レポート - 英国大学事情 -

2017年3月号「英国の大学の収入」<英国大学協会(Universities UK)2016年発行資料より>

掲載日:2017年3月1日

英国在住約40年のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。

2016年7月、英国大学協会(Universities UK)は「University Funding Explainedpdfと題する小冊子を発行した。この小冊子発行の主目的は、英国の大学の収入源が授業料や政府からの運営費交付金のみならず多岐に渡っていることを示すと同時に、その剰余金が持続的に教育や研究の改善および地域や国の成長を支える産業界とのイノベーションの創造にも還元されていることを、社会にわかりやすくアピールすることにある。

英国大学協会は、今までも毎年、大学の各種統計データを公表しているが、今回は大学のファンディングに重点を置いている点に特徴がある。なお、この英国大学協会の小冊子は、公的助成を受けている英国全土の164大学と公的助成を全く受けていない私立大学であるUniversity of Buckinghamを合わせた統計資料に基づいている。

1. 英国の高等教育機関の数と総収入

【地方別:高等教育機関数】合計164校 2014・15年度
イングランド130校 スコットランド19校
ウェールズ10校 北アイルランド5校

(公的助成を受けている高等教育機関の数)

【大学の総経常収入の内訳】 332億ポンド(4兆6,480億円※1) 2014・15年度
授業料44% その他の収入21% 研究向け運営費交付金16%
教育向け運営費交付金10% その他の研究収入8% 大学基金からの収入1%

※1 1ポンドを140円にて換算(以下、本頁全て)

筆者注:

  • 英国政府からの運営費交付金の平均的比率は、大学の総収入の約4分の1に過ぎない。トップ校では、その比率は10%台である。
  • 上記の「その他の収入」は、宿泊施設、会議場や設備貸出等からの収入も含む。
  • 「その他の研究収入」は、リサーチ・カウンシルの競争的研究助成金の獲得や企業からの委託研究収入等を含む。

2. 教育のための収入

【教育向け収入源】 181億ポンド(2兆5,340億円) 2014・15年度
英国・EU学部学生からの授業料47% EU域外学生からの授業料23%
教育向け運営費交付金18% 英国・EU大学院生からの授業料7%
その他の授業料・助成金5%  

* 長期にわたり持続可能な高等教育を提供するためには、高等教育機関は教育にかかる総経済費用(full economic costs : 略称FEC)を賄う必要がある。これらの費用には、スタッフ、設備、サービス等にかかる経費の他に、インフラの更新やイノベーションに対する投資も含まれる。

* 2014・15年度において、英国の大学は英国・EUの学部学生及び修士課程学生の教育に関しては、その総経済費用をどうにか賄える状態であり剰余金は出ていない。

【大学生数】 約230万名 2014・15年度
英国・EU学部学生 約1,600,000名 授業料収入は116億ポンド(1兆6,240億円)、
その73%は授業料、27%は運営費交付金
英国・EU大学院生 379,675 名 授業料収入は12億ポンド(1,680億円)
EU域外学部・大学院留学生 312,010 名 授業料収入は42億ポンド(5,880億円)

(筆者注:全学生約230万名の内、約4分の1はパート・タイム学生)

* 英国の大学が英国・EUの学生から得る授業料以上に教育経費がかかる学科があり、このギャップを埋めるために、政府から一括助成金として支給される教育向け運営費交付金が使われてきた。しかしながら、授業料と運営費交付金からの収入では経費を賄えきれない学科もある。

* EU域外からの留学生向け授業料は政府の規制を受けないため、英国・EUの学生向けの授業料よりかなり高い水準に設定されており、これらの収入を経費で賄いきれない学科の赤字補てんに向けているのが現状である。

3. ワールド・クラスの研究のための収入

【研究向け収入源】 79億ポンド(1兆1,060億円) 2014・15年度
英国政府66% 英国チャリティー機関13%
EU11% EU域外5%
英国企業4% その他1%

* 長期的持続可能性を確保するために、大学は研究にかかる総経済費用(FEC)をカバーする必要がある。2014・15年度に英国の大学が政府及びその他から得た研究向け総収入は、持続可能な運営には不十分な水準であり、総経済費用を考慮した場合には全体で29億ポンド(4,060億円)の赤字であった。

* 英国は、多くの海外諸国に比べて研究開発への投資が少ない。OECD諸国における研究開発費投資のGDP比率は平均2.4%であるのに対して、英国では1.7%の水準である。

4. イノベーションのための収入

【知識交流活動のための収入源】 42億ポンド(5,880億円) 2014・15年度
公的機関・第三セクター32% 大企業20%
個人7% 中小企業5%
その他36%  

筆者注:英国における「第三セクター」は日本で使われる意味とは異なり、政府、民間以外の例えばチャリティー機関等の非営利機関を指す。また、英国の「中小企業」とは従業員数250名未満の企業を意味する。

【企業との研究契約数】 2014・15年度
大企業 10,859件 中小企業 2,517件

* 大学は、その専門知識を企業やコミュニティーと共有すると共に、その知識を活用して共同研究や委託研究を行っている。英国では、このような活動は相互に利益が得られることから、知識移転ではなく、知識交流(knowledge exchange)と呼ばれている。これらの知識交流活動への政府の助成は、現在のところ比較的少ない状況にある。

5. 大学の財務

【イングランド地方の大学の設備投資のための収入源】設備投資額 36億ポンド(5,040億円) 2014・15年度
借入金40% 運営収益 31%
設備投資助成金23% 資産売却益 6%

* イングランド地方の大学は、2014・15年度には設備投資額の31%を運営収益にて賄っていたが、2017・18年度までには設備投資の75%を運営収益にて充当する計画である。

【短期的見通し】

* イングランド地方の大学では、2014・15年度において現金等の純流動性(net liquidity※2)が126日分あったのに対し、2017・18年度では67日分に減少する予定である。これは、大学が新規の施設の建設や改修に自己資金をあてがう傾向が増えていることによる。(筆者注:政府からの設備投資助成金の減少による。)

※2 Net liquidityは、即座に現金化できるもの又は現金を指す。

【イングランド地方の大学の年間総経常収入に占める借入金残高の比率】
2011・12年度23.5% 2014・15年度28.1% 2016・17年度見込み30.4 %

【長期的見通し】

* 大学は老朽化した施設の更新と共に、学生、企業等の雇用者や社会の将来的ニーズに応えるための投資を必要とする。すべての大学が外部からの借り入れができるわけではないが、政府の設備投資への助成は限られているため、イングランド地方の大学の借入金残高は2016・17年度の総収入の30%を超えることが予想される。

* 長期的には、大学は増加する設備投資費用を賄うために、EU域外からの留学生を含む学生数を更に増やす必要に迫られよう。

6. 財務リスクと課題

【短期的リスク】

英国・EU学生からの需要の変動
学士課程の高等教育市場の規制緩和、人口構造の変化、他業種からの高等教育市場への参入等により、各大学は年度ごとの学生数の予測が困難な状況に直面するであろう。また、大学は学生獲得競争が激しくなるために、マーケテイング等の経費増加にも対処せざるを得なくなるであろう。(筆者注:当英国大学協会の小冊子が作成されたのは、英国のEU離脱国民投票結果が出る前であり、EU離脱が決まった現在では、EUからの留学生の獲得は以前よりも厳しいものになろう。)

EU域外留学生からの需要の変化
政府による移民政策の変更は、EU域外留学生からの需要に影響を与えた。将来の移民政策の変更への不安や留学生獲得の国際的競争の激化は、EU域外からの留学生の数に影響を与えるだろう。

公的助成の更なる削減
2015年の政府の包括的予算見直し(2015 Comprehensive Spending Review)にて示されたように、今後2019・20年度まで、高等教育と研究への政府の公的助成は、削減又は現状維持となる。特に教育向け運営費交付金は大幅な削減が計画されている。

【中長期的リスク】

研究活動経費の確保
長期にわたる持続可能な研究活動のためには、研究にかかる総経済費用(FEC)を賄っていく必要があるが、英国の大学はこれらの総経済費用をカバーするための十分な収入を得ていないのが現状である。

大学年金制度への支払い資金の確保
大学老齢退職年金制度(University Superannuation Scheme)は、英国の高等教育分野における最大の年金制度であるが、2015年現在、83億ポンド(1兆1,620億円)の債務超過の状況にある。

大学老齢退職年金制度のような受給額確定型年金制度は、現在のように歴史的に低い国債利回りや低い銀行金利に加え、平均寿命の伸び率を考えると、常に年金の支払い資金不足の課題に取り組み続けなくてはならない。近年、大学老齢退職年金制度やその他の受給額確定型年金制度は制度改革が実施されてきたが、年金支払いのための資金確保という課題は残っている。このような年金基金の資金不足は、年金制度への大学の更なる拠出の必要性を考えると、大学の財務へのリスクとなる。

【リスクへの対処】

十分な剰余金を産むための戦略
各大学は学生数の増減、予期せぬ経費の発生、運営費交付金の削減等に対応するために剰余金を産み出す努力をしている。剰余金が出た場合には、通常、教育や研究施設への再投資を行っている。

効率性、有効性、対費用価値
大学は、給与の上昇への抑制、建物等の資産の有効活用、資産やサービスの共有活動等を通じて経費の節減に努めてきた。イングランド地方の大学は、効率を高め、経費を抑制することによって、過去10年間で総額約24億ポンド(3,360億円)の経費削減を達成している。

慎重かつ対応の早い財務管理
英国の大学がEU域外からの留学生から得る授業料は、大学の財務を管理する上で、重要な役割を担っている。それ故、大学の長期的な持続可能性は、十分な数のEU域外の留学生を引き寄せる魅力を、今後も持ち続けられるかにかかっている。

7. 結論

* 英国の大学が教育、研究、イノベーション活動のために得る収入は、幅広い収入源から来ている。教育のための収入の5分の1以下が、政府から直接的に運営費交付金の形で支給される一方、研究のための収入の場合は3分の2が政府から直接的に交付されている。しかしながら、政府から直接的に支給される教育向けと研究向けの運営費交付金を合計しても、大学が得る総収入の約4分の1に過ぎない。

* 大学は技能を持つ学部学生や大学院生を継続的に教育し、ワールド・クラスの研究を行い、経済成長を支えるためのイノベーションができるよう、今後も強固で慎重な財務戦略を実行していくであろう。

* 特に英国が世界をリードする研究の評判を維持していくためには、長期にわたる持続的な投資が必要であることは明らかである。

* 英国の大学がワールド・クラスの、質の高い教育と研究の実績を今後も継続していくためには、大学への持続的な助成が最も重要である。

8. 筆者コメント

* 今回参照した英国大学協会による16ページの小冊子(「University Funding Explained」)は、現在では政府からの運営費交付金は英国の大学の収入の一部分であり、大学は収入源の多様化に力を入れていることを、社会に分かりやすく説明し、広範囲な支援を得ることを目的としている。なお、当小冊子はEU離脱国民投票の翌月の2016年7月に発行されているが、実際の資料作成は国民投票前に行われているため、英国のEU離脱の投票結果は反映されていない。

* 英国大学協会は、頻繁に大学の現状を伝える小冊子やレポートを発行しており、この小冊子も市民が理解しやすいように多くのイラストが挿入されている。英国大学協会として、政治家や行政官僚へのロビー活動のほか、一般市民も味方につけて大学の持続的繁栄への支援を得るため、絶え間ない努力をしている姿勢がうかがえる。

* 英国の大学に対する政府からの運営費交付金の比率は、平均で大学の総収入の約4分の1にまで低下している。トップ校では、その比率は10%台であり、実質的に私立大学の形態に近くなってきている。ちなみに、英国では政府からの運営費交付金を一切受け取っていない大学を「私立大学」と呼んでいる。

* 英国の私立大学は、1970年代に設立されたバッキンガム大学(University of Buckingham)1校だけであった。しかしながら、最近では現保守党政権による高等教育分野の多様性と自由競争の促進という後押しもあり、出版事業等の他業種からの大学市場への進出や専門高等教育カレッジの大学昇格等、私立大学が増えつつある。また、英国の私立大学は今のところ非営利の大学が多いが、営利企業が運営する私立大学も出てきており、多様性が増している。

* 2016年6月の国民投票の結果を受け、英国政府は2017年3月末までにEUに対して正式に離脱の意志を伝える予定である。現在、英国の大学はEUから多額の科学研究費を受けているが、今後はこの収入をあてにできなくなる可能性があり、どのように対処していくかの大きな課題を背負っている。

* 大学の設備投資への政府の助成は限られている。すべての大学が外部からの借り入れができるわけではないが、イングランド地方の大学の借入金残高は2016・17年度の総収入の30%を超えることが予想される。

* 例えば、トップ大学の一つであるUCL(University College London)は、過去7年間で学生数を約50%増の35,000名とし、研究能力もほぼ倍増させた実績がある。更に今後10年間で12億5,000万ポンド(1,750億円)の予算にて、東ロンドン地区での新キャンパス開設や既存施設の更新を計画している。その一環として2016年には欧州投資銀行(European Investment Bank)から、英国の大学史上最大規模の2億8,000万ポンド(392億円)を30年ローンとして借り入れている。

※3 参照:UCL「UCL agrees £280m European Investment Bank loan for campus developments

* これは、現在の超低金利の環境を利用したものと思われるが、イングランド地方の大学は今後長期的に増加すると思われる設備投資費用を賄うために、授業料の高いEU域外からの留学生を更に増やす必要に迫られよう。

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