英国在住約40年のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。
2015年12月、英国大学協会(Universities UK)のHigher Education International Unitは、「International Undergraduate Students: The UK’s Competitive Advantage」と題する、世界の学士課程留学生の動向と留学生市場における英国の競争力に関する報告書を発表した。その中から、ごく一部を抜粋して紹介する。
1.世界の留学生の在籍動向
* 2012年のOECDデータによると、世界の高等教育機関には約450万名の留学生が在籍している。その数は、2005年に300万名、2011年には440万名と増加傾向にあり、2000年からは約2倍となっている。
2.英国留学体験の満足度
* 以下の学士課程留学生の体験データは、英国の約100の高等教育機関を含む世界約800の高等教育機関の留学生に対する、International Student Barometer(ISB)インターネット・アンケート調査結果に基づく。紙面の関係により、表の一部を省略・編集して紹介する。
3.留学体験満足度の国際比較
4.大学を選択する際の要因
5.留学先の大学を選択するための有効な手段
6.留学生市場における主要競合国
オーストラリア、カナダ、ニュージーランドを学士課程留学先に選んだ学生は、大学進学準備のためのコースを受講するため、留学先の大学がある国に滞在する比率が高い。
7.英国の政策立案者と大学への提言
* 持続的な全国的キャンペーン、洗練されたウェブサイトやソーシャル・メディア・ネットワーク等を通じて、英国の大学の持つ重要な競争力である「高い教育の質」に関する広報をより促進すべきである。
* 英国の学士課程進学への意志決定、影響及び進学ルートに関する事例の収集や順番付に対する、より実質的なプロセスを考えるべきである。
* 教育エージェントや教育アドバイザーに、より積極的に接触すべきである。学生の親に影響を与えるには長い時間がかかると思われるが、プロフェッショナル・アドバイザーは、英国の大学が提供する魅力の事例等に、迅速に反応する可能性が高い。
* 学士課程進学を考えている学生は、大学、キャンパス、学科、授業コースが提供できる学習体験の可能性について、明確な実情へのアクセスにますます期待を高めて来ている。英国の最も強い競争力である「教育の質」を、より洗練されたウェブやソーシャル・メディア・ネットワークを利用して、英国の学士課程が提供する真の深さを最も目立たせるようにすべきである。
* 学士課程留学生の大学、経済及びソフト・パワーへの長期的価値を考慮し、留学生が在学中にアルバイトができるようにすると共に、卒業後に英国で就職できる機会を提供する政策を考えるべきである。また、このような経済的価値に加え、留学生が卒業した後の就職機会を増やすと共に、地域社会への融合をも改善することになる。
* 留学生市場における主要な競合国では、大学入学前のパスウェイや学校(筆者注:英語学校や予備校等を指す。)を整備して、多くの留学生を集めるのに成功している。英国でも、このような重要な高等教育へのルートを強化すべきである。
* 英国の大学卒業者の大学院進学、雇用及びキャリアの進捗状況に関する、より包括的なデータの収集方法を検討すべきである。それによって、若い時に高等教育に何年もの投資することへのリターンを提示できるようになる。
8.筆者コメント
* 項目毎に分かれた満足度調査や大学を選択する際の要因調査の結果は、学生が留学先を選択するのに、どのような点を重視しているのかが分かり、参考になると思われる。
* 留学先の大学を決める際に、多くの国で「大学ランキング」よりも「その大学のウェブサイト」「家族」「友人」を最も重要な手段として挙げており、ウェブサイトのより一層の充実が重要である。
* 英国では大学ウェブサイトが最も有効である一方、中国、インド、オーストラリア、ニュージーランド等では、教育エージェントや教育コンサルタントを重視する傾向がある。
* なお、今回のレポートは学士課程の留学生に焦点が当てられているが、英国の高等教育機関の学士課程と大学院課程に在籍する留学生は、EU域内及びEU域外を含み、2013・14年度では435,000名もおり、これは米国に次ぐ世界第2位の数である。
(参考資料: 英国大学協会UK Higher Education International Unit報告書
「International Undergraduate Students: The UK’s Competitive Advantage」