レポート

英国大学事情—2016年4月号「2015年度・英国大学統計資料」<英国大学協会 2015年9月発行資料より>

2016.04.01

山田直 氏 / 英国在住フリーランス・コンサルタント

 英国在住約40年のフリーランス・コンサルタント山田直氏が、新しい大学の生き方を求め、イノべーション創出、技術移転などに積極的に取り組む英国の大学と、大学を取り囲む英国社会の最新の動きをレポートします。

 2015年9月、英国大学協会(Universities UK)は2015年版の「Higher Education in facts and figures 2015」と題する 英国の大学に関する統計資料を発表した。「英国大学事情」では、これまでにも英国大学協会による年度ごとの更新統計資料を報じてきたが、トレンドを把握しておく意味で、最新版である2015年度資料の抜粋を紹介する。

 これらの統計資料は、主にHigher Education Statistics Agency(HESA)が収集した2013・14年度のデータを利用したものである。なお、当「英国大学事情」では紙面の関係上、一部のデータを編集し直している。

1. ハイライト

* 2015年第1四半期における大卒者の平均給与は、16歳から64歳の非大卒者に比べ、41%高い傾向にある。

* 英国の大学における全アカデミック・スタッフの27%は、海外からの着任者である。

* 英国の大学が受け取った研究開発助成金の17%は海外からであり、その内68%はEUからである。

* 英国の大学における研究活動の4分の3以上が、公的評価(REF)にて「world-leading」または「internationally excellent」と評価された。

2. 各地方の大学数、学生数及び前年度比増減率2013・14年度

* 英国では社会人となってから学ぶパートタイムの大学生が約65万名在籍している。2013・14年度において、イングランド地方の学生数が前年比2.2%減となったのは、パートタイムの学生が前年比9.1%も減少したためである。

3. フルタイム・パートタイム別の学士・大学院課程学生数の比率2013・14年度

* パートタイムの学生は博士課程学生の約4分の1、修士課程学生の約半数、学士課程学生の約5分の1を占める。

4. 学科別学生数:学生数の多い学科順2013・14年度 単位:1万名(概数)

* 上記の表には載せられなかった情報として、男女の学生比率が大きい学科がある。例えば、工学を履修している学生の84%は男性であり、ヘルス関連学科では79%が女性である。

5. 出身地別、履修課程別の学生比率2013・14年度

* 学士課程の13%、大学院課程の38%が外国からの留学生である。

6. 出身地別留学生数と増減率2013・14年度

* 2013・14年度に英国の大学で学ぶ留学生数は、前年度比2%増加した。中国からの留学生は全留学生の約20%、インドからの留学生は約5%を占めた。

7. EEA※1からの留学生2013・14年度

※1 EEA/European Economic Area。欧州経済領域。1994年発足。EU(欧州連合)にEFTA(エフタ)(欧州自由貿易連合)のノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインを含めた経済地域。

* 2013・14年度に英国の大学で学んだEEA及びスイスからの留学生は合計133,845名。

8. 留学生の出身国トップ5カ国

(筆者注:グラフから推定した概数)

* 中国からの留学生は過去4年間で54%増加したが、インドからの留学生は同期間で約50%減少した。(筆者注:留学生用のビザ認定が厳格化したことも一因と思われる。)

9. EU域外からの留学生による授業料収入の増加傾向

(1ポンドを160円にて換算)

10. 授業コースに対する学生の満足度

11. 学士課程修了時の成績(性別、フルタイム・パートタイム別)2013・14年度

* フルタイムの女子学生の70%及び男子学生の65%が、First 又は Upper Second(2.1)の成績で学士課程を卒業している。

12. 学位・資格授与数2013・14年度

※2 PGCE/Postgraduate Certificate in Education。教員を目指す学生のための1年間の大学院教職課程

13. 卒業後6カ月時点での卒業生の状況2013・14年度

14. グループ別の失業率及び平均賃金2015年第1四半期(概数)

(1ポンドを160円にて換算)

15. 世界各国の高等教育支出のGDP比率2011年

16. 高等教育機関の収入と支出

※3 HEFCE/Higher Education Funding Council for England

※4 RC/Research Councils UK: Home

* 2013・14年度においては、授業料収入が全収入の42%を占めた。

(筆者注:英国の大学付属病院はNHS[National Health Service]が運営しており、その収入は大学の収入とはならない。しかしながら、大学が派遣する教員やスタッフ等の料金は大学の収入となる。)

(筆者注:上記の収入・支出の2012・13年度と2008・09年度の比率は、筆者が読者の参考までに付け加えた数値である。)
(筆者注:上記の収入・支出の2012・13年度と2008・09年度の比率は、筆者が読者の参考までに付け加えた数値である。)

17. 学科別のアカデミック・スタッフ数2013・14年度

* 2013・14年度、英国の大学は合計191,000名のアカデミック・スタッフを雇用した。

18. 出身地域別、性別のアカデミック・スタッフの比率2013・14年度

* 英国の高等教育機関に勤務するアカデミック・スタッフの27%が海外出身者である。

* アカデミック・スタッフ及び非アカデミック・スタッフを合わせた全職員の内、54%が女性である。

19. 研究開発助成金の助成元比率2013・14年度

* 2013・14年度において、英国の大学が受け取った研究開発助成金の16%が海外からであり、その内、68%がEU域内から来ている。

* 研究開発助成金の総額は前年度比2.3%減少したが、海外からの助成金は前年度比9.3%増加している。

20. 英国政府による研究開発支出のGDP比率の傾向2007−2013年 (概数)

21. 英国政府による研究開発支出額2003−2013年(概数)

* 英国政府の研究開発支出は、2010年から2013年までの3年間で12%減少している。

(筆者注:2009年をピークに英国政府による研究開発支出が減少傾向にあるが、リーマン・ショック後の緊縮財政の影響を受けているためである。)

22. 大学に対する公的研究評価(REF)の分野別結果(概算)2014年

* 2014年に実施された大学への公的研究評価(REF2014)によると、英国の大学の研究成果の4分の3以上が、world-leading(4*)又はinternationally excellent(3*)の評価を受けた。

23. 筆者コメント

* 英国では、社会人となってから高等教育を受けるパートタイムの大学生が約65万名も在籍している。また、パートタイムの学生は博士課程学生の約4分の1、修士課程学生の約半数、学士課程学生の約5分の1を占めている。

* 学士課程の13%、大学院課程の学生の38%が外国からの留学生である。その内、修士課程、博士課程とも、EU域外からの留学生が29%も占めている点は注目される。

* EU域内及びEU域外からの留学生約435,000名の内、中国からの留学生が約20%の88,000名と際立って多く、筆者がいろいろな英国の大学を訪問した際にも、多くの中国人留学生に出会い、中国人留学生のプレゼンスの大きさを感じる。

* EUを含むEEAとスイスを合わせた31カ国の欧州の国々からだけでも13万名を超える欧州人留学生が英国の大学に学んでおり、英国の大学には非常に多様な国からの留学生で満ちあふれていることがうかがえる。

* EU域外からの留学生も、2013・14年度には約31万名が在籍している。その授業料収入は年間約6,240億円に上り、大学の全収入の13%と大きな貢献をしている。なお、EU域外からの留学生の授業料の上限は政府の規定がなく、大学の自由意思によって決定でき、英国人学生授業料の数倍になることもある。

* 2008・09年度のフルタイム・パートタイムを合わせた英国人学生とEUからの留学生からの授業料収入は、大学の全収入の18%であったが、2013・14年には30%と急増している。これに、EU域外からの留学生の授業料を加えると、2008・09年度は27%、2013・14年度は43%と、授業料収入が全収入の中で一番大きな比率を占める。

* これは、リーマン・ショック後の大型財政出動によって、大幅な財政赤字に陥った政府予算を立て直すための緊縮財政策に基づき削減された運営費交付金を補完する形で、授業料の大幅値上げが実施されたためである。

* 2012・13年度より、前年度の3,290ポンド(約53万円)から9,000ポンド(約140万円)と、学士課程学生の授業料の上限額が大幅に引き上げられた。2013・14年度は授業料大幅値上げの2年目であり、2014・15年度の授業料収入の比率は更に大きくなる見込みである。

* しかしながら、英国の学士課程学生は在学中に授業料を納入する必要がなく、政府系機関であるStudent Loan Companyが学生に代わって大学に授業料を納付している。学生は大学卒業後、年間収入の21,000ポンド(約340万円)を超える収入の9%を30年間にわたり返済していくことになる。(1ポンドを160円にて換算)

(参考資料: Universities UK「Higher Education in facts and figures 2015」

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