直している。

1. ハイライト

* イングランド地方の大学進学率が最も低い地域に住む18歳の若者の大学進学希望者数は、10年前の12%に比べて2016年には22%まで改善している。

* 学士課程学生の13%、大学院生の38%、アカデミック・スタッフの28%は海外出身者である。

* 2015年において、大卒者の失業率は3.1%と、非大卒者の6.4%に比べて約半分である。

* 2014・15年度において、12億5,000万ポンド(1,750億円※1)の大学収入が共同研究によってもたらされている。

※1 1ポンドを140円にて換算(以下、すべて)

* 2014・15年度の大学に対する研究開発助成費の16%が海外からの助成金であり、その多くはEUからの8億ポンド(1,120億円)である。

2. 地方別の大学数、学生数及び前年度比増減率 2014・15年度

* 2014年には、すべての地方においてパートタイム学生が減少した。

3. フルタイム・パートタイム別の学士・大学院課程学生数の比率 2014・15年度

* パートタイムの学生は博士課程学生の約4分の1、修士課程学生の約半数、学士課程学生の約5分の1を占める。

4. 出身地別、履修課程別の学生 2014・15年度

* 学士課程の13%、大学院課程の38%が海外からの留学生である。

5. 学科別学生数(学生数の多い順) 2014・15年度 単位:1万名(概数)

* 男子学生に最も人気がある学科はビジネス、工学、生物科学の順である一方、女子学生の場合はヘルス関連、ビジネス、生物科学である。

6. 出身地別留学生数と増減率 2014・2015年度

* 全留学生の内、EU を中心とした欧州からの留学生は33%、中国からの留学生は20.5%、インドからの留学生は4.2%を占めた。2013・14年度から2014・15年度にかけて、インドからの留学生は7.2%減少した一方、南米からの留学生は12.9%増加した。

7. EEAからの留学生 2014・15年度

* 2014・15年度に、英国の大学で学んだEEA(European Economic Area)からの留学生は合計133,485名であり、全学生数の5.9%を占めた。

8. EU域外留学生からの授業料収入の増加傾向

9. 大学に対する学生の全般的満足度

* 大学に対する学生の全体的満足度に関して、満足していると回答した学生は86%と2014年以来最高水準にある。これは2008年に比べて4%の上昇である。

* 2016年において、授業に関しては87%、評価とフィードバックには74%、アカデミック・スタッフのサポートには82%の学生が満足であると回答した。アカデミック・スタッフのサポートへの満足度は、2008年以来8%上昇している。

10. 学位・資格授与数 2014・15年度

※2 教員を目指す学生のための1年間の大学院教職課程

* 2014・15年度に授与された全学位の53%が学士号、12%がその他の学士課程学位、35%が大学院課程学位であった。

11. 卒業後6カ月時点での卒業生の状況 2014・15年度

12. 教職員の出身地域と職務

* シニア・マネージメントの7%とシニア・レクチャラーの25%が、EU及びその他の地域からの外国出身者である。

13. アカデミック・スタッフの出身地域別、性別比率 2014・15年度

* 英国の大学に勤務するアカデミック・スタッフの17%が英国以外のEU出身、12%がEU域外出身、71%が英国出身である。

14. 世界各国の高等教育支出のGDP比率 2012年

15. 高等教育機関の収入と支出 2014・15年度

筆者注:

  • 2012・13年度入学者より、イングランド地方の大学の年間授業料の上限が3,225ポンド(約45万円)から9,000ポンド(126万円)に大幅に引き上げられた。これに伴い、2008・09年度には全収入に占める授業料収入比率が27%であったのに比べ、2012・13年度には38%、2014・15年度には44%とその比率が大きくなってきている。
  • 英国の大学付属病院はNHS(National Health Service)が運営しており、その収入は大学の収入ではない。しかしながら、大学が病院に派遣する教員やスタッフ等の料金は大学の収入となる。

16. 知識交流活動からの収入 (概数)

17. 研究開発助成金の助成元 2014・15年度

* 英国の大学への研究開発助成金の16%が海外から来ており、その内68%はEU域内からである。

18. 英国政府による研究開発支出のGDP比率 2007−2014年 (概数)

* 最新のデータである2013年のOECD諸国政府による公的研究開発費支出の平均GDP比は約0.67%であり、英国政府の公的研究開発支出はOECD平均値を大きく下回っている。

筆者注:2009年をピークに英国政府による研究開発支出が減少傾向にあるが、リーマン・ショック後の緊縮財政の影響を受けたためである。

19. 筆者コメント

* 英国の大学では、学士課程学生の13%、大学院生の38%、アカデミック・スタッフの28%は海外出身者である。また、2014・15年度においては、大学への研究開発助成費の16%が海外からであり、その多くはEUからの8億ポンド(1,120億円)である。このように英国の大学は国際化が進んでいるが、EU離脱後の影響が大変気になる。

* 英国の大学には、仕事に就きながらパートタイムとして大学に通う学生が多い。この数年間、パートタイムの学生数がやや減少しているが、それでも博士課程学生の約4分の1、修士課程学生の約半数、学士課程学生の約5分の1がパートタイム学生である。この中には、企業がスポンサーになっている年長の成人学生も多い。

* EU域外からの留学生の数は、中国からの約9万名が最多で、全留学生の内20%強を占める。EU域内からの留学生は現在30%弱いるが、英国のEU離脱後は、現在EU域外の留学生に適用されている高額な授業料がEU域内からの留学生にも適用される可能性があり、その数は減少する恐れがある。これに伴い、英国の大学はEU域外の留学生のリクルートにより力を入れると思われる。

* 英国の大学で学んでいるEEA(European Economic Area)からの留学生は、31カ国から13万名強と、非常に国際色に富んでいる。

* アカデミック・スタッフに関しては、17%が英国以外のEU出身、12%がEU域外出身、71%が英国出身と約30%が外国籍であり、非常に国際化が進んでいる。

* 2012・13年度より、イングランド地方の大学の年間授業料の上限が3,225ポンド(約45万円)から9,000ポンド(126万円)に大幅に引き上げられた。これによって、2008・09年度には授業料収入が2008・09年度には大学の総収入の27%であったのが、2012・13年度には38%、2014・15年度には44%と一番大きな比率を占めている。

* 授業料の大幅値上げ認可の見返りとして、運営府交付金は大幅に削減されてきており、運営費交付金の合計は、2014・15年度には26%に縮小している。この数字は英国の大学の平均値であり、ラッセル・グループの有力校では、運営費交付金の比率は20%を切っている所も多い。特にケンブリッジ大学では10%以下、オックスフォード大学では10%の比率と推測され、実質的に私立大学に近い状況にあると思われる。

* なお、授業料は大幅に値上げされたが、学士課程学生は授業料を在学中に払う必要はなく、政府系のStudent Loan Companyが学生に代わって大学に授業料を納める制度になっている。学生は大学卒業後に、年収の21,000ポンド(294万円)を超える部分の9%を30年間にわたり返済することになる。30年経っても残高が残る場合は、その債務帳消しとなる。したがって、大学卒業後に例えば専業主婦となり、年収が1度も21,000ポンドに達しなかった場合は、大学授業料は実質無料ということになる。

* 英国の大学における研究開発への助成の内、EUの公的助成及びEU域内企業からの助成は11%を占めており、英国のEU離脱後が気がかりである。しかしながら、EU離脱の国民投票結果を受けて、英国政府は2020年までに年度の財政赤字を解消するとした前財務大臣の方針を変更し、柔軟な公的財政支援の可能性を示唆しているため、英国政府からのある程度の支援があるのではと期待されている。

* 2014・15年度の知識交流活動収入の内、約12億6,000万ポンド(1,764億円)の共同研究収入の62%および約12億ポンド(1,680億円)の契約研究収入の75%は、24の有力大学で構成されるラッセル・グループによる収入であり、集中化が見られる。(参考資料:Russell Group universities「Facts and figures」)

(参考資料: Universities UK「Higher Education in facts and figures 2016」)

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