レポート

海外レポート [シリーズ] 諸外国における製造業強化のための研究開発戦略 〈第7回〉第4次産業革命の本質は何か?−世界の動き、そして我が国が取り組むべき課題

2016.03.01

岡山純子 氏 / 経営企画部 未来創造システムチーム

 この[シリーズ]では、これまで諸外国における製造業強化策について見てきた。最終回にあたる今回は、第4次産業革命ともいわれるこれらの動きの本質は何か、そして日本の取るべき方策について考える。

日本発の生産方式がICTの力を借りて大きく飛躍

 トヨタ生産方式の研究に熱心に取り組んできた米国では、顧客価値創造に向けて業務プロセスを抜本的に見直し、再設計する"BPR(Business Process Reengineering)"という概念が1990年に経営学の一環として打ち出された。

 トヨタ生産方式が、現場でのリアルな生産・業務プロセス管理であるのに対し、BPRはITを用いることを前提に、従来型の業務を見直し、再構築することを追求していった。このような考えのもと、ドイツSAP社のERP(Enterprise Resource Planning)をはじめ、会計、人事、受発注など、企業内におけるさまざまな業務プロセスをIT化することを目的としたパッケージソフトウェアが生み出されてきた。また、2000年頃にはこの取り組みをインターネットとつなげ、企業内に留まらず企業間の取引にまで拡大する動きが出てきた。

 そして今、これまで個々にデジタル化されてきた業務プロセスが、製造現場や顧客サービスとつながり、バリューチェーン全体を最適化できる仕組みへと進化しようとしている。これまでの記事で紹介してきた、EUのManufuture、そしてドイツのインダストリー4.0は、このような流れの中で出てきた概念である。そもそもBPRで目指されていたことが、IoT(Internet of Things)/CPS(Cyber Physical System)等の技術の進展により四半世紀の時を経て実現可能となる道筋が見えてきたことが、現在「第4次産業革命」と称される一つの理由といえよう。

情報産業は第4次産業革命の支配者となるのか?

 あるバリューチェーンの中の基幹的な共通機能を、他社が真似できない質的・量的差別化能力によって支配する。そうしたビジネスモデルを展開する「プラットフォーム・ビジネス」が近年注目されている。その代表格とされるのがGoogleやAmazonである。

 例えばGoogleは、2004年に株式公開(IPO)された当時、売上高が50億ドルに満たない企業であったが、その後右肩上がりの急速な成長を遂げ、2013年には売上高550億ドルにまで達し、その成長はいまだ衰える様子が見られない。2013年の同社の営業利益は220億ドルと、トヨタ自動車とほぼ並んだ。現在、自動走行を含むさまざまな新サービスの仕組みを試行する同社は、ユーザと直接つながることにより、強力なビッグデータ基盤をますます拡充していく中、顧客価値創造に向けた中核をなす機能を担う可能性が高い。

 そして、独占的に顧客情報を握りうることや、自らのプラットフォームに多様なモノやサービス提供者を引き込んで企業間の競争を促し、結果としてモノ・サービスの価格を引き下げる力を発揮する等、市場における交渉力が強い点等が製造業にとって大きな脅威となり得る。先に紹介したドイツのインダストリー4.0を牽引しているのもSAP社の元会長である。情報産業は第4次産業革命の支配者となるのだろうか?

製造業発のプラットフォーム・ビジネス~インダストリアル・インターネット

 製造業の立場から川下のサービス領域を強化することによりプラットフォーム・ビジネスを目指す取り組みも出てきている。GE社が提唱するインダストリアル・インターネットが好事例として注目される。

 同社は、航空機、医療機器、発電機器等の産業機器を製造してきた。この取り組みを一歩進めて、これら産業機器がユーザ企業でどのように利用・運用されているかモニタリングを行い、「効率的な資産管理を支援するシステム」を開発した。このシステムがクラウドで個々のユーザ企業とつながる中、GEとユーザ企業との間で機器の使用情報を共有し、より効果的な資産活用方法について共に検討していくことを目指す。これにより、ユーザ企業はコスト削減効果を享受する。一方、GEは各ユーザ企業の使用情報を束ねたビッグデータを持つことで、自らの提案力を高めることができる。

 ハードウェア企業からソフトウェア企業へと変貌することを目指すGEは、「製品」を持つ強みを生かしながら「産業機器の資産管理」という切り口からプラットフォーム・ビジネスを展開する道筋を模索している。また、同社が中心となり発足させた、IoTの標準化について検討する団体「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム」は、200機関以上が参加する組織へと成長している。

我が国が取り組むべき課題 ~ものづくりと経営・ICTの融合が必要

 第4次産業革命を巡る動きの中で特に注目されているインダストリアル・インターネット・コンソーシアムとインダストリー4.0の関係を下図にまとめる。

図.インダストリアル・インターネット・コンソーシアムとインダストリー4.0の関係
図.インダストリアル・インターネット・コンソーシアムとインダストリー4.0の関係

 製造から顧客に至るまでのバリューチェーンがインターネットを介してつながる中、ものづくりにおける課題は複雑化している。まず、IoTやビッグデータ等を活用したユーザの潜在ニーズの把握やユーザとのコラボレーションを通じて、新製品の企画力を向上させることが必要となる。また、1990年代以降情報化が進められてきた業務システムとデジタル設計・生産技術の融合による経営効率の向上や、新製品の市場投入までの時間短縮等、デジタル技術を駆使して生産システムを更に高度化することが求められる。さらには、プラットフォーム・ビジネスという情報産業により牽引される変革への対応も必要となってきている。

 上述のような変化が生じる中、我が国の強みとされるものづくりをITと経営学の融合領域と捉え直し、次世代を担う基盤づくりが必要であろう。より詳しい内容については、「次世代ものづくり高付加価値を生む新しい製造業のプラットフォーム創出に向けて~」にとりまとめた。ご関心ある方は、ぜひ一読いただけたら幸いである。

(「次世代ものづくりの戦略プロポーザル」(JST/CRDS)をもとに作成)

関連記事

ページトップへ